第82話「ボスはいるのか」
移動中に、この塔の危険性について考えていた。最上階にボスがいなかったので
あれば、最下階にボスでもいるのかと思ったが、それもないだろうと私は思い始め
ていた。
<アノニマスターオンライン>は、捻くれた要素があるので、最上階にボスがい
ないから最下階にいるなんて安直なことはしないと考えている。
だとすればどこにいるのかというと、中央階だ。つまり、この塔が100階建てだ
とすると、50階にボスがいるということだ。
半分くらいようやく進んだことだし、そろそろ休めそうだなんて思っている場所
にボスがいることで、油断したプレイヤーを返り討ちにすることだって可能だろう。
よくゲームにおけるセーブポイントとなる場所は、大体中間地点かボスの直前の
2つくらいに絞られるだろう。
私なら、中間地点に1番強いボスを置き、消耗している所を狙うだろう。この塔は
私のようなプレイヤーだったら上から、そうじゃない素直なプレイヤーなら下から
攻略をする。
そのどちらにも対応できる場所とするなら中央階だ。そこにボスがいそうだ。
流石にボスも何もいないようなただの塔というわけではないだろう。何らかの謎
が隠されているに違いない。
「そういえば、ねこますさんのお仲間さんがこの塔に来ているっていうことはない
んですか?」
「この塔は目立つしありえるね。来ているなら、1階から順に攻略している最中か
もしれないね。」
忠誠心の強いたけのこがいるのだから、ブッチも重い腰を上げて私の探索活動を
するに違いないし。ああ、ブッチ的にはこんな100階近くある塔を見つけたらまず間
違いなく、制覇目指して頑張るだろうなあ。
「あっと、エリーちゃんに一応言っておくことがあるんだった。」
「はい。なんでしょう?」
「私は、エリーちゃんが敵かもしれないと疑っているから、エリーちゃんも私が敵
かもしれないと疑っておいてね。」
今まで味方だと思っていた仲間だけれど、実は何らかの組織と関わり合いがあっ
て、たまたま仲間のフリをしているというケースだってありそうだ。私なんかにそ
んなことをするメリットは無いと思うが、私は疑っておくんだ。
「大丈夫ですよ。私は、ねこますさんを信用していますから!」
可愛い笑顔を見せるエリーちゃんだった。何このサキュバス可愛い。でもそんな
のに騙されないぞ。ううっ。凝視するな、可愛い。笑顔が眩しい。
「営業スマイルされても私は屈しない!」
「投げキッスは?」
「笑う。」
それは、多分ギャグだよね。なんかこうエリーちゃんは自然体なときは可愛いと
思えるんだけど自分から積極的に行動すると滑るタイプなのだというのがよく分か
るなあ。
「第二ご主人は、純粋なんだチウ。」
知っているよ。というかその言い方辞めろ。なんか愛人みたいな言い方じゃない
か。私が第一とかそういうのマジでやめろ。ねずおはもっとエリーちゃんを慕え。
「私は、マスターの考えが全く読めないところは、魅力の1つだと思っています。」
「あっ! それ私も思った。ねこますさんって、何か独特な感じ!」
「第一ご主人は、顔も個性的だチウ!」
そりゃあ般若レディだからな。般若レディを選んでいるのは私だけかもしれない
し独創的といえばそうなんだろう。でも現実じゃどこにでもいそうな人間なんて言
われるけどねえ。
「あっと、もう少しで目的の場所まで着きますよ。」
「早いなあ。やっぱりエリーちゃんがいてくれて大助かりだ。」
「えへへへへ。」
照れてる。可愛いな。じゃなくて、こういう場所に盗賊がいるって安心感がある
なあ。本当にこういう場所を探索するときは必ずいて欲しいくらいだ。
「どの目的の場所ってどんなところなの?」
「広い部屋があるんですが、そこにちょっと強い敵がいるんです。その敵を倒すと
そこから3日くらいは出てこなくなるので、そいつを倒した後なら休憩がとれるは
ずです。当然、この設定が続いていればですが。」
なるほどねえ。じゃあそいつを倒せば今日のプレイは終わりってことか。
「ただ、強い敵は毎回変わるんです。倒さなくても3日後には変更されています。」
色々な敵に挑戦できるのは面白そうだけど、そういう問題があるのか。だけど今
日は絶対に倒さなきゃいけないわけだし、やるよ私は。というかみんなやるけど。
「今回は、みんながいてくれるから大丈夫だと思っています。私だけだと無理な時
もかなりありましたから。」
1人では倒しにくい敵も今ここには2人と2匹がいるのだからいけるだろう。ねず
おが戦力になるかは微妙なところだけど。
「こちらの頭数が増えれば敵の数が増えるという事もあるのでは?」
これはくろごまの意見。私と話すことが多いので、私のようなことを言うな。そ
れは確かに私も考えている。敵の数もそれだけ増えているのなら激戦必至というわ
けだ。
ボスという存在なだけに簡単に倒せると思ってはいけない。雑魚と侮ったりする
と、意外なところで追い詰められて倒されてしまうだろう。
嫌な予想と言うのはよく当たるものだが、こうして先に言っておくことで、実際
の戦闘中に事実を知るよりも幾ばくか気分は楽になるだろう。
「もう少しでその場所の扉が見えてきます。みなさん扉の近くまで行ったら戦いの
準備をすることにしましょう。」
よし、期待と不安が入り混じっているけど、今回もなんとかするぞ! 気を引き締
めて準備だ。