24 開通
〈開通クエスト〉が成功し、「ミース」から「クウォント」へ、転移オーブを介しての移動が可能になった。
これからしなければいけないことを整理すると、以下の3項目になる。
・ひとつ目は、父やその同僚たちのレベル上げ
・ふたつ目は、食料の供給
・三つ目は、ミースで起こるイベントについての情報収集
ハル兄弟が、わざわざエヴリンに立ち寄って、ミースで起こるイベント用のアイテムを入手したのには理由がある。
トレハンCWの各街は、それぞれに特色がある。そして、RPGゲームらしく、プレイヤーの成長に合わせて順次進んでいくようになっていた。
・「オルレイン」: 正式ゲームのスタート地点。平原の街。チュートリアル的なクエストが多く、基本的な装備品やアイテム、スキルスクロールが手に入る。
・「ウォルタール」: 正式ゲームで2番目の街。湖畔の街。漁業・商業が盛んで、受注できるパーティクエストの種類が一気に増える。
・「ノア」 海沿いの街。 βテストのスタート地点。 最初の防衛イベントが発生。
・「エヴリン」 農業の街。ミースでのイベントアイテムが手に入る。
・「クウォント」 山裾の街。最初の〈開通クエスト〉が発生。
・「ミース」 工業の街。船ルート開通。2番目の防衛イベントが発生。
ミースの街は、工業系の生産拠点として重要な場所で、街中には各種工房が多い。従って、生産に従事するNPC職人の数も多かった。
中でも盛んなのが、鍛冶と彫金だ。次第に強くなってきたMAPを進むために、装備をランクアップさせる……この街は、そのためにあると言っていい。
だから、この街が使えなくなると、非常に困る事態になる。
ハルさんたちの弟さんも、実は【鍛冶】スキルを持っていた。この街に飛ばされたのと、もしかすると関連があるのかもしれない。
話し合いの結果、父・俺・レオの3人は、一旦「クウォント」に戻り、闘う気のある人たちを集めてパワーレベリングをする。そして、ハルさんたち4人は、「ミース」で情報を集めながら同様に有志を募り、必要ならレベル上げをすることになった。
*
目の前の台に設置されているのは、転移オーブだ。既に起動は済ませてあり、いつでも使える状態になっていた。
サイズはサッカーボールくらい。結構大きい。つるんと丸い球形をした銀色の玉で、左手で触ると、仄かに暖かい。
《「クウォント」へ転移します。利用料金は、50,000Y。転移しますか?》「Yes.」だ。
一瞬で違う部屋にいた。
壁の色が同じだったら、違いに気づかなかったかもしれない。
「もう、クウォントに着いたのか?」
「おそらく、そうみたいだ」
俺に続いてレオが、最後に父が転移してきた。
「さて、ここからは、父さんの出番かな」
「人集めか。以前に声をかけた時は、反応が鈍かったんだが」
「もし集まらなかったら、それはそれで仕方がない。父さんと同僚の人たちだけでパワーレベリングをしよう。それを見たら、気が変わる人も出てくるかもしれないし」
「結局、全部で何人いるんだったけ? 警察官だった人って」
「私を入れて、男性4人と女性3人。合わせて7人だ」
男性4人の内訳は、管理職は父1人、交通機動隊が2人、刑事部が1人。そして、女性3人の内訳は、総務部が1人、生活安全部が2人。警察組織のことはよくわからないけど、全員が闘うのに向いているってわけじゃないみたいだ。
「じゃあ、2パーティできるのか?」
「種族やスキルにもよるから、本人の希望を聞いてみないとなんとも言えないかな」
「そうか。なら、おじさんの知り合い以外にも、もうちょっと人が欲しいよな」
「そうだな。いざという時に動ける人は多い方がいい。でも、無理強いはできないから、難しいところだ」
*
最初のパワーレベリングに参加したのは、俺とレオ。父と3人の男性警察官に女性警察官1人。そして、それ以外のプレイヤーが男性2人と女性1人。合計10人だった。
「じゃあ、2つに班分けします」
10人を2班に分け、それぞれパーティを組んだ。
父を除く警察官4人は、レオの班に入ってもらった。膂力•体力共にある種族の男性3人と、光魔法を使えるR種族の戸山さん。レオ以外は全員武道経験があり、パワータイプの構成になった。
◆1班
レオ SR 蒼龍族
大久保 獅子族 (交通機動隊)
喜久井 狼族 (交通機動隊)
諏訪 鬼人族 (刑事部)
戸山 R 青鷺火族 (総務部)
そして、残りの参加プレイヤーと父が俺の班。軽戦士の俺、斥候係の父、重戦士の河田さん、風魔法と弓術が得意な若松さん、回復魔法を使えるR種族の成瀬さん。バランスタイプの構成だ。ちなみに、成瀬さんは女性。
◆2班
俺 SR 金鵄族
父 R 八咫烏族
河田 蜥蜴族
若松 妖精族
成瀬 R 素兎族
パワーレベリングに使うモンスターは、蟹モンスターにした。探しに行かなくても川沿いにいくらでも出てくるし、レオと一緒に散々倒したので、動きを読みやすいのがその理由。
そして、俺の班では、レベリングの優先順位を前衛→後衛の順にした。まず、壁役になれる河田さんと、斥候系だがR種族の父のレベルを先に上げる。パーティを組んでいるので、あとの後衛2人にも、ある程度の経験値は入る。
全体にレベルが上がったら、後衛の強化だ。その方針で、みんな納得してくれたので、早速始めることにした。
最初は、俺がモンスターを徹底的に弱らせてから、彼らに止めを刺してもらう。安全第一だ。トレハンはデスペナルティがあるので、死に戻りはなるべく避けたいからな。
「レオ、調子はどうだ?」
「メチャメチャ順調。戸惑っていたのは最初だけ。もうみんなバンバン倒してる。警察官すげえ」
「そうか。こっちも割と順調だ。役割分担がハッキリしているから、やりやすい」
「この調子なら、目標のレベル15もすぐかもね」
「そうだな。みんなやる気があるから、予定より早く終わりそうだ」
「街の他の人たちは、どうするの?」
「難しいな。自ら動かない人が多過ぎるからな」
「あの人たち、いつも何してるの?」
「さあ? 街中の依頼を受けて稼いでる人もいるみたいだが、それは酒代のためみたいだし。あとの人は、何もしないでギルドでウロウロしてるか、教会に行くか……そんなところかな」
「教会かあ。神様を信じてるってわけじゃないんでしょ?」
「ああ。説法を聞きに行ってるわけじゃない。教会の敷地内はメンタルプロテクトが他より強力だから、それを利用しに行ってるだけだ」
「不安な人が多いってこと?」
「教会に行ってる人は、特にそうだろうな」
「じゃあ、ギルドにいる人は?」
「彼らは、こうなった責任が誰にあるのか、それを問答しているみたいだ」
「責任って?」
「なぜこんなことになったのか? どうして防げなかったのか? 日本政府は助けに来るか? そんな話だ」
「それを話してどうなるの?」
「どうにもならないんじゃないか?」
「だよね。俺だって疑問には思うけど、話をしているだけじゃ前に進めないじゃん」
「レオは、欧米人型の思考なんだな」
「なにそれ?」
「例えばなんだが、病気になったとき、病院に行くだろ? 欧米人は、医者にまずこう質問するんだそうだ。『どうすれば病気を治せますか?』って。それが欧米人型思考」
「じゃあ、日本人は?」
「日本人は、最初にこう質問する。『どうして私はこの病気になったんですか?』って。それが日本人型思考。治療法の前に原因が気になる。なぜ自分がそんな目にあったか、知りたがるんだそうだ。もちろん、日本人全員がそうじゃない。そういう人の割合が多いっていう話らしい」
「じゃあ、ギルドにいる人たちは、まだ最初の質問で止まってるってことなのか」
「そうなんだろうな。パワーレベリングへの参加も、『どうして俺たちがそんなことをしなきゃいけないんだ。』ってハッキリ断って来たし、動く気はないんだろう」
「じゃあ、仕方ないよな。俺たち、パワーレベリングが終わったら、『ミース』に行っちゃうけど」
「ああ。あっちのイベントが心配だ。早くハルさんたちと合流しないとな」




