第59話「ムフロン戦」
ムフロンの猛攻は続く。火を吐く、素早い突進と、単純な攻撃なのだが手強い。
私がそれをなんとか凌ぐ。その隙にくろごまが爪で攻撃するけれど、物ともしてい
ない堅さがある。
こいつが、ボス級の敵じゃないとしたら、こいつみたいなのがうろうろしている
可能性がでてくるのが恐ろしいな。
「浮遊!」
「ヴェエエ!」
一瞬動きを止める程度に留まるが、それでも浮遊はだいぶ使える。一瞬でも動き
が止まれば回避するのも大分楽になる。ただし毎度のことながら、これがあと何回
使えるのかというのが問題だ。今度、スキルを覚えたら何回まで使えるのか調べて
おかないといけないな。草刈りに夢中になってそういうことを忘れてしまいがちだ
ったので反省だ。
「狐火!」
「ヴェエエ!」
お互いの火が相殺される。ここだ、次の攻撃は決めている。
「火薬石弾!」
「ヴェエエ!?」
ムフロンの頭部に命中し、爆発が起きた。この後に突進が来るということは、何度
もしてきたので、次も来ると判断した。単調な動きだったら予測ができるので対処
はできる。これでようやくムフロンに一泡吹かせてやったという感じだ。こいつが
吐くのは火だけど。
「火薬石弾!」
怯んでいるようだったので、もう1個投げつける。流石に何個も投げつけるわけ
にはいかない。これは、アイテムインベントリの中には入らないのでリュックの中
にいれているのだが、爆発物なので何かあれば私自身も危険なのであと3個しか持っ
ていない。
「ヴェエエ・・・」
よし、弱っているみたいだ。フェイントかもしれないので、念のため、電撃の鞭で
攻撃を加える。
「ヴェエエエアアアアアアウゲアゲアアゲアアアア!?」
は?え?なんだ?突然ものすごい奇声をあげるムフロンに驚いた。ま、まさかこい
つ。ここでもう一回鞭で叩きつける。
「ヴェエエエアアアアアアアアアアア!」
絶叫を上げて、沈黙するムフロンだった。つまり弱点は、電気だったのか!うわ、
それじゃあ最初から鞭で攻撃しておけばよかったじゃないか。ここ最近鎌を使って
なかったから鎌にしようなんて考えたのがいけなかったのか。くそう。まさかこん
なに効果てきめんだとは思わなかったよ。道具も無駄にした気分だ。
「倒したのか・・な?」
「マスター!素晴らしいです!さすがはマスターです!」
褒めないでくれ。すべては電撃の鞭の効果なんだ。私はあまり役に立っていない
ぞ。私としては、もっと華麗に鎌ですぱっとムフロンを切って、またつまらぬもの
を切ったかみたいなことをしたかったのに。
「まだ安心はできないよ。」
一度死ぬと復活するモンスターの存在は忘れない。死んだふりだって私は絶対に見
逃さない。疑心暗鬼になり、さらに攻撃を加えていく。
「もう一発!」
死屍に鞭打つ私をみて、くろごまが若干引いているように見えた。いやね、私だっ
て本当はやりたくないんだよ?でもさぁ、ここで実は生きていましたなんてことに
なったらたまったもんじゃないんだよね。
「ヴェェェ・・・。」
おい、こいつ今鳴いたぞ!?やはり生きていやがったか!虫の息だったとしても
これはいかん。確実に息の根を止めねば安心できない!こういうところで生かして
おいたことで将来強くなって復讐しにくるんだ。そして、あの時こいつを倒してお
けばなんてことになりかねないんだ。だから絶対に、倒さないといけないんだ。
「ヴェ・・・。ヴェ・・・。」
「マスター、もしかしてその攻撃のせいで息を吹き返しているのでは?」
「・・・はっ!?」
電気ショックで息を吹き返す?まさか自動体外式除細動器!つまりAEDみたいな事
か!電撃の鞭がAEDの役割になってしまっているのか!?これは迂闊だった!くそっ!
今度から、電撃の鞭ではだめだな。よし、勿体ないが、火薬石弾を投げつけよう。
くらえ!燃え尽きろ!
「マスターは情け容赦ないのですな。」
「そりゃあ私が臆病者だからだね。だってこんなん怖いし。」
あの巨体が体当たりしてきて吹っ飛んだんだよ?そりゃあ怖いよ。自動運転車が暴
走した事件みたいなものだよ。
「確実に倒さないと、恐ろしい目にあうから、くろごまも覚えておきなよ。」
「わ、分かりました。」
失敗は繰り返さないように注意するのは当然のことだ。しかも私の場合はその失
敗を何度も繰り返してしまっているので更に気をつけないとだめだな。
「おぉ…。まだ死体が残っているか。どうすればいいんだこいつ。」
ムフロンって食べられるのか?おっといかん。たけのこのことを思い出してしま
った。今はいないんだよなあ。ああちょっと寂しくなってきた。いつも一緒だった
から余計になあ。くろごまは食べるのかな。
「よろしいのですか!?ではマスターは?」
「や、私はいいから食べていいよ。」
くろごまも肉食系かい。どうやって食べるんだろうか。あっ、ちょっと怖そう。あ
っがぶりといっている。すごい。うわぁ。
こうして、私はくろごまがムフロンを食べている所を見学しているのだった。
ちょっとだけ食べたくなってきたのは内緒だ。