14 寄道 ー掲示板
PKを撃退した後は、行きに通って来た道を戻るように北上を続けた。レオは残念がっていたけど、今回はPSモンスターとの遭遇もなく、進み具合は、かなり順調といっていい。
＊
ちょっと休憩。
休むのに丁度いい木陰を見つけたので、目の前の海を眺めながら、レオと一緒に作り置きの肉の串焼きを食べることにした。ちょっと風が強いが、白い波濤と青い水平線。いい景色だな。
「この辺りが、源次郎が最初に現れた場所なのか。何にもないじゃん」
「ああ。人工物や道標が全く見当たらなくて困ったな。ゲームではオルレインでログアウトしたのに、なぜここに飛ばされたんだか」
「なにかクエストがあるとか？」
クエスト？
「なぜそう思うんだ？」
「βテストの時の話らしいけど、R種族にはクエストクリアでもらえる、種族固有の特殊スキルがあったんだって」
「種族固有の特殊スキル？ それはいったい、どんなスキルなんだ？」
「その種族の得意分野を伸ばすような、身体操作系や魔法系、補助系のスキルだったらしいよ。きっと俺たちSR種族にもあるはずだし、ステータスで空欄になってる『血脈スキル』っていうのが、それなんじゃないかと思う」
「ああ、そういえば確かに血脈スキルっていう項目があるな。それが有用なスキルなら、できれば欲しいところだな」
「うん。でも、手に入れるには〈血脈覚醒〉って呼ばれてるクエストを1人でクリアしなくちゃいけないらしい。そして、そのクエストが起こるのは突然で、いきなりそのクエストの発生場所の近くに転移させられたりすることがあるって聞いたから」
「有用な情報だが、状況はおそらく違うんじゃないか？ 掲示板を見る限りでは、《次元震》後のプレイヤーの出現場所は、結構ランダムっぽいぞ」
「それはそうなんだけど、ランダムっていっても、大抵は街の近くやパワースポットの側だろ？ 源次郎みたいに、1人だけこんな離れた場所に飛ばされた人っていなくないか？」
「……そう言われると、気になるな」
そういえば、《次元震》直後の掲示板で、1人岩山の中に飛ばされたって書き込みがあった気がする。あのプレイヤーは、その後どうなったんだろう？
＊
＊
＊
《トレハンCW・公式掲示板》
【求む！ 人里情報】ここはどこ？ 現在地不明。見渡す限り、岩岩岩。【Part1】
1.名無し
「Treasure Hunters of The Cristal World(トレハンCW)」の掲示板。
ぼっちでみんなからはぐれた俺が、情報を求めるスレッド。ご協力、よろしくお願いします。
非常事態だ！ でも、荒らしはスルー。マナー厳守。
次スレは>>950ヨロ
＊＊＊＊＊＊＊
612.名無し
山の中のサバイバル生活はどう？
613.名無し
>>612
だいぶ慣れてきた。
614.名無し
いつ山を下りるの？
615.名無し
もうちょい、このスキルを使い込んでから。じゃないと、下山そのものができなさそう。
616.名無し
岩から岩へ飛び移ったり、木々の間を移動するスキルだっけ？ なんか変わった名前だったよね？
617.名無し
>>616
【針山散歩】ってスキル。元々、種族的に木の上の移動は得意だったけど、それをかなりパワーアップした感じ。凄い速度で移動できる。習熟度が上がれば、下山するのも楽になりそう。
618.名無し
〈血脈覚醒〉クエスト、俺にも来ないかなぁ。一応、俺もR種族なんだけどな。そのクエスト、いつ頃来たって言ってたっけ？
619.名無し
>>618
《次元震》から4日かな？ あれ？ 5日だったけ？ 食糧と水を求めて周囲を散策してたら、突然きた。
620.名無し
俺も行動範囲を広げるべきか、悩むな。
＊
＊
＊
掲示板を閉じる。レオの言ったことが、もしかして当たり？ それとも偶然か？
「どうだった？」
「レオの言ったような可能性もあるかもしれない。岩山のプレイヤーは、数日後に《血脈覚醒》クエストが来たそうだ」
「じゃあ、源次郎にも来るかも？」
「うーん。でも、もし来ても、いつまでかかるか分からないしな」
「ちょっとくらい寄り道してもいいじゃん。血脈スキルって、かなり役立つらしいし」
「イナバ君に会うのが遅くなるがいいのか？」
「イナバのことは心配だけどさ、源次郎の話だと、イナバにも助けてくれそうな仲間が何人もいるらしいじゃん。そう聞いて安心したんだ。だから、ちょっと待たせる時間が増えても大丈夫かなって」
「しかし……」
「この間の防衛戦みたいにさ、これから何があるか分からないだろ？ だから、取れるスキルは取っておいた方がいいと思うんだ。だって、きっと俺たちまた、戦闘の最前線に出るようだろ？」
＊
レオの言葉にも一理あると思い、期限を設けて周囲を探索することにした。その期日は3日間。前回、俺がこの辺りで過ごしたのが3日。今回、そこから更に探索範囲を広げて3日。それで見つからなければ、一旦、見切りをつけることにした。
そう話したら、俺に《血脈覚醒》クエストがきたときも待っててくれよな！ って嬉しそうにレオが言ってきた。もちろん、その時は待つけどな。
