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プロローグ:夜明けと旅立ちの祈り

 夜明けの香りは、旅立ちを想起させる。澄んだ冷気の一抹に感じる、柔らかな安らぎのにおい。歩みを進めるにつれて寂しさは徐々に薄れ、何か素敵なことが始まりそうな予感を膨らませてくれる。

 私も、これまで暮らしたこの街を離れ、今日から新しい街へと踏み出そうとしている。どうか、新しい一日がよいものになりますように。染まり始めた紫空の下、私は祈りを込め、車両へと踏み出すー。



 夜明けの香りは、旅立ちを想起させる。澄んだ冷気の一抹に感じる、柔らかな安らぎのにおい。歩みを進めるにつれて寂しさは徐々に薄れ、何か素敵なことが始まりそうな予感を膨らませてくれる。

 駅は既に煌々と照っていて、早朝にもかかわらず温かく私を迎え入れてくれた。コツコツ。ゴロゴロ。行き交う人々は音を響かせ、改札をくぐっていく。

 ホームへと続くエスカレーターを登っていくと、ホームからの風が私を駆け抜けていく。三月の風は、まだ肌寒さを残していて、始発電車よりも先にレールをなぞっていった。

 電光掲示板に表示された、始発電車の到着時刻まで、あと十分。ホーム脇のベンチに腰掛けながら、同じように始発を待つ人たちを私は見渡した。トレンチコートを着込む女性。スーツ姿の男性。キャリーバッグと巨大なリュックサックを抱えた外国人カップル。筒状の布を背負った制服姿の女子高校生。この人たちはどこへいくのだろう。

 職場へ。学校へ。空港へ。もしかすると、この中に地球の反対側にいく人だっているかもしれない。さすがにまだ宇宙にいく人は居ないかもしれないけれど、この線路の先にある、それぞれの目的地が繋がっている。そう考えると、なんだかワクワクしてくる。

 私も、これまで暮らしたこの街を離れ、今日から新しい街へと踏み出そうとしている。何度となく利用したこの駅とも、これが最後の別れとなることだろう。

 私は私の、彼らは彼らの思いを胸に、始発電車に乗り込むのだろう。どうぞ気をつけて。いってらっしゃい。そんな、声にならない思いを始発を待つ人たちに伝えたくなった。

 到着メロディーがホームに鳴り響く。なぜだろう、その賑やかなフレーズは、今日に期待してもいいよ、そう告げてくれているようだった。入線してくる電車がレールを照らし、ホームを優しく包みあげていく。いよいよ始まるんだなという実感が湧き上がってきた。私は、カバンの持ち手をぎゅっと握りしめる。

「電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」

どうか、新しい一日がよいものになりますように。染まり始めた紫空の下、私は祈りを込め、車両へと踏み出す。

短編「桜の幻、うつつに踊る」へ続く。

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