第96話「トラゴンに会う前の準備」
エレベーターがゆっくりと動き出した。ファンタジー的なこの世界にこんな文明
的な代物があるのは驚きだが、ゲームと考えれば特に気にならない。何でもかんで
も現実と比較してしまうのはあまりよくないし。
「エレベーターを出た直後に敵がくるかもしれないから気を付けてね。」
「ああ、それ知ってます! となるとエレベーターの死角の位置にいたほうがよさ
そうですね!」
50階まで移動して扉が開いた瞬間に火薬草を投げつける予定だ。出入口というの
はかなり狙われやすい。ここで何もでてこなければそれまでだが、エレベーターで
奇襲されたことは何度もある。
「ねこますさん。あたしも攻撃魔法の準備をしておきますね。」
「うん。よろしく。あと、このエレベーターがの上から攻撃されるかもしれないか
ら、できるだけ早く出よう。」
今、ちゃっかりあたしって使ってくれたね。いいね。
「このような箱の中にいると、閉じ込められたような感覚になりますな。」
確かに、くろごまの言う通りだ。塔の中にあるエレベーターなんて敵の罠として
利用されること間違いなしって感じだから、落ち着けない。
「僕はこういう狭いとこ好きチウ。」
エレベーターの隅にちょことんと座るねずお。何くつろいでいるんだ。
「気を抜くなってねずお。これから強いモンスターと戦うんだから。それで油断し
たら死ぬぞ。」
「そ、それは嫌チウ。」
がくがく震えだし、エリーちゃんにしがみつくねずおだった。
「このエレベーターが50階までだとすると、もう1つあってそれが1階から50階まで
いけるってことなのかもしれないですね。」
「そうだねえ。それに乗れば地上まですぐだからさっさとトラゴンを倒したい。」
あること前提に話をするが、それくらいきっとあるだろう。
「トラゴン、強敵らしいですが、どれほどのものか気になりますな。」
「まず戦う必要があるかどうかってのもあるんだけど、話も聞かないような奴なら
さっさととっちめるよ。」
「それがいいですね。」
こちらとしてはエレベーターさえ使わせてくれればいいわけだし。
「そろそろ、か。」
「ちょっと緊張してきました。」
「拙者は武者震いがしてきました。」
あっ、今拙者って言った。言ったよね! でもツッコミはいれない。
実は、私も少し緊張している。蟷螂よりも強いということは、こちらを一撃での
してしまう攻撃を繰り出せるかもしれないということになる。これまでの戦いでは
薬草さえ使えれば勝てるという考えを前提にしてきた。
しかし、その戦い方ができないとなるとかなり厄介になる。
なんとかして攻略法を見つけないと、くろごまとねずおが消えてしまうかもしれ
ないので内心は緊張感があふれ出ていた。本当は二匹を戦いに不参加にさせたいと
ころなんだけれど、そうもいかないし。だから、私がなんとかするしかない。
そんなことを考えているうちに、エレベーターがついに50階に到着した。そして扉
が開く。
「おいしょっと!」
私は火薬草を投げつけてみたが、爆発音も何も聞こえてこなかった。どうやらエ
レベーターの出入り口付近には何もいなかったようだ。
エレベーターを出る先は、綺麗な装飾が散りばめられた部屋だった。銅像なども
飾られている。おいおい、こんなあからさまにこの先ボスがいますよって演出をし
たらここで色々準備するに決まっているじゃないか。
「あの豪華な扉。あれがきっとトラゴンのいる部屋ですね。」
「絶対そうだよね。分かりやすすぎるね。あれでトラゴンの部屋じゃなかったらそ
れはそれでなんかむかつくけど。」
「すごいキラキラ光っているチウ。」
あの扉の装飾を持ち去っていきたいくらいだ。むしろあの扉を持ち帰るべきか。
「それじゃあここで最終確認だよ。みんな色々と準備をしてから挑むよ。まぁやる
べきことなんてほとんどないけどね。」
「それでも、やるべきことは手を抜かずにやるべきです! あたしは、絶対にこの
塔からでたいので、前るわけにはいかないんです。」
「エリーどのは、少し焦りすぎかと思います。それではかえって失敗を招いてしま
いますのでじっくり行きましょう。」
「うう。はい。」
エリーちゃんは、この塔を出られるというとすぐにそわそわする。気持ちが先走
りすぎてミスをしてしまいそうな雰囲気だったので、くろごまがフォローしてくれ
たおかげで少しはなんとかなりそうだ。
「私は、この鎌と電撃鞭と火薬草あたりをメインに戦うよ。ああ、戦う前にこれみ
んな口の中に含んでおいてね。」
薬草を渡しておく。あとドラゴンフルーツも食べてもらうことにした。
「あたしは、魔法をメインに戦いますよ。」
「うん。ただ一応これも持っておいて。」
「・・・。すごい量ですね。」
大量の薬草をエリーちゃんに渡した。そして自分のアイテムインベントリに入れ
てもらった。
「回復さえできれば死なないの姿勢で戦っているからね。一撃死さえこなければな
んとかなるよ。」
「そうですよねー。あたしもとにかく一回は攻撃を耐えきりたいです。」
「トラゴンはどんな攻撃をしてくるのかリザードマン達に聞けばよかったかな。」
「マスター。虎というからには爪とか牙じゃないでしょうか。」
「そうだね。後は動きがかなり早かったらどうするのかってところだね。あぁ私
も緊張してきたなあ。」
動きが素早い奴にはそもそもの攻撃が当てにくいから嫌いなんだよなあ。虎って
俊敏な動きをするらしいし、きつそうだなあ。
「大丈夫。なんとかなりますって! みんなの力なら!」
明るいなあエリーちゃんは。
「よし、じゃあ、もうちょっとだけ準備に時間を使うけど、みんな準備ができた
ら教えてね。突撃するから。」
強力なボスの対面か、どうなることやら。
クライマックスがやってきそうです。
ブックマーク、評価、感想等はお暇な方、よろしくお願いいたします。