第56話「黒」
私は困った。たけのこの時と同じ展開なのだが、こういうことの繰り返しは正直
言ってあまり好きじゃないのだ。こういうと何だが、出会った順番で仲間に優劣を
つけてしまうというのがある。それは刷り込みのようなものでもある。長く一緒に
いた面子を大事にするというのは分かるが、それはそれで平等ではないわけだし。
会社では、新卒で採用された社員と、中途で採用された社員など様々なタイプが
いるが、中途の場合は、それまで一緒に苦労してきたわけじゃないから、それまで
長くいた人とは仲良くなるのに時間がかかる。後で入ってきたのに偉そうだなんて
いう奴もいたりするしで、こういう仲間が増えてしまうということに対して、とて
も嫌な気分になってしまうのだ。
そして仲間が多くなると、大して仲良くないし、一緒に遊んでもいないのにたま
にちょっと会うだけの関係になってしまう。この場合、この猿と人面樹たちになる
が、今のところたけのこ達のほうが重要であるので、ここでこの面子と仲良くして
おきたいという考えが、志がとても低い。
相変わらず、私は余計なことを考えすぎだというのは分かるのだが、こういう事
が気になってしょうがないのだ。仲間同士の衝突なんかも考えないといけない。だ
けどこういう風になってくると段々面倒くさくなっていって、もう一人でいいんじ
ゃないかなぁとなってしまうことも多い。
目の前にいる猿はきっと、たけのこと張り合うと思う。どちらか右腕にふさわし
いとかそういうことを言い出すに違いない。絶対に言い出す!いや言い出したらど
っちもげんこつだ!私はそうおうあり触れた展開が嫌いなんだ!そしてある時なに
かのきっかけで激突して、お互い嫌いだけれど認め合っているみたいな流れになる
んだろう!そんなことさせてたまるか!!!
「マスター?これより、あなたの指揮下に入らせていただきます。」
「私はマスターじゃない。マスターなんて名前じゃないし。」
「では、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「よく聞いて!私はマスターなんてものじゃないの!だから指揮下に入らなくてい
いの!今まで通りここで頑張っていてくれればいいの!」
「それがマスターの命令とあれば、この地を未来永劫お守りいたします!」
あぁー武人生真面目タイプがきたかあ。この手のタイプは頑固で融通が利かないし
うあーもうこの流れだと仲間になること確定じゃないか。
「いいや、守らなくていい。」
「では何をすればいいでしょうか?」
「命令は2つだ。何もするな、何かしろ、以上だ。」
「はっ!?では私は何を・・いや何もせず、いやしかし何かを・・・。」
やっぱりこれで思い詰めるタイプか。仕方がない。これは仲間にしていくしかな
さそうだ。嫌だなあ。これからもこういう風になし崩し的に仲間が増えていって最
終的に大きな組織のリーダーとかに祀り上げられるんだよな。
うう。冗談じゃない!私は、そういうものにはなりたくないんだ。自由気ままに
般若レディとして色んな所を冒険するんだ。だからむしろ私が誰かの傘下に入って
楽をさせてもらいたいくらいなんだ。
んっ!?でもちょっと待てよ。草刈りだったらみんなでやりまくれば早いか?ま
あこの人面樹はそういうのができそうにないけど、っていうかこいつら合計で30匹
くらいいるけど、あとどうすればいいんだ?猿と私が召喚した分になるけれどこの
30匹を連れまわせっていうのはさすがに嫌だ。
「人面樹たちは、ここで今まで通り暮らして。」
「コンナサビレタトコロデ・・・。ウッ。オレタチハオヤクゴメンッテコトカ。」
こ、こいつ!目の前で悲しそうな顔をしやがった!そんでもってそれにつられて
他の人面樹たちも悲しそうな顔をしている。なんだよおい。同情で訴えようって
いうのか。おい、みんなして私を見るな!見るんじゃない!あーもう!
「あーもう!分かった!お前らのよさそうな住処を探してやるから!それまでの
間は仕方がないからここにいて!」
30匹がついてきたら小回りが利かなくなって大変だし。黒い猿については一匹だし
仕方がないと思うので連れていくつもりだ。
「カナラズキテクダセエ!!!」
「わ、分かったよ。」
念押しされた。なんだよ今までこのあたりにいたのにそんなに嫌なのか。それな
らさっさとここから出ればよかったんじゃないのか。それとも出られない理由でも
あったのか。
「マスター、この地には、とても恐ろしいモンスターがいるようなのです。」
「おし、そいつぶっ倒すか。」
私はストレートに返した。そいつのせいでここから出られないとか、ここを荒れ
地に変えたのがそいつかもしれないなら元凶を討つまでだ。仲間になったりしたら
嫌だけど、色々なイベントが絡んできそうだからな。
「オオ!サスガハアルジダ!!!」
ざわざわと騒ぎ出す人面樹たち。いや、絶対になんとかするからっていうわけじ
ゃないから期待するなよと伝えておいた。
「ところで、あなたに名前をつけようと思う。」
「はい!お願いします!」
「今日から、くろごまって呼ぶからよろしく!」
「ははーっ!ありがたき幸せ!」
黒い猿ことくろごまは歓喜した。こういう名前付けるのってやっぱり大変だなあ。
よし、そんじゃまあ、荒れ地をちょこちょこ回っていくとするかあ。