第65話「珍客」
私と、くろごまは、黙々とドラゴンフルーツ狩りを続けた。1個、また1個と手に
入るたびに、これが私の命の源になるのだと思うと心が躍る。こうしてドラゴンフル
ーツが沢山収穫できると、笑顔が止まらない。いやあ、崖から落ちた時はどうなるこ
とかと思ったけれど、結果的にいいアイテムが手に入るようになった。
やはり、同じ所にずっといるだけじゃだめなんだな。たまには冒険しないと、欲し
いものは手に入らないのがよく分かった。
熱帯雨林にはなんとなく色んなアイテムがありそうだから、沢山探し周りたいな
あ。ゲームによくあるエリクサーなんてものがあってもおかしくなさそうだなあ。
怖いモンスターはブッチが戦うの好きそうなので、なんとかなりそうだし。早く
合流したいけど、みんなもこっちに来ている可能性もあるんだよな。その時はその時
だけれど、この後は一旦戻りたいかな。
「マスター、恐らくそろそろ1000個を超えたと思うのですがどうでしょうか?」
「ん?えーっとね。」
もうそんなに集まったのだろうか。確認してみると1200個あった。予想以上に早く
集まったようだ。もう少し集めていきたいが、あまり長くなると、ゲーム内でも夜
になってしまい、熱帯雨林がより危険になるため、切り上げることにした。
「集まったし、戻ろう。」
「はい、では来た時と同じように私についてきてください。」
「あいよー。」
くろごまの後ろを警戒しながらついていく。そういえばドラゴンフルーツ狩りして
いる時も、何からも襲われなかったけど、ドラゴンフルーツって不人気なのかな。取
り合いとかになってもおかしくないんじゃないのかと思ったんだけれど、何事もなく
終わったせいか、むしろ不安になってきた。
「ドラゴンフルーツって食べにくるモンスターとかいないのかな?」
「毒狸などはたまに食べているようですよ。今日は見当たりませんでしたが。」
うげぇ。毒持ちが来る時があるのかあ。嫌だなあ。でもなんで今回は、来なかった
んだろう。私達に警戒していたってことなのかな。それとも、いつでも沢山実るから
どうでもよかったってことなのかな。
「ただ、これだけ出てこないというのはもしかすると、私たちは既に狙われている
可能性もありますね。」
「えーそれは嫌だなあ。」
気が付いたら囲まれていたなんていう状況かもしれないなんて嫌だなあ。これで
も警戒しているつもりだったし。それとも、沢山収穫して疲れた時を狙っていたと
でもいうのだろうか。私は全然疲れていないけれど、くろごまは少し疲れた顔をし
しているような気がした。軽く終わらせたつもりだったんだけどなあ。
「奴らは最低でも2匹で行動をしていますので、1匹が出てきたら、2匹目や3匹目も
いますので油断しないようにして下さい。」
「そうなのか。分かった。」
時間差で現れる系か。一匹目にダメージを与えると助太刀しにくるモンスターと
か色んなゲームにいたなあ。最初から2匹で来てれば脅威なのに途中で来るとか馬鹿
じゃないのかなんて思ったものだけれど。
ただ、今回の場合は、そのやり方は活かしていると思う。毒持ちなんだから、1匹
が囮になっている間に2匹目が奇襲を仕掛けて毒を浴びせてくるというのはなかなか
いいやり方だろう。私でもやっていると思う。そこで2匹目が出てきた時に、裏をか
いて3匹目とか。うわ本当に嫌だなあ。
状態異常攻撃は、本当に嫌らしい攻撃だ。じわじわと弱らせてからとどめをさし
にくるとかやめろとしか思えない。私ならやるけどね。だって勝ちたいし。そう考
えるとモンスターだってそんなものか。
私達は、茂みに何か隠れていないかを確認しながら移動することにした。当然す
ぐ見つかるような位置にいることはなく、1匹も見つからなかった。いるとすれば
もう少し距離をとっているところかな。
「ものは試しにやってみるかな。威圧!」
何かしらの反応があることを期待して、威圧を放ってみる。ん?少し遠くで木が
揺れたり、草むらがざわついてたぞ。ということはいるんだなやっぱり。
「いるということですね。」
「そうだね。面倒くさいなあ。くるならさっさと来いって思う。」
今ので向こうもこちらが気づいたってことで警戒するだろう。私としては、さっ
さと攻撃を仕掛けてきて欲しいというのがある。こちらからは相手の姿が見えない
というのが安心できなくて疲れるからだ。1度でも1匹が姿を見せてくれたらどんな
奴なのか分かるからいいんだけれど、動きがなさそうだ。
「とりあえずドラゴンフルーツを食べるか。」
「えっ?今ですか?」
「今1回、威圧を使ったからね。その分の回復だよ。」
大きいので1個丸々食べるのに時間がかかる。ドラゴンフルーツの回復量はいまい
ち分からないが、とにかく食べる。勿論食べながらも、襲われてもいいように準備
はしておく。
「多分出口に着くまでの間には襲ってくるよね?」
「そうですね。先ほどの威圧でやられたことで腹いせに襲ってくると思います。」
腹いせって、あいつらがこっちを監視していたからいけないんじゃん! そんな
ストーカーみたいな真似は許さないよ。私が一方的に監視するのは、私が許すけど
逆は許さん! ん?ところで気になったんだけど。
「監視だけしていた可能性もあるのかな?」
「ありますね。自分たちの領域に珍しい客が来たとなればそのくらいはしますよ。」
「なにぃ。」
という事は何だ。私は本当にただ、なんかいるから様子は見ておこうねって思っ
ていた狸に因縁つけたってことじゃないのか。うわ、これ私が悪者のノリってこと
なの? いやいやいや、でもそんな監視なんて嫌じゃん! こっちだって初めて来
た場所で警戒しているんだよ。いきなり襲われるかもしれないなんて怖いじゃん!
「私が下手に威圧を放ってしまったから失敗したってあるかな。」
「初めからこちらを潰そうと考えていたかもしれないので、失敗と言うわけでもな
いと思いますよ。」
おお、くろごまのナイスフォローが入ったぞ。そうだよね。きっと最初から私達
が気に入らないって思っていたよね。だからじろじろ見てきていたんだよね。こい
つら勝手に住処を荒らしやがって、ちょっと焼きをいれてやるぜ的な感じで見てい
たかもしれないよね。だから私がちょっと威圧を放ったくらいなら全然問題ないよ
ね。よし、気分が晴れたし、後は倒すだけだ。
「確実に狸かどうかは分からないけれど見つけ次第この鞭の餌食にしてやるよ。く
っくっく。この熱帯雨林から生きて帰れると思うな。」
「あの、それはどちらかというと毒狸の台詞のような気がするのですが。」
「草の根分けてでも、息の根を止めてやるから首を洗って待っていろよ。おっとそ
れはアライグマか。狸とは違うんだよな狸とは。」
「マスター・・・。」
ため息をついてくろごまがこちらを見てくる。こういう悪ノリが楽しいんだよ?
「とにかく、警戒しながら参りましょう。足元にも気を付けて下さいね。」
「奴らは夜道に気を付けさせないとなって、うん分かった。」
いつ襲われるかも分からず不安なので、ちょっと強気になってみただけなんだよね。
まぁ、とにかくなるようにしかならないから頑張って歩こう。
珍客として扱われているのは主人公と言うオチでした。