第71話「塔の天辺付近」
塔の上に見事乗っかることに成功した私達は、浮上する様を見届ける。地表がど
んどん遠くなる。これは、どこまで上がるんだろう。結構高いかもしれない。まさ
か雲に届くまでってことはないだろうな。どんどんペースが速くなるんだけれど、
これは、どうなっているんだ。なんか揺れの衝撃も強くなってきているぞ。
「おっとっとと!」
というわけで、振り落とされないように、這いつくばる。これが実は塔じゃなくて
塔型の巨大なモンスターだったりしたら内部に入って倒すっていう流れなのかもし
れないな。普通に塔の形をしているからそういうことはないと思うけれど、そうい
うモンスターがいてもおかしくないって状態だし。
「くろごまは大丈夫?」
「はい! まだ揺れは続きそうですが、なんとかなりそうです。」
ここまできて、振り落とされたらたまったもんじゃない。絶対にしがみついてや
る。それにもうこんな高さから落ちたら絶対死ぬだろう。やってしまったからには
しょうがない。とにかくこの塔が浮上しきるまで耐える。
そして15分ほど経過しただろうか。徐々に揺れが収まっていき、やがて静かにな
った。
「ふぅ。やっとか。どれどれ、どのくらいの高さになったか・・な。」
流石に雲の上とまではいかなかったようだが、それに近い高さはあった。これはも
まずったか。ここから地上に戻るまでかなり時間がかかりそうだぞ。うーん。これ
は安全地帯を見つけるまではログアウトできなそうだな。
「すごい高さですね。それにしてもこの荒れ地にこのようなものがあるとは。」
私もびっくりだよ。そしてあのコマンドが分からないといけないとか結構酷くな
いか? 分からない人にはヒントも何もないわけだろうし。それとも上級者向けと
なっているとかなのだろうか。
「とりあえず、探索してみよう。」
塔の天辺付近にはいるが、天辺ではないのでまずはさっさと最上階を目指す。こ
こであっさり攻略できてしまえば楽だと思うが、そんなオチはむしろ期待していな
い。謎解きがあったり強いモンスターがいるのが常なのだから。
「何か不気味な気配を感じますね。」
「やっぱりこの塔のボスか何かがいたりするのかなあ。」
大きな毒狸級じゃなければいいんだけれどな。まぁそうであってもなんとかする
しかないからなんとかするけど。自暴自棄ってわけじゃない。ただ、絶対に負けた
くないって気持ちが強いだけだ。
塔の内部は、明るかった。蛍の光のようなものが無数に動いている。壁際には、
ろうそくのような明かりがあるが、触れてみても熱さはなかった。ゲーム的な表現
というわけか。それともこういうのが魔法なのかな。
床は、煉瓦造りのようになって言うけれど、これも本物の煉瓦ってわけじゃなさ
そうだなあ。というかこの煉瓦欲しいな。草原付近に作る予定の村にでも流用でき
たりしないんだろうか。むぅ欲しい。
「マスター。あそこに昇り階段があります。」
くろごまに指摘するほうを見ると、階段があった。とりあえず、階段に向かって
攻撃をしてみる。ふむ、本物の階段のようだな。こういうのが幻覚だったりしたら
嫌だなあなんて思っているので警戒して攻撃をしてみた。
そもそもこの塔自体が幻覚だったり、既に私達が幻覚を受けてしまっているせい
で塔にいるものだと思い込んでいるなんていう可能性も否定しきれないけれどね。
「隠し階段がある可能性も考えないとね。あるいは隠し部屋。」
「そのような場所があるかもしれないのですか?」
「うん。魔法とかで認識をずらしたり、隠れたスイッチがあったりってことが結構
あるんだよね。」
上に行く前に、床や壁に怪しいところがないか探すことにした。脱出ゲームなん
かではくまなく怪しい所を調べるタイプなのでこういうのは得意なのだ。徹底的に
やりすぎて気がづけば朝だったなんてこともあったくらいだけど。
「探せ!草の根分けても探すんだ! ここからは絶対に逃げられないってことを思
い知らせてやるんだ!」
「何かに逃げられたのですか?」
「っ!」
くそう、ツッコミ不在はこういうとき困るよな。まあブッチがとことんツッコミ
をいれてくるからそれに慣れてしまっていたっていうのもある。
「とりあえずひたすら、壁や床を押してみよう。」
というわけで、ここから私と、くろごまは手分けして階段付近の壁や床を押して
みるのだった。隠れたアイテムとかがあったら嬉しいなあ。思わずにやつきながら
探索を楽しむ。何かが手に入るかもしれないっていう期待を高めずにはいられない。
何もなかったときはがっくりするけど、こういうわくわくは止められそうにない。
「マ! マスター! 怪しい所を発見しました!」
「なにい! それはまことなりか! よし待ってな!」
って、くろごまに先に見つけられてしまったか。ちょっとくやしかった。
ひたすらクリックは基本です。