第92話「やっちまった感」
私が気配感知を使い、敵の位置を確認する。エリーちゃんが盗賊なので罠の解除
はお任せ。なるべく敵と遭遇しないように塔内を探索するが、階段の位置は分から
ないので、最悪階層内全部を周って探さないといけなかった。
敵に気づかれないように移動しているため、ケイドロをしているような気分だ。
警察と泥棒に分かれて遊ぶゲームなのだが、子供の頃にやって以来だな。まぁそれ
とは少し違うわけだが、これはこれでスリルがあって面白い。
現在の階層を暫定的に85階としているが、これを全部降りるというのは無茶な気
がしている。エレベーターやその類があれば一気に移動できるはずなので、絶対に
発見したい。
「あ、あったよ。階段。」
85階層の階段をようやく見つけた。この階層だけで20分くらいは歩いた気がする。
私とエリーちゃんは、疲労感というものを直接感じるようなことはほとんどないけ
ど、くろごまやねずおはこのペースで行くとバテテしまう気がするなあ。
「じゃあこの辺りに何かないか探しましょう。」
というわけで、まずは階段周辺の壁や床を探す。それが終わったら、手をつないで
階段上で探すつもりだ。階段に移動した時点で、無作為に別々の場所に移動させら
れてしまうかもしれないことを警戒しているからだ。
「ねずおは、床に何かないかを探して。なんか風がヒューヒュー吹いてそうだった
らそこが空洞になっているかもしれないから、教えてね。」
「わかったチウ!」
それにしても、こんなに立派な石造りの塔だけれど、構造上問題とかないのだろ
うか。ゲームの設定だからいいと言われればそれでおしまいだと思うし、そもそも
地面から盛り上がってくること自体が無理がありそうな感じだけど、そういうとこ
ろも気になってしまう。
このゲームの製作には様々な人が携わっているとはニュースなんかでやっていた
のを覚えている。だからこそ色んなものがきちんと成立するようになっているので
はないのかなとは思う。
突然塔が崩れ始めましたなーんていうオチもありそうだよなー。ここで隠し部屋
を探していたら間違って自爆スイッチを押しちゃったとか、そんなのがあったら嫌
だけれど、ひねくれた人が作った塔だったらありえそうだ。
「何もなさそうですね~。」
「こっちもめぼしい物はないチウ。」
「では、やはり階段上にあるのかもしれませんね。」
というわけで、手をつないで階段を降りることにした。ねずおに限ってはは、エ
リーちゃんに足元にしがみつく形になっている。これはちょっとはぐれてしまいそ
うで怖いな。
そうだな、次からはリュックの中に入れることにするか。なんとか入れられるサ
イズだろうし。あれ? 火薬石弾は在庫何個だっけ。うっかりしちゃっているなあ。
取り出さないと暴発しちゃうから気を付けないとな。
「何もないですね。」
「じゃあ私は鎌で軽く打音検査でもしてみるよ。」
「私もマジカルステッキで叩いてみますね。」
「では私は黒如意棒で。」
ねずお以外みんなで打音検査をしてみる。片手は手をつないでいるので使えないの
が難点だな。ゆっくり少しずつ叩いていき、そして、最後の段を降りる。
「はずれかぁ。」
「そう簡単に当たりがでるわけないってことですねー。」
だがこれこそが探索の醍醐味とも言えるだろう。初めから答えが分かりきって行
動するのとそうじゃないんどえ行動するのでは面白さが段違いだ。当然何も見つか
らずに終わってしまうこともあるだろうが、そうじゃなきゃ探索とは言えない。
分からない物を探し当てるからこそ面白いのだ。場所は分からないけれどそこに
宝があるなら追いかけてみたくなるのが浪漫だろう。この場合は隠し部屋だけど。
この塔に来た最初からもう何かないのか探してばかりな気がするけど、それこそ
冒険や探検していると言えるよなあ。
「とりあえず、ここから84階かあ。」
「あの聞こうと思っていたんですが気配感知って、何かしらのエネルギーとか消費
しないんですか?」
「あ。」
しまったああああ。自然と出来ちゃうから使ってたけれど、常時起動って実は色々
と消費しているかもしれないな。いや、それともどうなんだろう。そういう消費す
るものはなかったりするのかな。うああああああ。
「気配感知オフオフ!」
と言ってみたもののオフにはならない。ということは自動でエネルギー消費とか
なしで使えるのだろうか。いやいやまてまて。もういっそこのマンティスパイダー
の触角を外せばいいんじゃないのか。よし。外すか。
メッセージ:マンティスパイダーの触角は外せません。
は!? ふざけんなよこのやろー! 何で外せないの!? いやちょっと待って
よ。なにそれ。これ呪われているの? せめて理由とか教えてくれよ。なんじゃそ
りゃ。納得がいかんぞ。確か妖狐の尻尾はダメージがあるとかなんとかだった気が
するけど、これはなんだよ。
じゃあ、これはどうだ。
メッセージ:蜂女王の羽は外せません。
・・・。うわぁこれ装備が外せない代わりにスキルが備わっているみたいな特殊な
防具だったってことか? うわあ。やっちまった感があるよ。流石にそんな変なこ
とになるなんて計算外だった。予想外でもある。
「あのさ、私のこの羽とか外せないみたい。」
「え? 般若レディってそういうのがある種族だったんじゃないんですか?」
「いやないよ。」
「そうだったんですか。」
エリーちゃんと出会った時にはもうこの羽あったから当然のように種族として備
わっていると誤解されていたようだ。
「はあ。多分だけど、気配察知は何も消費しないで使えると思う。」
「そうだったんですか。でも外せないなんて・・・。」
「あはは。」
苦笑いをするしかなかった。くそっ! いつか必ず外す手段を見つけてやるから
な!
なんだかショックなことがあったが、84階の探索が始まるのだった。