11 出立
部屋に戻ったところで……寝る前に片付けてしまうか。
メールボックス、「イベント報酬」メール。……これだな。メール送信ボタンは依然消えたままだが、ボックスから受け取りができるようになっていた。
《防衛戦「水棲人の襲来」のイベント報酬です。以下の報酬を「亜空間収納」に配布しましたので、ご確認下さい。
・50,000 Y
・回復薬 10 本
・魔法薬 5 本
・【水妖の三叉戟】
・【水妖の指輪】
・★3以上確定シルバーチケット 1
・★3以上確定ゴールドチケット 1
・RAID勝利報酬チケット 1
・RAIDランクインチケット 1
……装備が2つ、チケットが4枚。大事なのはこれだ。
・【水妖の三叉戟】[槍]★★ 水属性(小)+ 3つの穂を有する戟(槍)
・【水妖の指輪 】[指装備]★★ 耐水性(小)+ 水中移動補助(小)+ 水中呼吸補助+
三叉戟か。槍の一種だが、通常の槍とはかなり勝手が違うし、レアリティも低い。これは、予備として使うようだな。指輪は、耐水性UPだから早速装備しておく。
チケットも、ここで引いてしまおう。
・★3以上確定シルバーチケット
→【歴戦の鉾槍】[槍]★★★ 重量軽減(小)+
鉾槍か。これも槍の一種だが、これまた扱いにくそうだな。とりあえず亜空間収納行き。
・★3以上確定ゴールドチケット
→【飛竜皮革のロングコート】[外装備]★★★ [色: シトロングリーン]空間制御(小)+
これは当たりだ。レアリティは普通だが、付与効果が俺向きなのがいい。【革のマント】と入れ替えだな。
続けて2枚。
・RAID勝利報酬チケット 1
→【猫足のロングブーツ】[脚装備]★★★★ 消音(中)+ 衝撃吸収(中)+ 跳躍(小)+
・RAIDランクインチケット 1
→【龍鱗のネックガード】[首装備]★★★★★ [色: アッシュグリーン]斬撃・刺突・衝撃吸収(中)+ 魔法防御力(小)+
★4で付与効果がいい。靴も当たりだな。ネックガードは★5とレアリティが高くて、性能もかなり良さげだ。やはりランクイン報酬なだけのことはある。これも装備しておこう。
装備の入れ替え完了。これでよしと。
外した装備は今後も物々交換に使えそうだから、売却しないで亜空間収納に入れて取っておくことにした。
◇
夜が明ける少し前に目が覚めた。
何か夢を見ていた気がするが……その内容は覚えていない。窓の外は、もう薄っすらと明るくなってきている。
階下の食堂へ降りて行くと、既にレオがテーブルで待っていた。
「源次郎、おはよう!」
「おはよう、レオ。早いな」
「おう。いよいよ出発だからね。 源次郎、装備が随分と変わったな。それ、チケットで出たやつ?」
「ああ、コートとブーツ、それにネックガードが出た」
「そのコート、軍服みたいでカッコイイけど、ますます派手になったね」
ただでさえ派手な俺のオレンジ色の髪に、シトロングリーンのこのロングコートは確かに目立つ。
「現状、見かけより性能を取らざるを得ないからな。そういうレオも、かなり目立つぞ」
俺と同じく、SR種族であり、種族固有カラーを持つレオは、髪も虹彩も鮮やかなウルトラマリンだ。
さらに、まるで青龍族に誂えたかのような色彩の、金色の装飾がついた青い課金装備で全身を固めている。ある意味、俺よりも目を引いていることは間違いないだろう。
*
朝食後、そのまま街を出て、海岸沿いを北上する。この辺りは1度通ったルートだから、様子が分かっているのがいい。
……待ち伏せするのに丁度いい場所とかな!
「レオ!」
「おうよ!」
ビュン! 耳を掠める風切り音が聞こえ、上方の死角から矢が飛んできた。
見通しの悪い、こんもりとした林の脇を通り抜けるときに、その襲撃は起こった。でも、そういった事態は想定済みで……やはり、といった感じで当然よける。
隠れているのは……4人か。
木の枝上に射手が2人。木立の陰に2人だ。レオに念話チャットで状況を知らせ、下の2人はレオに任せて、俺は木の上の奴らを相手にすることにした。
今のはどう考えても、一撃必殺で急所を狙っていた。話し合いの余地もなにもない。……これで容赦する必要は微塵もなくなったな。
街の教会に死に戻れ!
レオも既に盾を構えて防御態勢に入っている。こうなるとレオは固いから安心だ
俺は、林に向かってひと蹴り跳躍しながら、利き腕を振り切るように前方に突き出し、鋭く飛斬を放った。
ザクッ! 肉を切る鈍い効果音が聞こえた。ゲームの時はオーバーな音を立てるものだと思ったが、こうなると分かりやすくていい。今のは、かなり深く入ったな。
もう1人!
そう考えながら、身体に捻りを加え空を蹴る。その挙動で即座に方向転換し、もう1度腕を振り切った。
ズザザッ! ドンッ!
バランスを崩し、続けざまに枝から落下した2人に、抗う余地なんて与えない。相手が体勢を崩しているところに縮地で踏み込み、迷うことなく止めをさす。身体は厚い鎧を着ていたから、無防備な喉元を狙った。
立て続けに頸部を切り裂き、射手2人が光になるのを確かめた。そして反転。レオと対峙している剣士の背中に、上段から重い一撃を叩き込んだ。
「もう1人は?」
「手傷は負わせたが、ちょっと前に逃げた。追いかけるか?」
「いや。先を急ごう。新手が来ても嫌だしな」
困ったことに、トレハンCWでは、ISAOでは不可能だったPKができる。俺としては、課金装備をPKで失うなんておかしいだろ? って思うが、トレハンでは、それが当たり前の感覚らしい。つくづく、殺伐としたゲームだ。
しかし、当然のことながら、救済策も用意されている。これまた課金アイテムになるそうだが、「星の守り」というアイテムを装備していると、PKされてもロストするのを防げるそうだ……そう、これまでは。
いやらしい仕様で、「星の守り」は消費アイテムになっている。だから、1回PKにあえば消えて無くなってしまう。当然レオも持っているが、課金パック購入の際のオマケとして貰ったものしかないので、所有数が限られている。
……課金システムがなくなったこの世界では、「星の守り」はもう手に入らない。以前はオマケでついてきたものが、そんな貴重なアイテムになってしまった。
「なあ、これって俺たちもPKになるのか?」
「どうかな? 先に襲ってきたのは向こうだし、仕様的には正当防衛だと思うが。……やはり、ステータスには特に変化はないな。レオ、大丈夫か?」
「うん。消えていった奴らって、死に戻るんだよな?」
「ああ。死に戻りシステムは、この世界でも機能している。既に検証済みだ。だから、安易に略奪を企んだんだろう」
そして奴らは、「星の守り」もしっかり所持していたようだ。返り討ちした際には、なんのドロップもなかった。まあこれで、「星の守り」をひとつずつ失っただろうけどな。
「そっか。ならいいや。奴ら自業自得だよな。まさか本当に待ち伏せしてるとは思わなかった」
「おそらく、今後もこういったことは起こりうる。用心は欠かさないことだ」
「分かった」
「結構時間を食ってしまったな。じゃあ、行こうか」
「おうっ!」




