第78話「迫りくる牛」
「モオオオオ!」
「向こうのほうが早いので追いつかれます!」
「そんじゃあまあ、こんなもんでもどうぞっと!」
私は前を向いたまま後ろに火薬草を投げつけた。ミノタウロスは巨体なのでこ
ちらに突進してきたらまず命中するだろう。そして、次の瞬間、爆発音が聞こえ
た。まぁざっとこんなもんだ。とはいえ、油断大敵だ。あまりダメージは与えて
いるとは思えない。せいぜい足止め程度だろう。
「グモッ!」
うめき声が聞こえる。攻撃したことで怒りを買ってしまったかもしれないな。
「エリーちゃん! 階段はどのあたりにあるかな?」
「ここから突き当たりを左に曲がったところです!」
「おっけー! ちなみにミノタウロスと戦ったことは!?」
「1回だけ倒したことがありますけど、なんとか倒しただけです! 執念深いとこ
ろがあるので倒さないといつまでも追いかけてきます。」
「で、あれば戦ったほうが良いのでは?」
「できるだけパスしたい! あいつは、階段の移動はできる?」
「してきますよぉー。かなりしつこいです!」
なんて面倒くさい奴なんだ。血気盛ん過ぎるだろ。そんな奴が1匹でるだけなら
まだしもこの先、繰り返しでるかもしれないなら、消耗したくないんだよなあ。
ここで倒すことで得られるメリットは多くなさそうだし。
「先の見通しがつかなくて嫌になるなあ!」
走りながらどうするか考える。一番手っ取り早い方法は、この塔から落としてし
まえばいいってことだ。バルコニーがどこかにあるはずなのでそこから落とすか、
あるいは、壁を突き破ってもらうかのどちらかだけれど、流石にここの壁を壊すほ
どの突進力は無いのではないか。
「あいつをこの塔から落とす作戦に乗る人~!!!」
「はいっ!」
「マスターの指示に従います!」
「モオオオオオ!」
「まずは階段おりなきゃだよっとおおお!」
咄嗟に火薬草を投げつけてやる。もう追い付かれるとは、こいつ怒りで速くなっ
たのだろうか。
「ここは普通の階段です!罠はないはずなのでご安心ください!」
「むしろあったほうが足止めできたんだけど! まあいいや下のフロア行ったら!」
「行ったら?」
「くろごまは、あいつの後ろに回り込めるように頑張って! そんで、あいつが突
進したら後ろから黒如意棒を伸ばして攻撃!壁に激突させて!」
「かしこまりました!」
「私は、どうすれば!?」
「私と壁を攻撃してみよう! 壊れなかったらそんときゃそんときで!」
「分かりました!」
それでさあ! 今気が付いたんだけど、この中で私が一番遅いんじゃないのか!
くろごまとエリーちゃんだけだったら結構簡単に振り切れていたのかもしれないぞ。
自分の能力の低さがこんなところで、出てくるなんて! くやしいなあ!
おっと、そんなことよりもう階段だ。
「よっし!」
階段を一気に駆け下りる。あっしまった。この先にもモンスターがいるかもしれ
ないじゃないか! ああもう! 2匹目のミノタウロスがいたりしたら嫌だけどや
むをえない!
「モオオオオオ!」
「もおおよくなあああああい!」
かくれんぼじゃなくて鬼ごっこだし。とりあえず下に降りると同時に、くろごま
は颯爽と動き出す。私は、火薬草で応戦。エリーちゃんは。
「ライトニングスピアー!」
「モオオオオオ!?!?」
マジカルステッキから放たれた、ほとばしる電撃の槍が、ミノタウロスに襲い掛
かりその衝撃で硬直したようだ。こっ、これが魔法か。すごいじゃないか。
「エリーちゃんつよっ!?」
「こんな威力初めてですよ! このマジカルステッキのおかげですよきっと!」
おもちゃみたいなデザインなのになだその性能の良さは! 可愛くて強いとかず
るくないかい!
「モウウウウウ!」
階段上でよろよろと動き出すが、そのまま階段の下まで横転するミノタウロス。
あれを食らってもう復帰かよ。自動回復能力でもついているのか。
「伸びろ! 黒如意棒!」
くろごまが吼え、黒如意棒が驚異的な速度で伸びてミノタウロスにぶつかる。で
きれば突進中にどついてもらいたかったが、これはこれでチャンスなので攻撃した
のだろう。
「グモオオオオ!」
これ、もう普通に倒せるんじゃないのか? ちょっと試してみるか。私は、電撃
の鞭を取り出して、ミノタウロスに叩きつけた。
「モモモモ!? モウウウウウ!」
「ぐえっ!?」
弱っていると思いきや、腕で吹っ飛ばされた。くっそ。近寄らなきゃよかった。
なんで私だけこうなるの! というかこのままだと1番役に立ってないのが私に
なるんだけど! もう腹立ったぞ!
「狐火! 狐火! 狐火! 狐火!」
ひたすら火を吐き続けることにした。
「もあ!? もあ!?」
もあもあってなんだよおい。思わず笑っちゃっただろ。なんだよ、もっと欲しいの
か。この狐火が。いいだろうご期待通りもっとやってやろうじゃないか。
「狐火! 狐火! 狐火! 狐火!」
「もあ! もあ! もあ! もあ!」
「ププッ。」
あっ、エリーちゃん今笑ったね。いや隠さなくていいから。私もなんかちょっと
面白いかもって思っちゃったから。
ダメージはいい感じで与えているようなんだけれど、なんかその、こいつが焼け
ると、いい匂いがしてくるから困るぞ。なんだよこれ。普通に牛肉を焼いているよ
うな旨そうな匂いがするぞ。
「モアアアアア!」
ああなんていうか戦わず逃げようなんて言ってたのに結局こうなっているし、う
うまくいかないもんだなあ。
「マスター、ここまでやりましたし、このまま押し切ってしまいましょう。」
「あと少しで倒せそうな気がしますので私も援護します。」
「二人とも・・・そうだね。ここまでやったからには倒したほうがいいよね。」
というわけで、結局倒す方向に切り替えた。
「ライトニングスピアー!」
「伸びろ!黒如意棒!」
「火薬草10個!」
・・・・うわー。私だけ地味だー。もっとかっこいい技覚えたいもんだね。