36 暗示
「レプティルの街へようこそ」
そんないかにもゲームらしい挨拶を門衛NPCから受ける。そして、最初にレオと一緒に街中をグルッと一周してみた。思っていたよりも大きな街のようで、立ち働くNPCの数も多い。
「ここ、安全そうじゃない? たぶんだけど」
「俺もそう思う。手分けして情報収集をしてみるか」
一旦2人で街の中心部に行くと、広場脇にハンティングギルドの建物を見つけた。
しかし、中へ入ってみると、食堂には料理人NPCがちゃんといるのに、肝心のギルドカウンターの中は空っぽで、人……いや、受付のウサギの姿はどこにもなかった。
試してみたが、ギルド機能も一部しか使えない。メッセージ機能は試したがダメだった。まだそこまで実装しきっていない。そういうことか?
待ち合わせ場所をギルドの食堂にして、それから手分けして、各自情報収集して回ることにした。
「金色に光る泉? ああ。それなら『金光山』にあるという『金華泉』のことかもしれないね」
「金光山? それはどちらにありますか?」
「ここから北東にしばらくいくと、白っぽい岩でできた岩山がある。それが金光山さ」
「泉はその山のどこに?」
「さあて。詳しくは知らないけど、麓の辺りでは見かけなかったねえ」
夢の中に出てきた泉と山の情報を得て、ハンティングギルドに戻る。すると、待ち合わせ場所に、興奮した面持ちのレオが走りながらやってきた。
「源次郎! きた! 俺の血脈覚醒クエスト。凄く怪しい場所がある。きっとそうに違いないよ」
*
「龍神湖」
ここから西へ半日弱歩いたところに、大きな湖があるらしい。
そして、その湖の底には、かつて龍人族が住んでいたと言われる街が沈んでいる。レオが聞いてきたのは、そういった伝承だった。
……確かに怪しいな。というか、ずばりそのもの?
いずれにせよ、この街でそういった情報が出てきた以上、一度は確かめに行かないとまずいだろう。
さて、金光山と龍神湖、どちらを先にするか。
「源次郎、先に金光山に行こう」
「それでいいのか?」
「うん。俺もあの変な夢は気にかかるし、このゲームは、素直に出てきた順に攻略していった方が上手くいくような気がするんだ」
確かに。それは一理あるかもしれない。
シナリオで用意された流れに沿って進む。いわゆる「RPGらしさ」が色濃いこのゲームでは、それが一番上手くいく。これまでの経験から、そういった印象を俺もレオも持っていた。
「金光山は、ここからそれほど遠くないらしい。早速行くか……といきたいところだが、さすがに今日はもう遅い。この街で宿をとって、明日の朝に向かおう」
「宿か。久しぶりだね。この街の宿はどんなかな」
*
「いらっしゃいませ。おふたり様ですね。お部屋はいくつご用意致しますか?」
「ふた部屋頼む」
今回は、ハンティングギルドの宿泊施設が機能制限で利用できなかったので、街の中心部近くにある比較的大きな構えの宿屋に泊まることにした。
受付の若い女性NPCが、部屋まで案内してくれる。
「食事は下の食堂でお出しできますので、声をおかけ下さい」
夕食の際も同じ女性が給仕をしてくれたので、話題を振ってみる。
「何かこの辺りに、伝承というか言い伝えや、不思議な話などはありませんか?」
金光山や龍神湖について追加情報が出れば儲け物……そう思って聞いたのだが、
「不思議っていうか、怖い話ならあります」
「怖い話?」
「はい。ここからずっと北の方に進むと、怪しい岩屋があるんだそうです。そこには、人食いの鬼が住んでいて、旅人を襲って食べてしまうとか」
予想とは全く違う話が出てきた
「それは確かに怖いね。そんなに危ない鬼なら、誰か退治しようとする人はいなかったの?」
「それが、その鬼は不死身の身体を持ち、斬っても斬っても与えた傷が治ってしまうとか」
「それは厄介だな。そういう敵をどうにかするいい方法は伝わってないのかな?」
「言い伝えでは、鬼を退治するには、破魔の弓矢が必要だと聞いたことがあります」
「破魔の弓矢?」
「はい。観世音菩薩様の加護を受けた破魔の弓矢だという話です」
*
なるほど、RPGだ。ここで話が繋がった。
水堀の館で手に入れたのが、これ。
【如意輪観世音菩薩(白木像)】法力の器となる。法力を抜かれ、今は何の力も持たない。
……法力を抜かれたという観音菩薩像。
夢の暗示もある。
そして、鬼の伝承にある破魔の弓矢。
これは、これから北を目指すためには、必ずクリアしなければいけないクエストってわけか。
「じゃあ行くか」
「おう!」
翌朝、予定通り俺とレオは金光山に向けて出発した。