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『次元融合』〜ゲームに侵食された世界【不屈の冒険魂ISAO外伝】  作者: 漂鳥
第5章 踏破

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44 破魔

 

 老婆が小屋から出て行き、俺たち三人だけになった。


「これって、さっきの話にそっくりだね」


「そうだな。『決して覗くな』ってことは、イベント進行的には逆をやれってことだよな?」


「でしょうね。奥の部屋を覗いて死体があれば、ここから逃げ出したら追いかけてくるんじゃないかしら?」


 ということで、早速行動に移す。


「うへえ。骨だらけだ」


 予想に違わず、奥の部屋には山積みの白骨死体があった。


「じゃあ、逃げ出すぞ」



 外は既に陽が落ちて、月が昇っていた。小屋を出て巨石から離れ、北への街道に向おうとしたところ、早速、怒りの形相の老婆が姿を現した。


「約束を破ったね。許さないよ! 喰い殺してやる!」


 そう言い放つと、みるみる内に老婆の変化が始まった。ざんばらな髪が獅子のように伸び、小柄だった老婆の身の丈が見上げるほどになる。柔和だった顔は凄まじい鬼面へと変わり、髪を振り乱したその様はまさに鬼女そのものだ。


「任せろ!」


 すっかり武装を整えたレオが、妖怪特効のある【鬼面の盾】を構え、香里奈を庇うように前に出た。予め、対妖怪装備を使うことを決めていた。どこまで有効かは分からないが、多少なりとも敵を弱体化させられればもうけものだ。


 俺も、対妖怪の武器である【鬼丸】を構える。そして精神攻撃スキルである【N幻惑】を放った。


 〈ブウォン!!〉


 振動音と同時に、俺の身体全体が金色に光り始める。光の雫が弾けるように散り、輝きが増していく。そして、大きな二翼の翼が現れ、急速にその輝く羽を広げていった。


 目の眩むような閃光。


 辺りが一瞬、昼間のように明るくなる。鬼女の動きが止まった。その隙に、俺は風を巻き起こし、頭上の虚空へと一気に舞い上がった。【N幻惑】が効けば、ある程度は戦意が失われるはずだ。最悪、目くらましでもいい。


 おおっと!


 鬼女の背後に降り立った俺に、暴れ出した鬼女の剛腕が横薙ぎに振るわれた。風圧が寄せてくるが回避が間に合い攻撃は届かない。


「こっちだ! 【挑発(タウント)】!」


 レオがヘイトを稼ぐスキルを発動し、鬼女の注意がレオに移った。そして、レオと鬼女が戦闘に入る。鬼女がレオに迫り、繰り返し激しく殴打するが、上手く盾で防いでくれている。


 ……とりあえずは大丈夫そうだ。


 じゃあ、レオが時間を稼いでくれている内に、これを使ってしまおう。亜空間から、この時のために確保したアイテムを取り出す。


 【如意輪観世音菩薩(黄金像)】


 観音菩薩像は全体に金色の燐光を放ち、ここぞとばかりに明滅していた。これで不死身化と創傷治癒を防げるはず。


 頼むぞ!


 そう強く念じると、俺の手の中にあった観音菩薩像がフワリと空へ舞い上がった。そして、放射状に金光を放ちながら姿を大きく広げ、滑らかな動作で弓に矢をつがえる動作に移る。


 〈ブゥォォーン!〉 風切り音と共に、虹色の尾を引く矢が放たれ、一直線に鬼女へ向かう。


 よし! 命中だ!


 〈グゥォォッゥ!〉 矢をその背の真ん中に受けた鬼女が、凄まじい雄叫びを上げ、その大きな背を仰け反らせて(うめ)きご声を上げている。


 振り仰ぐと、既に観音菩薩像の姿は消えかけていた。そして、その姿が完全に消えるのと同時に、俺の手に一張の白木の弓と虹色に光る矢が現れた。


【破魔の白真弓/金剛の矢】観世音菩薩の加護を受けた破魔の弓矢。魔物の特殊能力を抑制する。


 これは、早速使った方が良さそうだ。


「香里奈、送ったぞ。受け取れ!」


「了解!」


 俺には上手く使えないから、一旦亜空間にしまい、弓術スキルを持つ香里奈に転送する。こういう時はゲーム仕様が便利だ。


「行くぞ!」


「「おう!」」


 レオが盾を構えながら、挑発を繰り返し、安定した構えで正面から鬼女の攻撃を受けきる。


 後方にいる香里奈が弓矢で牽制しながら鬼女の特殊能力を抑える。


 そして、俺が鬼女の隙を突き、急所を狙って刀を繰り出す。接近すると鬼女の攻撃が風圧となって頬を掠めた。これは直撃は避けたいな。


 鬼女は膂力(りょりょく)と体力に優れ、激しい攻防が繰り返された。


 〈ドゴォッ!〉 鬼女の剛腕が勢い余って地面を割り、バランスを崩した。


 そこへ思い切って深く踏み込む。


 よし、届く! 重心を下げ、鬼女の膝裏を()(さば)く。いった! もう一度! 支えを失い、地面に膝をついた鬼女の背に、追撃の一太刀を浴びせた。肉を切る重い手応え。エフェクトの赤い飛沫が散る。


 動きの鈍った鬼女に矢が命中し始めた。レオが守りから攻撃に転じ、ここぞとばかりに大剣を振るう。もちろん俺も追撃を加え、そこからはひたすら三人で敵のHPを削った。


 ……多勢に無勢で悪いな。お前に恨みはないが、俺たちは北へ行く。だから、遠慮なく倒させてもらう!


 そして、ついに鬼女は力尽きて地に伏せ、光となって宙に消えていった。


「やっと倒せた」


「観音菩薩像があってこれじゃあ、なければ到底無理だったな」


「お疲れ様〜。しんどかったわね」


 鬼女の消えた後に残されたのは、


【泣き鬼面】一定時間鬼人化(力上昇・体力上昇・超回復・痛覚麻痺・狂戦士化)する。


 これは……使いどころの難しそうなアイテムだな。とりあえずしまっておくか。



 これでMAPの封鎖が解けたはずだ。やっとこれで北へ向かえる。


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