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『次元融合』〜ゲームに侵食された世界【不屈の冒険魂ISAO外伝】  作者: 漂鳥
第4章 怪異

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32 霊泉

 

 5人で編成された調査班は、幸い特に危険な目に遭うこともなく順調にトンネル内を進み、その行き止まりにある「ノームの隠れ里」を発見するに至った。



「天馬の伝承についてお知りになりたい? そのために、わざわざこんなところまで?」


 ノームは身長100cm程の小さな人たちで、性格は非常に温厚。突然来訪した調査員のプレイヤーに対しても友好的な態度で接してくれた。


「そうなんです。我々が調べた本には、1人の少女が精霊族の方たちと親交を深め、それにより天馬の元に導かれたとあります。その辺りのことについて、何かご存知ではないでしょうか?」


「……ふむ。人族の本にそんな逸話が。我々のところには、そういった形になったものはありませんが、天馬に関する言い伝えは残されています」


 白く長い髭を生やしたノーム族の長老の話では、天馬は天馬山の中腹にある「馬の泉(ヒッポクレーネー)」という霊泉に気紛れに姿を現わすという。


「そんな泉が?」


「ええ。行くのはそれほど大変ではありませんが、ただ待っているだけでは天馬に出会えるとは限りません」


「天馬が出てくる、何か特別な条件があるのでしょうか?」


「言い伝えでは……」


 その泉で、清らかな乙女が天馬の好む虹色の衣を身につけて待っていると、天馬に気に入られてその背に載せて貰えることがある。


 そんな話だった。


「虹色の衣ですか? それはいったい……」


「それについては心当たりがあります。ついて来て下され」


 長老に従って集落の外れまで行くと、そこには外へ出る洞窟の出口があった。そして、そこを潜ると、周りを崖に囲まれたこんもりと木々が生い茂る森のような場所に出た。


「山の中にこんな場所が?」


「ここは、我々に森の恵みを授けてくれる場所であると共に、聖域でもあります」


「聖域ですか? 何か聖なるものが祀られているのでしょうか?」


「はい。あなた方の中にも、どうやら神に仕える職業の方がいらっしゃるようですから、見ることができるでしょう。ここを住処とする聖なる生き物の姿を」


 そう言われて、調査班の面々が目を凝らして周囲を観察すると、


「あっ! あれでは?」


 そう声をあげた若い騎士の指し示す先に、まるで真綿のように真っ白な1体の大型の蜘蛛を見ることができた。


「あれは蜘蛛ですか?」


「そうです。聖蜘蛛『ラルカルニエ』。虹色の糸を出すことからそう名付けられた、この森に住む聖なる蜘蛛です」


 長老の話によれば、ラルカルニエが出す糸は通常は虹色を帯びておらず、真っ白だという。しかし、滋養のある特別な食べ物を与えると、少量ではあるが虹色の糸を出すようになるということだった。


「滋養のある特別な食べ物とはいったい?」


「我々の天敵である『ギガントポイズン・アント』。その(さなぎ)がそうです」



 ギガントポイズン・アントは、この天馬山の土中に巣を作る凶暴な肉食の蟻で、餌が手に入りにくい季節になるとノーム族を襲うことがあるらしい。


 早速、討伐隊が組まれ、ギガントポイズン・アントの巣を探し、(まゆ)に入っているという蛹を確保するという攻略が始められた。



「荒っぽいけど、目的が地面の中じゃあ、こうするしかないわよね」


 〈地盤粉砕(グランドブレイク)!〉


 発見された蟻の巣の入口周辺の地面が、大量のMPを投入した土魔術により、深く大きく陥没する。周囲には弾き飛ばされた土砂が積もり、まるで噴火口のようだった。


「思いっきりいきましたね。でも、結果は上々のようです。この調子で産卵室を探しましょう」


 巣が破壊され激怒して湧き出てくるギガントポイズン・アントを倒しながら、巣の破壊は着々と進み、ようやく突き止めた産卵室に侵入して蛹を確保することができた。


 それからは、ノームの人たちに依頼して虹色の糸を集めてもらい、糸紡ぎと機織り、そして衣服の縫製まで、一連の工程を熟練のノームの職人によって仕上げられた虹色のドレス。ようやくそれを手に入れることができた。



 *



「カイト、思った通りよく似合うわ」


「ユリアさんにそう言われると、男として非常に複雑な気分です」


「いや、本当に似合う。清らかな乙女そのものじゃないか。ユリアに彼の化粧を頼んだのは正解だったな」


 女性であるユリアの手によって、入念に計算された化粧を施されたカイトは、まだ16歳という若さと本格的な成長期を迎える前の線の細さが幸いして、どこから見ても可憐な少女にしか見えなかった。


「清楚メイクは、修道院時代に研究し尽くしたから。こんなところで役に立つとは思わなかったけど」



 そして、既に探し当てていた「馬の泉(ヒッポクレーネー)」で待つこと3昼夜。


 そこに降り立った一頭の雄々しい天馬に懐かれ、頬ずりされながら無事テイムに成功したことを告げるカイトにより、ISAOの「天馬騎士団」の歴史は始まった。


 カイトに続けとばかりに、最初のテイムの成功以降、秘蔵の虹色のドレスを身につけた東方騎士団の騎士団員たちは、天馬との契約を密やかに次々と進めていった。


 特に箝口令を強いたわけでもないのに、団員たちの口は一様に堅く、情報はその後長期に渡って、騎士団内で秘匿されることになる。


 そうして、「東方騎士団」が正式にその名称を「天馬騎士団」に改めた頃、彼らは天馬山を越えて、下北半島の刃状部分、「むつエリア」の攻略を開始した。

次回から主人公の話に戻ります。

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