表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『次元融合』〜ゲームに侵食された世界【不屈の冒険魂ISAO外伝】  作者: 漂鳥
第2章 模索

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/86

15 試練

 


「ここじゃないか?」



 あれから、かれこれ3日。今日ダメだったら北へ向かおう……という日になって、ようやく俺たちは、これという怪しげな場所を探し出すことができた。


 そこは、海岸線から北西方向にかなり進んだ深い渓谷。


 渓谷を進むと急に日が陰り、強い風が吹き付けてきた。そして、まるで俺たちを待っていたかのように、むくむくと成長した積乱雲がみるみる空を覆い、急激に辺りが薄暗くなってきた。今にも雨が降ってきそうだ。


「源次郎、身体がぼんやりと光ってきたよ」


 レオに言われてみて気づいたが、体表面から、淡い金色の光が揺らめくように立ち昇っている。


「レオ、ここから先は俺一人で行ってみる。この場所が正解で、〈血脈覚醒〉クエストが始まれば、悪いがしばらく待たせることになると思う」


「うん、分かった。朗報を期待してる」



 ここでレオと別れた。


 1人になり更に奥へ進むと、風がますます強くなって、山肌を削るような突風が吹き上げていく。


 ……かと思うと、いきなり、ピカッ! と眩しい閃光が走り、その直後にドォォオオンという重低音の雷鳴が鳴り響いた。近くに雷が落ちたのか? 


 ……本当にここを進むのかよ。



 *



 雷鳴が轟く中、警戒をしながら進んで行くと、ふいに画面が切り替わるように、強い風の吹き上げる谷間に出た。



 《 Take your chance! 〈血脈覚醒〉の試練到来! この試練を受けますか?》


 ➡︎[Yes.]


 ➡︎[No.]



 もちろんYes.だ。しかし、このゲーム、中途半端に英語が出てくるな。まあ、全部英語で言われても困るんだけどさ。


 Yes.を選んだ途端、俺の身体は周囲を取り巻く風に強引に巻き上げられ、はるか上空に吹き飛んでいた。



 おわっ! いきなりかよ!



 《session1. これから、instruction「風乗術①」の模範動作を開始します。》


 インストラクション。指導ってことか?



 《接続》



 そのアナウンスと共に、俺の身体は俺の意志を完全に離れ、操り人形のように勝手に動き始めた。身体が動く感覚は感じ取れる。だが、自分の意志で動かすことは全くできない。五感も残っているようだが、非常に変な感じだ。


 そうしてAI? に操られた俺は、流れるような動作をしながら、弧を描くように空中で滑空し始めた。そして急降下して着地。


 そしてまた、ひと息つく間もなく、上空へ飛ばされる。うおっ!


 ひたすらこれの繰り返しだ。


 ……これは、この動きを身体で覚えろってことか。いいだろう、幸い身体を動かすのは得意な方だ。やってやろうじゃないか。



 *

 *

 *



 あれから何回もインストラクションを繰り返し、やっとスキルの使い方が分かってきた。


 しかし、この身体がゲーム性能で本当によかった。もし生身のままだったら、三半規管が保たなくて、おそらく何度も吐いている。そこは身体能力だけじゃカバーできないからな。



 続く、instruction「風乗術②」では、「接続」とやらが切れ、先ほど学習した動きを自力で再現してみせろと指示された。


 あれほど身体に動きを馴染ませたにも関わらず、自らやるとなると、やはり勝手が違う。何回も無様な落下を繰り返したのちに、ようやくイメージした通りに、スムーズにスキルを扱えるまで会得することができた。



 すると、


 《次のsession に進みますか?  ※全てのsessionを終了後には、任意のsessionを、随時受けることができるようになります。》


 ➡︎[Yes.]



 ➡︎[No.]



 そろそろ次にいってもいいか。Yes.と。



 《session2. これから、instruction 「操風術①」風を感じる を開始します。》


 《「操風術①」では、空気の流れを感じ取ることを習得します。始めに、目を閉じましょう。そして、自分の身体の体表面に意識を集中して下さい……》



 俺は、声の指示するまま、ゆっくりと目を閉じた。



 *

 *

 *



 あれから、


 ・instruction「操風術②」風を捉える


 ・instruction「操風術③」風を動かす


 ・instruction「操風術④」風を操る



 というように、段階を踏みながら「操風術」の習得コースを先へ進んだ。


「操風術②」を終了し、続いて始まった「操風術③」では、風を動かして上昇気流を起こし、その気流に乗って舞い上がる……という訓練をした。ここが一番難しく、時間も長くかかった。


 最初はどう頑張っても、そよ風のような気流しか起こせず、ため息の連続だった。


 しかし、意識を集中して感覚を研ぎ澄まし、粘り強く操作を繰り返していく内に、次第に気流は勢いを増し、ふとした瞬間に、ドンッ! と強い気流を吹き上げることに成功してからは、順調に気流を操れるようになった。



 その次の「操風術④」では、思うままに風を起こし、それに乗って滑空したり、速度を変えて急降下したりするなど、空中を自由に動き回る訓練だった。まるで空中でサーフィンをしているみたいで、ここまでくると、かなり楽しくなってきた。


 そして、最後。session3.


 これまでの総仕上げということで、仮想敵(ダミー)との模擬戦だ。


 模擬戦は、対地上戦と、空中戦の2種類。


 対地上戦では、空から急降下して、地上にいる敵に攻撃を仕掛けたり、逆に地上からの対空攻撃を回避したりと、上からの視点で動きを制御するものだった。


【N俯瞰】スキルが優秀で、地上の動きの把握が容易く、そして詳細にできるため、かなり機動力のある動きができる。


 一方の空中戦では、虫だったり、鳥だったりといった飛行モンスターを相手にして、横軸を中心に動き回り、次々と襲ってくる敵を、現れては倒し、現れては倒しの連続だった。


 ふぅ。息つく間もあまりない。


 敵は、徐々に大きく、強く、そして速くなっていく。……そして、とうとう出てきたよ。



 飛竜だ! デカい!



 間近で見ると、体長8mくらいか。その羽を広げた姿は、横に10メートル以上ありそうだ。そして、2メートルはありそうな長い首からは、チロチロと火を吹いている。。


 飛竜がこちらに近づいてくるだけで、風圧を受け、身体がぶれる。バランスを取るのが難しい。



 くそっ!



 向かってくる飛竜の正面から上方に回避し、そのまま宙で一回転して飛竜の背へ……と思ったら、そう簡単にはいかず、避けられてしまった。


 でかい図体してるくせに素早いな、こいつ。


 飛竜が旋回して、再び近づいてくる。それを見ながら、空を蹴って素早く立ち位置を変えていく。要は、タイミングだ。



 それっ!



 再度上方に跳躍し、飛竜の動きを見込んで、着地点を修正。



 よっしゃ!



 狙い通り、背中の2枚の羽の間に降り立った。


 おっと!


 飛竜が俺を振り落とそうと急旋回するが、こっちも、そうやすやすと振り落とされてやるわけにはいかないって。



 飛竜の背中には、うまい具合に頭から尾まで1列に、タテガミのような飾りが生えていた。触ると、かなりしっかりした手応えで、どうやら毛ではなく、皮膚か鱗が変化したもののようだった。


 それを両手で掴みながら、動き回る飛竜の上でバランスをとる。


 ……どうしようか?


 体表面に触れても、その下にあるはずの筋肉を全く感じ取ることができない。おそらくかなり皮膚が厚く、さらにその上には硬い鱗までびっしりと生えている。俺の手持ちの武器じゃ、文字通り歯が立たなそうだ。


 飛膜を破れたら一番いいんだけどな。


 今闘っている飛竜は、いわゆる翼手竜で、前肢と手指が長く伸びて広がり、その間に伸縮性のある飛膜が張られている。蝙蝠と同じタイプの羽だ。


 ここから届きそうな羽の付け根の辺りは、飛膜がかなり分厚く見える。そこに刃が通るかな?



 ……試すしかないか。



 亜空間収納から、刃状槍を取り出した。力を込めやすいように、握る位置を調整して……こんなものかな。


 そして、飛竜の羽が最も接近するときを狙い、槍を振り下ろす!


 ズン! 硬い……岩や金属の硬さじゃなくて、ゴムみたいな感触だ。もう1回!


 ……ダメだ。


 これは、刃が通る感じではない。弾力で弾き返してくるような鈍い手応えしかしない。


 くそっ!


 仕方ない。もっと薄いところ……羽の中央付近の、骨と骨の間に張られている、飛膜が最も広いところ……そこを狙っていくしかないようだ。


 右手の刃状槍を数珠丸に持ち替え、機会を窺う。


 ……今だ!


 大きく跳躍、そして一閃。ザシュッ!という手応えを感じ、飛竜の羽に切れ込みを入れることに成功した。


 即、離脱!


 飛竜がバランスを崩し、飛行スピードが落ちる。


 よしっ! いける!


 速さでの優位性がなくなれば、飛竜のデカい体は、いい的になった。


 急にフラフラし始めた飛竜を、操風術、風乗術を駆使して追撃。飛膜の損傷を広げることに成功すると、とうとう飛竜は地面に墜落した。


 こうなれば、羽をもがれたなんとやらで、隠しようもなく晒された、腹側の柔らかい皮膚を狙って攻撃を加え、ついに止めをさすことができた。


 ふぅ。


 これで一段落?



 《Congratulation! 〈血脈覚醒〉の試練をクリアしました。》


 《血脈スキル【風乗術◆◆】【操風術◆◆】。session3 完全クリア報酬 【ゲオルギウスの槍】を獲得しました。》


 《任意のsessionを、随時受けることができるようになりました。選択して下さい。》


 ・[session 1]


 ・[session 2]


 ・[session 3]


 ・[今は受けない]



 クリアしたか。任意のセッションは今はいい。既にかなりレオを待たせている。一旦、これで終了だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ