第52話「川沿いを行く」
巨大化した白蛇ことだいこんの背に乗り、川沿いをすいすいと移動していく。こ
のあたりも大体は見慣れた感じだが、川下のほうまで行くことはなかったので、何
があるのか楽しみだ
「兎がいそうなら、狩るからね。」
「わかってるやで、今のところ気配は感じないからすいすい進むで。」
とりあえずは、のんびりと移動できそうだ。
「ねっこちゃんは狩るというか威圧ある時点でもう食料化しているよね。」
「んぐっ…!でも威圧だけで倒せない時があるかもしれないじゃん!」
目の前で勝手に死んでいく兎が悪いんだよ!そもそも虚弱体質な特殊なうさぎか
もしれないじゃないか。そうだよ、今まで出会ってきたうさぎが特別貧弱なタイプだ
ったってオチかもしれないんだから、私の威圧がすごいわけじゃないって!
「ねこますサマノオカゲデ、ウサギガタクサンタベラレマスヨ!」
そうだね。食べられるね。今ならこんがり焼けて最高だね。でもなんか内臓とかそ
ういうのはまともに処理できていないので怖いんだけどね。
「ねっこちゃんは現実でジビエは食べたことがあるの?」
「あるある。ヤマシギとかっていう鳥を食べたよ。最高だった。」
あれは本当に、滅茶苦茶美味しかったなあ。また食べたいなあ。おっとよだれが。
「それ、確か超高級な鳥だよね…。羨ましいわ…俺は猪くらいなのに。」
そうそう、なんかどこかでは乱獲されちゃったとか聞いたけど、あのうまさなら納
得だなあ。いくらでも食べられそうだったし。
「ね、ねこますサマ。ソノトリハドコニイルノデスカ!!!」
たけのこが、よだれを垂らしながら私を真剣な目で見つめてくる。食べたいか。そ
うだよね。食べたいよね。いや、ちょっと血眼になっているぞ。
「ここじゃないどこかにいると思うけど実際にいるかどうかまでは分からない。ご
めんね。ないものの話をしちゃって。」
このゲーム内にも、ヤマシギがいればって思うけど、いる気がしない。現実と同
じような生物がいるかもしれないというのはあるけれど。
「ワイ、なんだかお腹が空いてきたで。なんでもいいから食べたいで。」
「薬草食べる?」
「それは貴重品やで!食べるのはあかんのやで!!!」
なんでそんな大声で叫ぶんだ。貴重品ではないだろう。集めようと思えば頑張って
集められるものだしな。
「兎が出ればいいんだけどなあ。」
「ねっこちゃんが禍々しいので、でなくなっている可能性がある。」
むぐぅ。そういえばこの間も私が兎を探して全然でなくなっていたもんなあ。と
いことは、私がいると兎と遭遇しにくくなってしまうってことか。うわ、それは何
というか、疫病神じゃないか。何だよもう。私はフレンドリーな感じでいるんだか
らもっと兎も積極的に近づいてくれよ。
「何もおらんのやったら、さっさと川下のほうまで移動するやで?」
「それもありかなあ。よし、だいこん。もっと急いで移動だ。」
「分かったやで!」
ここでだいこんの移動速度が上がった。なんか前よりも早くなっているな。レベル
アップでもしているのかなあ。
「現実でだいこんがいれば目立ち放題なのになぁ残念だ。」
「えっ。それは嫌じゃない?」
白蛇に乗って会社に通勤したり、学校に登校している人がいたら私なら逃げ出す
な。あれ?でも今はもう慣れてしまったか。最近は、爬虫類程度なら別にどうって
ことはないな。ゴキブリとかだったら嫌だけど。
「俺はいつでもどこでも目立ちたいからね。」
街中でパフォーマンスやっている人がよくいるけど、そういうのをやったらいいん
じゃないのかと言おうとしたがやめた。
「いやーなんか快適に動けるやで~スイスイ進むやで~。」
さっきより更に、早く移動しているだいこん。ん?ちょっと早すぎないか?大丈夫
か?
「おい、ちょっと早すぎないか?」
「なんか勝手にスピードがでるんや。いやー快適過ぎや。」
「オイ。スコシハヤイカラソクドヲオトセ。」
たけのこが注意をする。確かに早い。
「そうだね、もう少し遅くていいよ。」
「ほな、もうちょいゆっくり動くやで・・・ん?」
「どうした?」
「ンゴゴゴゴ!なんか止まれないンゴ!」
おい、どういうことだ。ここは平坦な野原だろう。それが止まれないだと?まさか
何者かが攻撃をしてきているのか!?
「どういうことだ?ここが川の中じゃあるまいし。ってあ・・・。」
ブッチが何かに気づいたらしい。おい気づいたことがあるならさっさと言え!
「今俺らが進んでいるここって「川」なんじゃないか?」
何を寝ぼけたことを言っているんだと思ったが、ありえない話じゃないと思った
のと同時に、まずいことを考える。
幻覚を見せられて、いつの間にか川を進んでいた可能性。というか今でも野原を
移動しているようにしか見えていない。川はきちんと存在している。どういうこと
なんだこれは。
「または、動く野原かな?」
だいこんの背中から、少し手を伸ばして、草に触れるか確認してみる。これは触る
ことができている。ということは川ではなさそうだ。この野原自体が動いていると
いったほうが正しいな。
目の錯覚を利用した坂道というわけでもなさそうだ。
「と、止まれないやで。方向転換もできそうにないで!」
お前わざと言ってないかとだいこんに言いたくなったが冗談ではなさそうだ。という
か、ここに来る前にちょっとしていた話そのまんまの展開が待っているような気がし
ているんだけれど、あれはフラグだったってことになるんだけど!
「ねっこちゃん。」
ブッチが明るい声で話しかけてくる。お前言うなよ。何が起こるか私だって大体予
想はつくんだからな。よせよ!お前絶対やめろよ!
「この先にさあ、崖がありそうだよねえ?」
「ああああああああああああうぜえええええええ!私もそうだって思っていたことな
んだよ!これ絶対そういう展開だろ!?うああああ死にたくねえええええええ!」
今、絶叫マシンに乗っている気分だ。しかも安全バーがないという恐ろしい絶叫マ
シンだ。くそ!誰が野原を移動していて、川みたいなことになると思うよ!このゲー
ム作った奴はひねくれてないか!くそ!くそ!
「ンゴゴゴゴ!また早くなったで!もう進むしかできないんやで!」
「多分、この先は絶対崖がある!なので最後はみんなで落下することになるけど、絶
対生き残れるはず!だけどなんか大ダメージ食らったりしそうなので!!!!」
私はみんなに薬草を渡す。ブッチにはついでに火薬草も。
「たけのこ!口の中にいれて!ブッチ!だいこんを片手で抱っこ!そんで落下の瞬間
にでも火薬草を投げつけて、爆風で落下ダメージを軽減!」
こんな作戦でいいのかどうか分からんがやれそうなことってこれしかない!そんで
もって、後ろからだいこんの口の中に薬草を詰め込んでいく。
「死ぬなよ!死ぬんじゃないぞ!だいこん!生きろ!生きろ!」
「ぐぼぼぼぼぼぼぼ!!(グエー死んだンゴ!)」
喚いているが気にしている余裕はない。とにかく覚悟を決めるのだった。私も薬草
を口に含み、片手に火薬草、もう片方に電撃の鞭を装備した。鞭がどこかに引っかか
ってくれることがあったら幸運だ。ありえなさそうだけど。
それから、更に勢いをまし、やがて私たちの先に・・・。崖が見えた。
「生き残れよ!」
そして私たちは崖から勢いよく飛び出し──そのまま落下したのだった。