39 湖畔
準備を整えた俺たちは、夜明けを待って西の方にあるという龍神湖を目指して旅立った。
道中は蛇や亀などの爬虫類系の魔物が多かったが、2人で対応すれば、特に苦戦もせずに倒すことができた。ここまでの旅で、だいぶ連携が良くなっている。
さすがに距離があるので、途中で昼休憩を取ったが、それ以外はこのスタミナのある身体に任せて歩き続けたところ、まだ陽が高い内に、龍神湖と思われる大きな湖を発見することができた。
「源次郎、湖だ!」
遠くからでも、湖面の煌めきがわかる。かすむ水平線。でかいな。海と見紛うような湖だ。
書き換えられたMAPを確認すると、やはりかなり大きな湖であり、中央に島らしきものが見える。湖の名前は……「龍神湖」で間違いないようだ。
かなり調べるのに時間がかかりそうだ。
「陽が暮れる直前まで、辺りを調べてみるか」
「そうだね。何か取っかかりが見つかるといいなぁ」
*
それから、湖の周囲を探索してみたが、空振りに終わった。
「ないね。ここまで来れば、新しい手がかりが出てくるかと思ったのに」
「舟を手に入れるクエストか、湖を渡る方法についてのヒント。そういったものがあってもよさそうなんだが」
進入禁止エリアに行き当たり、途中で引き返すことになったが、進入できるエリアは全て見て回った。見落としはおそらくない。何かがまだ足りないのか?
「仕方ない。今日はここで野営するか」
そう決めて、湖畔で野営の支度をしながら、水平線に沈む夕陽を眺める。大きな太陽が徐々に赤みを帯びていく。
「湖に夕陽が照り映えて綺麗だな」
「そうだね。でもさ、夕陽って、こんなに赤かったっけ?」
「ゲーム世界だしな、そこは演出……」
「変じゃない? 湖の色」
先ほどまで朱色に輝いていた湖面の様子が、明らかにおかしくなった。
真っ赤だ。
これはどう見ても夕陽を映した色じゃない。
「気味が悪い……血の色みたいだ」
レオの言うように、湖は全面、まるで血を注ぎ込んだかのような異様な赤に染まっていた。
そして、先ほどまで穏やかだった湖面が、風もないのに急に波打ち、荒れ始めた。
「なんか来る!」
ゴボゴボッと水面が勢いよく泡立ち、湖から何か大きな質量を持つものが迫り上がってくる。
ゴゴォォ! そして、激しい水音と共に、水面を割るようにして、ぬらぬらと照り光る黒ずんだ怪物が現れた。
「……鰻?」
「うわー。まさかこれが龍とか言わないよな? なんなのこいつ?」
その巨大な鰻のような怪物は、てっきり俺たちを襲うために出てきたのかと思ったが、なんだか様子が変だ。
そう思ったところで、
「もう1匹、なんか出てきた!」
怪物を追うように、1体の細く伸びる青い影が湖中から飛び出してくる。
「龍だ!」
宙を泳ぐように現れ、巨大な鰻の怪物と対峙するのは、まさに日本神話に出てくるような「龍」。それも目の覚めるような青い色をした龍だった。
「戦ってる?」
ギョァォォオ! 怪物が龍に威嚇の声を上げ、尾を振って暴れ始めた。それに龍が応戦する。
すると、レオが耳に手をやって何かを聞いているような素振りを見せた。
「源次郎! 声が聞こえる」
声?
「俺には何も聞こえないぞ」
「たぶん、あの龍の呼びかけみたいだ。一緒にあの鰻を倒そうって言ってる!」
……そういうことか。
「レオ、おそらくこれがレオのクエストの始まりだ」
そうじゃないと困る。
「俺、行ってくる!」
「ああ。思いっきりやってこい! 俺はこの辺りで待ってるから」
レオは大剣を取り出したかと思うと、すぐに飛び出していった。
……こんなクエストの始まり方もあるのか。なかなか凝った演出だな。おそらく後は流れに任せていけばいい。
頑張れよ、レオ!




