第79話「ミノタウロスの肉を食べる」
流石のミノタウロスも、電撃に打撃に爆発を与えたのだから倒せているとは思っ
たが、私は、念を入れてもう10個ほど火薬草を投げつけた。最初に投げつけた時に
は、爆発後の煙が立ち込めてしまい、ミノタウロスの状況が確認できなくなってし
まった。
こういう時に倒せているはずだ、なんて思っていると、実は全然ダメージを与え
ていないなんてことがあるのだから、もう一度攻撃を加えておくに限る。
今も、反撃される恐れがあったので、一旦距離をとった。
「ねこますさんは、結構過激なんですね。」
「臆病者なだけだよー。」
エリーちゃんが若干引いていたが、入念に攻撃しないと思わぬ反撃を食らって大
変だということを説明しておいた。
「あと100個は、投げたいところだけど流石に勿体ないからやめておくけど。」
とどめを刺したはずの敵が、次の作品で必ず復活しているなんていうのもあったな
あと、遠い目をしてしまう。そのせいで、どうせ黒幕はこいつなんだろう、やっぱ
りこいつじゃないかっていうのがあった。
そういうのが嫌なので、確実に葬り去りたいという気持ちも私にはある。
「マスター。どうやら、ミノタウロスは倒したようですぞ。」
見た感じではそうだけれど、ゾンビ化して復活するかもしれないなんて思ったの
で、くろごまの黒如意棒でどついてもらうことにした。だがミノタウロスが動く事
は無かった。
「何かの能力で心臓を止めているだけかもしれないな。」
「ねこますさん、もういいじゃないですか。ここまでやれば死んでますよ!」
「ここまでやって復活することは、ないのでは?」
そこまでいうならまあ、そうなのかもしれないね。よし、それじゃあこいつを食
べるとするか。牛だし、こんがり焼けてて美味しそうだ。いい匂いがする。
「じゃあ食べようか。」
「えっ!? た、食べるんですか!?」
「・・・・・・・・・・っ!!!?」
しっしまったあああああ! そうだよね! たけのこと一緒に倒したモンスター
を食べてきたことから、ちょっと普通じゃないってことを忘れていた。そりゃいき
なりこんな牛に噛みついて食べたりしないよね! うわあやらかしたぞ!
「あっ。えーとその。」
「マスター、ミノタウロスの肉は美味だというのは私も聞いたことがあります。」
「あ、うん。そうだよね。だからちょっと食べてみようかなあって。」
「ど、どうやって食べるんですか?」
「いやその、そのままがぶりと噛みついて、こんなにほら、焼けてるし。」
「・・・。」
いやそんな悲しそうな目で見ないでよエリーちゃん。私だって最初の頃は生肉を
がっつり貪ったりしてたけど今は焼いている肉だよ、焼肉だよ? 焼けているだけ
色々とマシな部分があると思うんだよ。
「では、私が毒見をさせていただきますがどうですか?」
「あっ。うん。どうぞ。」
そういうと、くろごまは、ミノタウロスの腕にがぶりとかじりついた。肉を噛み
しめ、笑顔になった。
「これはっ! 美味しいです! マスターもエリーどのも食べるべきです!」
かなり興奮しているくろごまだった。そんなに美味しいのか。そこまで言うなら仕
方ない、私も食べてやる。
「わかった。よしっ!」
私は、倒れているミノタウロスの肩のあたりをがぶりと食らった。うっうめえ!
なんだこれは。凄まじく美味い! なんだか力が溢れてくるくらい美味い! まさ
かここまで美味いとは思わなかった。
もうエリーちゃんの事は構うことなくがっつく私とくろごまだった。それほどミ
ノタウロスの肉は美味しい。現実でもこんな肉があればいいのにと思ったくらいだ。
「あっ、えっと。その、私も、食べてみていいですか!?」
「ん? いいよいいよ!食べてみようよ!」
ドン引きしていたエリーちゃんだったけれど、私達がここまで美味しそうに食べ
ていたからか、興味が惹かれていたようだ。よだれが出ている。いや、これは絶対
に食べるべきだよ。
「で、ではっ」
エリーちゃんは覚悟を決めて、ミノタウロスの足のあたりをかじった。次の瞬間に
「こ、これ美味しいです!! なんですかこれ! ミノタウロスってこんなに美味
しかったんですか! これなら前に倒した時食べればよかったです!」
おお、やはりミノタウロスの肉の虜になってしまったか。美味しいよね。VR世界
で食べても現実では満腹にならないのが悲しいけど、素晴らしい味を体験出来て最
高だ。
エリーちゃんもそこからは、がつがつと食べていくようになった。こうして私達
は、こんがりと焼けたミノタウロスの肉を堪能するのであった。
「はぁ、なんか食べたら力が沸いてきた気がするよ。」
「そうですね。ちょっとステータスを見てみますね。」
「あーちょっと待って。」
「はい?」
「私、ステータスを見るのが嫌いで、1度も自分のステータスを確認したことがない
んだ。だから、私にはその数値とかも隠しておいてくれないかな。」
「あ、はい。分かりました。そういうプレイスタイルなんですね?」
「うん。数値化されたものに頼らないほうがなんか面白いかなーって。」
「そうですか、じゃあ、折角ですし私もこれからはそうしてみます!」
「えっ!? いやいや、無理しなくていいんだよ!?」
「なんか、ねこますさんを見ていると、楽しそうだなって思って。ちょっと私もやっ
てみたくなりました。」
むぅ。本当にお勧めできないんだけどね。この方法は、自分の能力もはっきりと分
からなくなるもんだから、おすすめはできないし。私は、ステータスに依存したくな
いのでやっているようなものだから戦いの最中に不安になることも多いので、私みた
いなことすると、エリーちゃんまでそうなりそうな気がする。
「ふっふっふ。さぁてどこまでやれるか見ものだね!」
「あっ! そう言われるとなんだか頑張りたくなってきました!」
こういう挑発に乗るタイプだったか。まぁ辞めたくなったらいつでもやめればいい
だけだからね。
「マスター。私もミノタウロスの肉を食べて、俄然やる気が出てきました。この調子
でこの塔のミノタウロスを食べつくす勢いで倒しましょう!」
くろごまはくろごまでなんかいきなり熱血系になっているぞ? なんかそういうや
る気を出す効果でもあったんじゃないのか。
かくいう私も、全身から力がみなぎってしょうがないというような状態だ。なんか
やる気に満ち溢れてしまう。まずいな、冷静さを欠いたまま突撃してしまいそうだ。
ん? もしかしてこれ、マイナス効果じゃないのか? 攻撃性が上がる反面、知能低
下的な効果があるって、毒みたいな。
いや、毒耐性は、あるから違うだろうけど、なんか戦いがしたい気分になってる。
なので、次にミノタウロスの肉を注意しようと思った。
味は、本当に最高だったからまた食べたいけどね。