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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第2章「般若レディと優雅な目標(仮題)」
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第67話「毒狸の母」

 振り返ると、そこには貫禄がありそうな巨大な狸がいた。鋭い目つきで、歴戦の

強者とでも言わんばかりの圧迫感がある。体のあちこちに傷があるが、名誉の負傷

というものなのだろうか。

 というか、こんな実力ありそうな癖に、子供の躾けは全くできていないのか。そ

れともそういう種族だからなのか。

「代わりに躾をしといてやったよ。礼はいらないよ。」

「ありがたいねえ。じゃあ、その子をさっさとお返し。」

「はっはっは。こいつを渡したら私の命が危ないのに渡すと思う?」

「おやおや、何をそんなに怯えているんだい? なあに悪いようにはしないさ。」

「絶対に安全が確保できないなら、何の条件も呑まないよ。」


 この状況で優先することは、死なないことなんだけれど、そのためにはこの大き

い毒狸を退けなければならない。こいつの子供なのか分からないけれど、ここです

ぐ渡してしまったら、間違いなく復讐される。

 対峙してすぐに内心では静かな怒りで腸が煮えくりかえっているだろうというこ

とは読めた。すぐさま私からこの毒狸を奪い返したかったんだろうけれど、私と同

じく絶対に安全に取り返したいということから攻撃してこないのだろう。

「さて、どうしたもんかねえ。こちらとしても、馬鹿息子を取り返さない事には引

くことができないんだが。無理矢理奪い取っちまってもいいのかい?」

「ちなみに私の体には火薬が仕込まれているから自爆するくらいはできるからね?」

 リュックには火薬石弾があるので嘘というわけではない。それでこの毒狸が死ぬ

かどうかについては微妙だけれど、私に手を出せば危険に晒すぞということで脅し

をかけておく。


「そうくるかい。こっちとしてはその子さえ取り返せば見逃してやってもいいんだ

けどねえ?」

「いやあ、そもそも見逃す気はないよねえ? こいつを返したら絶対に襲われる自

信があるよ。お天道様に誓っていいよ。」

「なかなか言うね。でもこっちだって、虎穴に飛び込むくらいはできるんだよ?」

「一応言っておくけど、もしここで私がやられたりしたら、絶対にやり返しにくる

からね。いつか、必ず、どんなことがあってもやり返すよ。」

 これは本気だ。何度ゲームオーバーになっても何度だって挑戦してきた。私はこ

とゲームにおいてはそう簡単に諦めないタイプだ。仮にここでこの毒狸の母? な

のか分からないけれどやられたら、絶対にやり返しに来るつもりだ。

 こっちは、恐らくデスペナルティがあるが、何度でも復活ができる。しかしこの

毒狸はモンスターなので、1度でも死ねばそれっきりのはずだ。私のほうが立場と

しては優位にある。とはいっても、モンスターはAIなので、そういう意味が通じる

かどうかは分からない。


「どういう事なのかはよく分からないけど、ふむ。そしたら契約でもするかい?」

「契約?」

「お互いが約束を守るってことを術で契約するのさ。」

「断る。」

「おや? こちらがもし約束を破ってもそれは、保証されるんだがね?」

「それが保証されている保証がない。だからダメ。」

 契約が保証される保証がない。相手が用意した都合のいい契約に黙れてる可能性

があるのに何が契約だ。今までそういうのが偽造されていたとか、実際はでたらめ

な契約だったとか山ほどある。そんなものを信じてたまるか。


「なかなか頑固な子だね。契約というのはね。」

「そもそもそんな言葉なんか意味ないよね?本気でこいつを助けるつもりあるの?」

 段々面倒くさくなってきた。私としては、こいつらと関わり合いたくないだけで

二度と襲わないという証明を示してもらいたいのだが、それをしてくれないのが問

題だ。

「あのさ、私はここでのんびりドラゴンフルーツを刈りたいだけなの。そしてあん

た達にも襲われたくないし、監視もされたくない。つまり、一切干渉をするなって

ことなんだけど、それをするつもりはあるわけ?」

「この熱帯雨林でそんな道理が通ると思うかい? 弱肉強食の熱帯雨林に飛び込ん

できたからには安全なんてものはないんだよ。」

 話は平行線のようだ。参ったなあ。弱肉強食とかそんなの知らないし。私は薬草

が大好きな草食系なんだから、そんなこと言われても困るよ。

 

「どうする?じゃあいっそ私と戦う?」

「はっはっは。威勢がいいようだけれど、あんたが私に勝てると思うのかい?」

「思わないね。」

 なんとなく分かる。今の私じゃこいつには、勝てない。しかし、未来の私なら絶

対に勝てる。今までもこれからも、何かと戦う時はそう思っている。

「全く面白いことを言うねえ。妖狐の尻尾なんて生やしているから何事かと思えば。」

 妖狐の尻尾について言及したか。狸と狐の化かしあいなんて言われることがある

けどやっぱり何か関係があるのかな。それにしても、こんな会話じゃあ馬鹿試合じ

ゃないかってブッチがうつったよ。ああもう。


「もう飽きた。埒が明かないし、ほら、返すよ。」

 狸質になっていた毒狸を巨大な毒狸に放り投げた。それをうまいことキャッチし

たようだ。さて。

「ん?どうした?かかってこないのか?」

「やり返されるのが「怖い」からね。あんたは多分ここで倒してもまたやってくる

ってことだろう?私がここであんたを倒すのはたやすいけれど、それをやった後の

報復を考えたら、手を出すわけにはいかないね。」

「ほうほう。」

まぁ本当にやり返すけどね。こんなでかい奴は狙わずに小さい奴からじわじわと倒

して弱らせていくという地道な作戦で。レベル上げは大得意だからやると決めたら

絶対にやるよ私は。


「そうやって油断させてから、落とすなんて罠にかかりそうだから、私はこれでお

さらばするよ。」

「ふん。まあそういうな。無事に子供も取り戻せたことだし、躾けてもらった礼に

いいもんをくれてやるよ。」

「え?」

 巨大な狸が何かを投げつけてきた。なんだこれ、狸の尻尾か?


メッセージ:毒狸の尻尾を手に入れました。装備します。


ん?勝手に装備するのか?ってなんだこれ。私のお尻からは妖狐の尻尾に加えて、

毒狸の尻尾もついていた。ええ。こういうのは同じ種族の奴で揃えるとかさあっ

てなんかバランスが悪すぎないか?


メッセージ:毒狸の尻尾を装備したことで「毒耐性」を得ました。


「んあ?毒耐性?」

「これで、ここらの毒持ちの相手もなんとかなるだろう?」

「あ、ああ。くそ、礼はいらないっていったのにも貰っちゃったか。くそっ。」

なんか貸しを作ったみたいな気分だな。けど私はそういう貸し借りの概念とかよく

ある展開で嫌いなのですぐ忘れるだろう。


「ふー。じゃあそっちは、これでも持っていきな。」

 薬草を投げて渡す。

「ほう、薬草かい、ここらでは貴重なんだがいいのかい。」

「それの100倍は持っているから安心しなよ。」

「それはちょっと引くねえ。」

おい、何を引くってんだこの狸。ふざけるなよ。

「ま、お互い、極力不干渉ということにしとこうや。」

「ああ。それじゃあ私達は消えることにしよう。」

なんか一瞬で消えやがったぞ。早すぎるだろこの狸。それにしても、あー緊張した。

強そうな奴がくるなよなあ全く。


「あ、しまった。くろごまのことを忘れていた。」

まさかやられてないよね? ということで焦ったのでくろごまのところに急いで駆

けつけることにしたのだった。

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