第62話「未知の領域へ」
次の日、仕事が終わり帰宅後にお風呂とご飯を食べて、いざログインすることに
なった。今日のプレイが終わったらすぐ眠れるように、パジャマを着ておく。完璧
だ。よっし!それじゃあログインだ!
「こんばんはーっと。ってくろごまはどこかな?」
「ここにおります・・・。」
「へ!?あ、ご!ごめん!」
ログインと同時に、黒猿のくろごまの上に乗っかってしまったらしい。これは失
礼致しましたと。こういうこともあるんだなあ。
「何か変わったことはなかった?」
「実は、おなかが空いてしまったので先に熱帯雨林に足を踏み入れてました。」
おっと、そういえばここはなんとなく安全そうだからログアウトしたけれどお腹
は空いてしまうか。これはすまないことをしてしまったなあ。今度から食べ物も確
保してからログアウトするようにしないとな。
「熱帯雨林には何か食べ物があった?」
「こちらです。」
くろごまが持っていたのは、ピンク色の果実だった。なんだろうこれ、どこかで
見たことがあるような気がするけれど、名前が分からない。
「これって何て名前だろう?美味しいの?」
「ドラゴンフルーツですよ。甘酸っぱい感じがしますが食べてみますか?」
ドラゴンフルーツ!そうかこれってそんな名前があったんだ。現実でも食べた事
なかったけれど、まさかVRの世界で食べる機会が出てくるとは、面白いものだね。
「じゃあちょっといただこうかな。」
とは言ったものの、これの食べ方はよくわからない。鎌で切ってみるか。おっ結
構簡単に切れたぞ。よし、ちょっとかじってみるか。・・・おおっ確かに甘酸っぱ
い。なんかちょっとキウイっぽい感じもするなあ。ものすごい甘いわけじゃないけ
れど、美味しい。
「ありがとう。結構おいしいね!」
「そうですか。それは良かったです。」
笑顔で答えてくれるくろごま。いやぁ気が利くなあ。それだけにここで待たせて
しまったことが本当に申し訳なく感じた。
「とりあえず、食べながら、先に進もうかな。」
熱帯雨林が楽しみだったので、早く行きたい。自然と足早になっていった。一応
敵に襲われる可能性も考えているので警戒は怠らない。私が主に前方、くろごまが
後方を確認しながら進んだ。
そして、ようやく熱帯雨林にたどり着いた。
「おおおおおお。やっときたあああああ」
長かった。くろごまがちょっと遠い所にあると言ったが、かなり歩いてここまで
来た。今度からは、だいこんに乗っかってこようと誓った。移動が大分楽になるは
ずだし。
「マスター。危険なモンスターもいるようですので注意してください。」
「うん。そうだね!」
現実の熱帯雨林と同じかは分からないけれど、現実に出てくるような動植物がい
るに違いない。猛毒を持った奴が一番危険だけれど、残念ながらその耐性を持って
いない。
時間経過で毒が消えるゲームなんかだと助かるんだけどなあ。まだなったことが
ないからなんとも言えないけれど。
「む・・?」
なんかカラフルな鳥がいる。すごい綺麗だ。そして強そうだぞ。
「マスター・・・。あれはレインボーバードです。強力な魔法を使うと言われてい
ます。」
「そ、そんなのがいるのか、まずいな、あいつには近づきたくないな。けど。」
もしかして、綺麗なだけじゃないのか? なんだか少し孔雀に似ているような気
がして、見た目で驚かせようとしているような気がした。
「マスター。まさかあのレインボーバードを狙うのではないでしょうね?」
「え?あ?いやぁ見た目だけって感じがしてさぁ。」
「いけません。奴は魔法が使えなくともかなり強いモンスターだともいわれていま
す。手出しするには相応の覚悟が必要ですよ。」
そこまで言われてしまっては、下手に手を出すのはいけないと思い、攻撃をしか
けようという気持ちはなくなった。というかまだ熱帯雨林に入ったばかりで激しい
戦闘は避けたかったので、無視することにした。他にも色んな奴がいるだろうから
それを見ずにここで戦うのももったいないし。
今回は、綺麗な鳥を見られて幸運だったということにしておこう。
「それにしてもレインボーバードとかそういう名前はどこで覚えたの?」
「私のようなモンスターは、生まれた時から周辺地域のモンスターの事を知ってい
るのが当然なのですよ。」
そうだったのか、じゃあこのあたりのことは詳しいってことなのか。それならく
ろごまに色々聞いて知識を高められそうだなあ。
「ちなみに私はモンスターじゃないってわかっている?」
「勿論です。マスターは人系で何らかの種族なのが分かります。」
まあ般若レディとまでは分かるわけがないか。誰かに私の種族って何?なんて聞
いて、一発で般若レディなんて当てられたら驚くよ。ふふっ。でもそうやって驚い
てもらえるのは楽しいけど。
「とりあえず少し進もうか。」
「はい。」
熱帯雨林というだけあって暑かった。この暑いという感じまで再現できていると
は、流石VRだなあ。喉が渇いてきそうだ。これは、できるだけ早く水を手に入れな
いといけないなあ。
一応、蜂蜜の空き瓶2つの中に水が入っている。私は大丈夫だと思うが、くろご
まがどうなるのか分からないので、確保できる場所を探したほうがよさそうだ。あ
とは、果実からとれる水分か。
ここで私は自分の配慮が足りなかったことに気が付いた。荒れ地を移動している
時、くろごまは、喉が渇いていたのではないか。それを我慢していたのではないの
かということだ。これは私がもっとしっかりしないといけないな。
例えば、何か困ったことがあっても、我慢するタイプがいるけれど、くろごまが
そのタイプだろう。こういうタイプは相談をすることが悪いことだと考えたり、そ
れで自分の評価が下がるとか考えてしまいがちだ。だけどそれではいけない。
確かに自分で考えて色々やってくれるのは周りにとっては助かるだろうがそれで
無理をさせてしまうのはだめだろう。
チームプレイというものは、相手の事を考えないといけない。誰かと誰かの仲が
悪いせいで何か細かい問題が起こっても報告されなかったなんてことがある。
こういう風にならないためにも、日ごろから対策を打っておく必要があるのだ。
これからは、くろごまに負担させないように私も色々聞いていくことにする。
「果実と水の確保をしたいんだけれど、ドラゴンフルーツはどこにあった?」
「ここから30分ほど進んだところにありました。川もその近くにありますが、川は
少し危険です。鰐などがおりますので。」
となると、やはり果実をたくさん集めるしかないなあ。アイテムインベントリに
入ってくれれば沢山持てるんだけどなあ。っては!?
「ドラゴンフルーツって、なんか回復効果はあったりする?」
「スキルなどを使うようなエネルギーが回復できると聞いております。」
マジか! おっしゃあああああああ! よし! 私はやるぞ。つまりここでドラ
ゴンフルーツを沢山手に入れることで、スキルがなんぼでも打ち放題になるってこ
とだろうから。薬草のように沢山手に入れておけば超安心じゃないか! くろごま
が、アイテムの効果にも詳しくて助かった。ふっふっふ。ここで9999個は集めない
といけないな。ドラゴンフルーツ狩りは楽しいなあ。ふっふっふ。おっと待てよ、
そうなるとその他の果実も色々な回復効果が期待できるんじゃないのか。なんとい
うことだ、ここはパラダイスじゃないか。最高過ぎる。
ここに薬草もあればもっと完璧だったのに。ずっとここに篭っていたのにな。そ
れだけが惜しい。
「マスター、すごい迫力を感じるのですが、どういたしました?」
「え?あっいやーちょっと、ドラゴンフルーツを食べたいなあって。」
「そうですか。では行きましょう。」
「おっけー。」
こうして私たちは、無数の草木が生い茂る熱帯雨林を歩くのだった。
般若レディは、新しい稼ぎどころを見つけたようです。




