第87話「狂戦士」
何をするかは、決まっている。メリケンサックで得たスキル「狂戦士」を使うこ
とだ。まだ1度も使ったことがないというのが問題なので、タイミングを見計らって
使わないといけない。
使うには、多分狂戦士とでも叫べばいけそうな気がするので大丈夫だが、スキル
自体にデメリットがありそうなのが気をつけなきゃいけないだろうな。
狂戦士の効果と効果継続時間そして効果消失後に何があるのか、再使用はすぐに
できるのか。それを考慮すると、蟷螂と私がぎりぎりまで接近してから使うのが1番
無駄がなくていいだろう。
「イチバンヨワソウナヤツガ、クックック! シネ!」
一瞬のうちに間合いを詰めてきた蟷螂。早すぎる。が、まだだ。ここじゃない。早
すぎたとしても、反応できないというわけではない。
「狐火!」
寸でのところで回避した直後の狐火を撃つが、これは蟷螂に回避される。これは
予想通り。本命は、左手に持った電撃の鞭だ。これまで鎌で戦うといったが、なり
ふり構っていられないし、この武器があることは知られていないと思ったので折角
なので使うことにした。
「おっらあああああ!」
「グガァ!? ナニィ!?」
電撃の鞭を思いっきり胴体に叩きつけ、感電させる。動きが止まったこの隙を逃
さずここで、使うぞ!
「狂戦士!!!」
全身から熱くこみあげてくるものを感じた。現実では起こりえないような感覚。
燃え盛る炎のような、煮えたぎるマグマのような、それらが激しい怒り暴走してい
るような感覚が襲い掛かる。
「狐火ぃいいいいいい!」
私はいつものように口から狐火を吐き出した。だがその狐火はいつもの比ではな
い猛火として蟷螂の全身を包み込んだ。威力が強化されるとは踏んだが、まさかこ
こまでとは思わなかった。
「グガァア!? ナンダコレハ! アッアヅイイイ!」
のたうち回る蟷螂だが、火は一向に消えない。恐らくかなりのダメージを与えて
いるはずだ。その場で大暴れし、何度も火を振り払おうとする蟷螂。徐々にだが火
が消えていく。
「グオオオオ! シネエエエ!!」
そして、全ての火を振り払った瞬間、私の眼前で鎌を振りかざした。それを私は、
右手に持った鎌で防いだ。動きが単調だったので読みやすかった。それに、だ。
「私の鎌はな、いくつもの草を刈ってきた鎌なんだよ。てめーの鎌なんかに負ける
か!」
ずっと愛用している鎌だ。生まれながらに持ったものではないが、こちとら延々
と振るってきたのだから、ちょっとやそっとで押し負けるわけにはいかない。こい
つがどれだけ鎌を振るってきたかは知らないけど。
「コザカシイゾオオオオ!」
「うるせえええええ!」
私は、三下がよく使いそうな台詞を聞いて不愉快な気分になった。狂戦士を使っ
ている状態だとちょっとしたことで怒りやすくなるようだ。なんだかすごい暴れた
くなってきている。
ああ、むしゃくしゃする。
「ズアッ!」
直後に、蟷螂はもう片方の腕で私の頬が切り裂いた。なんだこいつ。何をした?
虫風情が。般若レディの顔を切っただと? おいおい。血が出ているじゃないか。
こんな綺麗な顔によくもやってくれたな。
「おい。てめぇ。」
「ハハハハハハハハハ! ドウシタァ!?」
狂戦士の力が私の感情を支配する。こいつには地獄の苦しみを与えてやりたい。
こうして、怒りが頂点となったその時、私は持っていた武器から手を離した。そ
して、両手で蟷螂の左腕をつかむ。
「ん?」
「鎌って言うのはこう使うんだよ!」
私は、蟷螂の左腕を強引に動かし、その鎌を用いて蟷螂の右腕を切断した。なる
ほど、私の鎌ほどじゃないが、なかなかの切れ味じゃないか。
「グッアアアアアアアアアアア!」
絶叫を上げる蟷螂。その姿がとても滑稽に見えた。そして清々しい気分になっ
た。散々苦しめられてきたのだから、このくらいやってもおかしくはない。だが
まだやり足りない。
「終わりだ! 狐火!!!」
この戦いを終わらせる最後の一撃として、狐火を放つ。蟷螂はそれをかわすこ
とができず、火はその身を焦がしていく。
「アアアアアアアアアアアアアア!」
蟷螂の体が、黒い炭へと変わっていく。もはや、暴れることすらできないよう
だ。
「んぐっ!?」
突如、私の体に猛烈な重さが発生する。これは、狂戦士の効果が切れたか。デ
メリットは、能力低下とかそんなところだろうな。なんだかふらふらしするよう
な感覚まである。うう、VRとはいえ眩暈の感覚まであるなんて。
「ねこますさん!」
エリーちゃんが私に駆け寄ってくる。ああ、薬草を食べたからか。くろごまと
ねずおも、どうやら無事のようだが、みんなまだ近づかないで欲しいな。ここで
こいつが第三形態とかになったらやばいんだから。
「え、りーちゃん。ちょっと離れて。」
「あっすみません!」
私に肩を貸してくれるエリーちゃん。ふよふよ浮きながら、蟷螂から少し遠ざ
かる。
「まだ、終わってない。」
「えっ? だってもうあんな真っ黒焦げになってますよ!」
「ね、念のためこれで、攻撃。」
私は火薬草を取り出すが、うぐぐっ。視界がぼやける。やばいな狂戦士。予想通
りの効果過ぎて笑ってしまうが、この状況は笑えない。その時だった。
「ユルサンゾオオオ!」
「!? 伏せて!」
「えっ!?」
蟷螂は最後の足掻きだったのか、真空波を放ってきた。私は、エリーちゃんをなん
とか突き飛ばしたが、
「ぐぎ!」
もろに真空波を食らった。ふざけんなよ。この蟷螂野郎。しつこい奴はもてない
んだぞ。いやお前がモテたりしても嫌だが。
「薬草。薬草。薬草。薬草。」
私は、倒れながらも薬草を口にする。生きてさえいれば、そうだ。死なない限り私
は、大量に集めた薬草でいくらでも回復することができる。ふっふっふ、不死身じ
ゃないけど不死身の般若レディだぞ。
「キサマ!? ナゼ!?」
真っ黒になってもまだよれよれと動くお前に言われたくねーっての蟷螂。でもな、
お前のおかげで分かったことがあるんだぞ。
「よくも、散々やってくれたな。くそ。こっちも満身創痍だっつーの。」
「キサマ、キサマダケハユルサン!」
「それはこっちの台詞だ! あの世に送ってやるぞ!」
虚勢を張るくらいしかできない。黒くなった蟷螂も、瀕死の癖にいけしゃあしゃ
あとうるさいことをいう。くそう、なんかゲームっぽい展開過ぎて後で思い出した
ら笑っちゃうとこだろうなこれ。
「お前の専売特許ってわけじゃないんだぞ。その鎌の技。」
「ナニ!? ウグッ!?」
身体が朽ち果てていく蟷螂だが、そんなんであの世に送るわけにはいかないだろう。
「くらえ。真空波!」
私が放ったそれは、蟷螂の首を斬り裂き飛ばした。もはや炭になった身だ。簡単に
いくと思った。
私が真空波として投げ飛ばしたそれは──。
いつも愛用している鎌だった。
デメリットがあるスキルは強いんですが使いどころが肝心ですね。