第70話「戻れない?」
荒れ地をひたすら歩き続けたけれど、ずっと同じ場所を歩いているような気分に
なったので、目印を置いたら予想通りにループしていた。荒れ地内に閉じ込められ
てしまっているようだ。
行くときは、そんなことがなかったのに帰り限定でそんな現象が発生するように
なっているなんていうことで腹が立った。
何を達成すればこのループから出られるのかはまだ分からない。というか何でま
たループなんだよ。面倒くさいなあ。帰り道はすごい迷路ができるとかそういうの
にしてくれないもんかね。
「謎解きの時間がやってまいりました~!」
唐突に言ってみる。このだだっ広い荒れ地をどう動けばこのループを抜けられる
のかを考えなければならない。
「まず、くろごまに聞いてみよう~!熱帯雨林から帰る時、こんなことあった?」
「今まで一度もありませんでした。」
つまり、今回熱帯雨林で狸と戦ったことと、私がいるからってことなんだな。私
が何をしたというんだ。こんな荒れ地なんかに閉じ込めるとは断じて許されないこ
となんだぞ。それなのにさあ。
「どうしろって言うんだろうねえ。全く。」
「いたずらに歩き回るだけだと消耗しますし。考えねばなりませんね。」
何かのイベントが進行中の可能性はあるか? 時間経過でそのイベントが開始さ
れるまでは何も起こらないのかもしれない。だからここでじっとしていればいいと
も思うが、それで何もなかったときは無駄に終わってしまうので、最初に待つこと
はやりたくないなあ。
他に考えられそうなことをひたすら羅列していってみるか。この空間内に隠され
たモンスターがいる。そいつを倒さないと出られない。
私かくろごまがどちらかが死亡判定されるまでは出られない生贄イベントの可能
性。こういうことやるのは古いゲームにはあったけれど、最近のゲームではないと
思う。
あと嫌なのは、ブッチが洞窟にいた時の立場になることかな。誰かが救助に来る
までずっと動けないままになるみたいな感じ。
うーん。どれにしてもなんか嫌な感じしかしないな。ちゃっちゃと原因を解決し
て戻りたいのに、足止めくらうとは思わなかった。あ、そういえばブッチのとこに
行くときのマップでは例のコマンド的なことをやってみたけど、まさか今回もあれ
なのか?一応やってみるか。
「今回も、北北南南西東西東鎌を振る、杖を振るをやってみるよ!」
「はい?なんですって?」
「まあ騙されたと思って私と同じように移動して。」
「分かりました。」
くろごまと一緒になって、一定の距離まで進んだら次の動きをしてみる。大体20メ
ートル感覚くらいだ。前回も確かこのくらいでやっていた気がするけれど、まさか
今回もそうだってことはないよね。あったらちょっと舐めているのかと怒ろう。
こうして、最後に久々に取り出したしまうまの杖を振った。が、何も起こらない。
「まぁそんなもんだよね。一回できたからって、そんな偶然が続くわけ。」
ズズズズズズズズズ!と、少し離れた位置から、地響きが鳴り始めた。何だと。こ
のゲームの製作者はどれだけこのコマンドが好きなんだよおい。ゲームによっては
自爆コマンドだしあまりやりたくもないんだぞこれ!
「ま、マスター!じ、地震です!何かがでてきますよ!」
「い、一体何がでてくるんだろうね!!!」
何でも願いを叶えてくれる龍とかだったらいいけどそんなことはないよね。それに
何でもなんていったところでここゲームの世界だし。本当に何でも叶うなんてなっ
たらかなり面白いんだけどなあ。
「何がでてくるかはお楽しみだけど、敵だけはこないでください!」
それだけは願っておかないとなあ。ここで襲われたらたまったもじゃないし。勝
つ気満々ではあるけどね。
「あの時は、洞窟がでたけど、今回はさぁどうくる!」
地響きがどんどん大きくなると同時に、地面が盛り上がり、姿を現してくる。こっ
これは!まさか塔か!?うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「くろごま!急ぐよ!早く!あの塔にしがみつくよ!」
「はっはい!?」
「今のうちにてっぺんのあたりにくっつけば、最上階から開始で楽ができると思う
からね!ほらほらあああいくよおおお!」
何かが姿を現した時に、全部が出てくる前にさっさと突撃したいと昔から思って
いたのだが、ついに念願が叶う時がきたようだ。ふっふっふ。大体偉そうな奴は1番
上にいたりするのと、お宝もてっぺんにあるのが常だったので、これは大分楽がで
きそうだぞ。はっはっはっは!
「絶対落ちないようにね!!!」
「はい!」
猿も木から落ちるとは言うからね。般若レディも塔から落ちるなんてなったら、死
んじゃうかもしれないけど。
「おっおっおっ!?どんどん上がっていく!!?すごい!よーしよし!いいぞいい
ぞもっとやれ!」
地面からどんどん盛り上がってくる塔。どのくらいの高さなのだろうか。この塔が
高ければ高いほど優越感にひたれるのでどんどん上がって欲しい。
「はっはっはっは!いっけええ!!!」
私はなんとなく叫びたくなった。だってこういう美味しい展開なんて二度と来ない
かもしれないじゃないか。それならやりたかった事を思う存分楽しむのだ。
よし、この塔のクリアはすぐできそうだ!私は今日もやったるぞー!