第69話「荒れ地を歩く」
次の日にログインすると、ドラゴンフルーツはなくなっていた。くろごまが全て
食べたという事か。すごいなあ。あ、それとも渡されたからには全部食べなけれ
ば失礼とかいう考えだったのかな。
「食べきれるとは思わなかったよ。流石だね。」
「ええ、マスターから渡されたものを残すなど以ての外ですから。」
やっぱりそういうことか。忠誠心があっていいなあ。
「んー。でも無理してまで食べる必要はないんだからね。残ったら残ったでまた回
収するだけだし。」
そこまで言って思った。こういうアイテムって、腐ったりするのか? 薬草とか
ずっと保存しているものとか劣化しているようなことはないけれど、外に出してい
たら、ダメになるとかありそうな気がする。
仮に、食べ物をわざと腐らせたりしたら、それが毒として利用するなんてことが
できそうなんだけれど、やってみてもいいかな。そういう実験をやることで新たな
発見があるわけだし。何より私は錬金術士だからね。
「えっと、腐らせた果物を利用することができるかもしれないので、余ったときは
その研究材料にするよ。だから安心してね。」
「なるほど、食べる以外にも使い道があるということなのですか。流石はマスター
です。私では思いつかない発想です。」
いやあゲーム好きなら考える発想だと思うよ。何でも自由にやってみようって私
みたいな人も沢山いるだろうし。
「それじゃあ、今日は、荒れ地を抜けた後、私がいた故郷になるのか、そこまで案
内してもらうからよろしくね。」
「はい。今度こそマスターを守れるように誠心誠意尽くさせていただきます!」
「気を張りすぎると失敗するからいつも通りで!いつも通りでいいんだよ!」
「はい!全力で邁進してまいります!」
「ああうん。もういいや。頑張ろう。」
気合い充分なくろごまだったが、私はこういう状態って危ういと思っていたりす
る。1度失敗を経験すると、それを繰り返したくないと思うがあまり、空回りになっ
てしまい、かえって上手くいかなくなることがある。そして、そこでまた失敗して
しまうと、どんどん自分を追い詰めるようになってしまい、悪循環に陥る。
失敗が続いてもへこたれない精神があればいいんだけれど、真面目そうなタイプ
だと、段々引き際が分からなくなるから、そこは上手くフォローしてあげないとい
けないな。なんていったって私が主人になるわけだし。
そんなこんなで、くろごまと、荒れ地を歩くことになったが、特に変わり映えが
ない景色が続くだけだった。
面白いことでもあればいいと思ったけれど、本当に何もない。あ、でもそういえ
ば人面樹はどうなっているんだろうか。ここでまた「きいいい」とか叫んだらでて
きたりするんだろうか。あと、くろごまも召喚できるんだろうか。
「ねえ、ここで人面樹って召喚できるのかな?」
「このあたりだと失敗するかもしれません。私とマスターが出会ったあたりだと成
功するのですが、場所によって上手くいかない時があります。」
つまり何らかの条件を満たす必要があるということか。荒れ地と一口に言っても、
このあたりは、木が非常に少ない。もっと木がありそうなところだったらいいと言
うのか。だとすると、一定数以上のが木が集まる場所だと成功するのかな。
なんとなくだけれど、ここでやってみたらどうなるのか気になった。
「きいいいい!」
声が荒れ地に響き渡るだけで何も起こらなかった。うわ、恥ずかしいなこれ。何一
人で喚いているんだ私。山に向かってやっほーって言うような感じならまだしも、
きいいいってまるで悔しがっているみたいだよな。ハンカチでも加えて。
「やっぱり無理だったね。気合いがあればできると思ったんだけど。」
「では更に気合いを鍛えれば、召喚できるかもしれませんね。」
なんだいその力技系の考え方は。鍛えれば何でもできるっていう考え方は前向き
でいいけどね。
「こういうのには法則があるはずなんだよ。だから私は、それを解明して見せるよ。
今じゃないけどね。」
そんな簡単には上手くいかないと思うので、とりあえず目標設定だけだ。
「それにしても、このあたりなんでこんな荒れ地になっているんだろうね。なんか
戦いでもあったのかな?」
「人族であればこのあたり一帯を荒れ地に変えてしまうのは容易でしょうね。その
逆もしてしまいそうです。」
何だって? 人族? ちょっとその話を詳しく聞かせてもらおうかな。荒れ地を
歩くだけって暇なもんだし。
「人族っていうのはその、どういう奴らの事を指しているの?」
「人族は、種族の一種でして、世界を牛耳る存在ですね。高い知能を持つだけでな
く様々な能力を持っています。」
ああ、うん。所謂普通の人間ってことなだろうけれど、このゲーム内で大量にい
るはずだから、脅威と言えばそうなるね。それにしても世界を牛耳るか、大きくで
るなあ人族。
「あっ、私の種族だけど、般若レディって言う種族だからね。」
「1度も聞いたことがない種族です。マスターは希少種ということですな。」
な、何だって!? 般若レディが希少種だって? 聞いたかい! こんな世界中で
プレイされているゲームの中で、少数派だったってことは感激した。もしかしたら
世界でただ一人かもしれないってことかもしれないじゃないか。やったね。最初は
本当になんとなくで選んだだけだったけれど、最近はもうとても愛着ができたから
なおさら嬉しいよ。
「ちなみに私の友達は、サイコロプスっていう種族なんだけれど。」
「サイクロプスではなく、サイコロプスですか?」
「うん。」
「そちらも聞いたことがありませんね。」
おお、ブッチ。お前もか。どうやら私達はレアキャラクターのようだぞ。もしか
したらレアキャラ狩り的な対象になるかもしれないぞ。怖いなあ。それにしても。
「くろごまって本当に色んな知識があってすごいね。新しい発見があって面白いよ。」
「私も、マスターと会話していると、新たな知識が習得出来て感動しております。」
うんうん。互いにいい影響を与えあっているってことだね。素晴らしいことだ。
「ところでさ、私も人族っぽくは見られてもいい感じではあると思うんだよね。」
「マスターは顔を隠すことができれば、人族として偽ることができそうです。」
「まぁ、その角とか牙がついているからねえ。」
般若レディの私の頭には鋭い角が2本ついている。牙もしっかり生えている。ちなみ
に髪も生えていて、黒髪ロングストレートなのだ。ふっふっふ。べっぴんさんだぞ。
「私はその人族との交流も狙っているんだけどさあ、なかなか遭遇しないんだよ。」
「人族は突然姿を現したら、資源を貪りつくす存在ですからあわないほうがよろしい
かと。それと奴らは狡猾です。油断なきようお願いいたします。」
そうなんだよね。人って残酷なことをしたり、ズルいことを平気でやってきたり
するんだよね。今まで酷い目にあわされてきたからね。ゲームで何度ぼこぼこにさ
れてきたのか数知れないよ。
「いつかこの私が人族に思い知らせてやるから楽しみにしてなよくろごま。」
「おお!流石マスターです!どこまでもついていきますぞ!」
そんな風に雑談をしながら、私達はとぼとぼとひたすら荒れ地を突き進むのだっ
た。
般若レディは希少種!らしいです。
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