第76話「部屋から出る」
もう、この部屋には用事がなくなったので出ることにしたが、盗賊であるエリー
ちゃんに、念のため室内に何かないか探ってもらう・
「何か他にはありそう?」
「何もないですね。強いて言うならこの宝箱を持って帰りたいくらいです。アイテ
ムインベントリに入らないので難しいですが。」
「あの、私からよろしいでしょうか? いっそこの塔から投げ捨てて出た時に持っ
ていってしまえばいいのではないでしょうか?」
私もそれは思いついていたんだけれど、その後も結局草原とかまで持っていくの
なら邪魔になるだけだしいらないやと思った。
「それ! いいかもしれないです! この宝箱の宝石、実はどうあってもとれない
のですが、この高さから落下したショックで取り外しができるようになるかもしれ
ないです! ぜひ塔から投げましょう!」
エリーちゃんが目を輝かせて話し始めた。なんか急にノリがよくなったけれど盗
賊を選ぶだけあってお宝に目がないのかな。
「まぁここに置きっぱなしにしていても何にもならないし、投げちゃおうか。」
反対する理由は特になかったので、塔の外壁から投げることにした。モンスター
か何かにぶつかっちゃう可能性はあるけどそれはまぁしょうがないということで納
得することにした。
宝箱は、結構重かったがとにかく頑張って運び、どんどん窓から投げた。空から
宝箱が降ってきて死ぬ確率とかいくらなんだろうかなんて考えてしまったがそんな
んで死んだらやりきれないなあと思った。
重量があるだけに、この高さから落ちたら大ダメージを受けるのは間違いなしだ。
「ふぅ・・・。やっと全部終わったね。」
時間は、かかったが12個全部を投げ終わった。さてようやく脱出なんだけれどその
前に考えていることを」
「エリーちゃん。この塔って安全地帯とかそういう場所はある?」
「えっと、あることにはあるのですが、塔になってから少し道順とかが変わってし
まっていて確実にあるかと言われると自信はないです。」
知らない場所が増えているのであれば仕方がない。安全地帯があればく
ろごまをそこまで連れて行った後にログアウトして、また後日先に進んでいくとい
う流れができると思っていた。それができないのであれば、一気に突き進んでみよ
うかなと考えた。
「モンスターはどんなのがでる?」
「弱いモンスターは、ゴブリンとかスライムです。強いモンスターは、ミノタウロ
スとか、ゴーレムみたいなのです。他にも・・・。」
エリーちゃんから詳しく聞くと、結構色々出てくるらしい。全容は把握しきれて
いないようなのだ。ここが塔になったことで変化していることもあるのだろうし、
これは、結構大変かもしれない。そもそもこんな高さまであるくらいなんだから強
敵がうじゃうじゃいてもおかしくないだろうし。
「じゃあエリーちゃんが、色々と警戒してくれないかな。そんでもって私とくろご
まが奇襲を仕掛けるからよろしくね!」
「はい! ああ・・・やっとチームプレイができて役に立てます・・。」
「エリー殿。楽しみましたぞ!」
「はい!がんばりますね!」
うぉっ。サキュバスだけあって笑顔が可愛いなおい。この可愛さを売りにすれば
頭の悪そうな男をひっかけて一稼ぎできそうな気さえしてくる。とはいえ今は、そ
ういう色仕掛けを使えるような相手がいないので意味がないだろうが。
「よし、じゃあここから出るかなあ。あ、しまうまの杖を回収しないと。あれ?」
しまうまの杖がないぞ。どこいった?
「あっ。もしかしてこれのことですか?」
おずおずとしまうまの杖を見せてくるエリーちゃん。
「ああそれそれ、拾ってたんだ。ああっいいよ。それ上げるよ。」
「えっあの、これ結構すごいレアアイテムらしいんですけど・・・。」
「今までその杖だけあまり役に立ったことなかったんだよねえ。なんかすごい効
果があったりする?」
「ソルジャーゼブラの杖はすごいレアということだけしか分からないんですよー。」
「うーん。やっぱりそんなもんかあ。効果とか判ればいいんだけどなあ。」
「とりあえずお返ししておきますよ! とても貴重な物だったら受け取るなんてと
んでもないので!」
えーっと思ったけど、そこまでいうなら返却を受け付けることにした。いやまあ
これしまうまの骨の杖だからねえ。ちょっとグロいから、可愛い系には似合わない
と思って返却されたと思えばいいか。
マジカルステッキなんて可愛いものがあるんだから余計不要かもしれないし。
「これで門をくぐり抜けて、後はこの階段を下りていくだけかあ。またあの槍の罠
がでてきてくれればいんだけどなあ。」
「あれいいですよね! 槍の穂先を集めていました!」
「おおっ。エリー殿もマスターと同じく道具集めをしていたとは。」
「やっぱり集めるよね! ってもしかして無限に集められる?」
「はい! 時間経過で復活するので、私は沢山集めました!今5000個あります!」
「おおっ!すごい!」
5000個集めるとはやるなあ。やはりこういう物を集めるのってはまるよね。
「私は薬草を8000個以上集めたよ。集められる場所があるから教えてあげるね!」
「そんないいところがあるんですか!夢のようです!」
「だよねだよね!」
話が合うって素晴らしいね。なんだか楽しくなってきたなあ。女友達ができて
よかった。ブッチなんかいっつもからかってくるけど、こんな風に素直に会話を
してくれると嬉しいな。なんか、妹ができたような気分だ。
「お二人とも、とりあえず今は脱出が優先ですから、先を急ぎましょう。」
「はいー!」
「はーい。」
そうなんだよねえ。とりあえず今はここから脱出したい。その後からじっくり
アイテム集めをしに来訪したい。
それからは、エリーちゃんの指示の元、階段を下っていき、最初に来たところ
まで戻ってきた。ここから更に下に移動を開始した。今何階あたりにいるのかは
よく分からないけど、もしかして100階建て以上なんじゃないのだろうか。超巨
大な塔だけに、脱出までかなり時間がかかることを覚悟しないとだな。
よし、モンスターとの連戦が始まるかもしれないけど頑張るぞ!