第473話「スライムのような象?」
2週間ぶりに投稿出来ました。お待たせして申し訳ございません。
テレワーク対応が落ち着くまでまだ時間がかかると思いますが、頑張ります。
体が勝手に浮き上がる。しかし、自分の意志で着地できるようなので、無重力状態というわけではないようだ。アクションゲームの宇宙空間や水中で通常よりも高くジャンプができて、降りる時もゆっくりになるような感じに近い気がする。
動きにくい。だけどしっかり動かないと、ドロドロになって襲い掛かってくるエレファントボスの攻撃を回避できなくなる。
エレファントボスはといえば、もはやスライムが象の形をとっていると言っても過言ではない姿になってしまった。緑色の液体が不気味に蠢いているが、どうしてここまでなったしまったのか。もしかして、元々がスライムみたいな奴だったってことなんだろうか。
「ね、ねこます先輩! すげえ動きにくいんすけどこれ、なんなんすか!」
「頑張って慣れるしかない! 頑張れ獣王君!」
私だって同じ状況だが、慣れろとしか言えないし。それよりも今はこのエレファントボスをどうすればいいのか、だ。
こういう液体状の敵を攻撃すると分裂することがあるので、迂闊に攻撃ができない。分裂する敵には分裂ができる回数制限があることが多いが、こいつはボスだ。そこらの敵と違って無限に分裂できる可能性が高い。
液体系の敵は冷気系の攻撃で凍結させると固体化して大ダメージを与えられそうな気がするが、私はこれ行系の攻撃手段がない。というわけで、ここは獣王君に頼む事にした。
「獣王君! 冷気系の魔法って使えないかな!?」
「使えないっす!」
「そうか、分かったあああ!」
大体こういうオチは読めていたのでまぁいいか。雷系魔法は得意そうだけど、氷系は使えなかったって事か。で、こうなると、ひじきしかいないな。確か氷系の魔法を使えたはずだよね。
(使えますが、あまり威力はでませんよ。サンショウ様のようにはいきません)
いやいや、サンショウと比べちゃ駄目だよ! 使えるだけいいよ! というわけで早速召喚!
「!? なんだかとても動きにくいです。」
いつも普通に空を飛んでいるはずのひじきが動きにくいのか。この場所が特殊な空間になってしまったということだな。私が浮遊を使った事でエレファントボスが暴走してこんな事になったんだとすると、やっぱり私って運が無いって事なんだろうか。
「マ、マジャア! キサマ! ワレヲ! ウォオオ!」
「何か言ってるようですが、聞かなくていいんですか?」
「暴走しているだけだからねー。何言ってるのかはよく分からないし、聞いてたらこっちの命が無くなっちゃうよ。というわけで氷魔法お願い!」
敵が喋っても基本無視という姿勢はいつも通りだ。喋ってる暇があったら即攻撃! というわけでまずはひじきに氷魔法での攻撃を頼んだ。
「フリーズストライク!」
無数の氷の刃が、地べたにいるエレファントボスに向かって飛んでいく。さて、どうなることかと見守っていたら。
「と、溶けたっす! あれやっぱりただの液体じゃなくて、酸とかじゃないっすか!」
「そうだね。さーてどうするか。」
悠長に構えている暇はないけれど、本当にどうするか悩みどころだ。一体全体このエレファントボスは何なのだという、根本的な所を考えなければいけない気がしてきているからだ。
初めは超巨大なでかい象。その中は迷宮になっていた。そして迷宮を進むといたのが象人間。そこで浮遊を使って出てきたのがこの液体状の象。こいつを倒せば全て解決するのかというと、そうでもない気がしてきている。
いつも外れる私の予想だけれど、悪い方には当たるので、悪い方面で予想してみる。こいつ、もう自分というか自我みたいなものが何かに支配されていて、とっくの昔に狂ってしまっているってことなんじゃないだろうか。
浮遊を使ったから暴走状態になったわけではなく、最初から暴走しており、浮遊を使った影響で更に不安定になってしまっているだけな気がしている。
「真空波!」
あまり使いたくはなかったが、私は、鎌を振るって真空波を繰り出した、液体状になっているエレファントボスの体に直撃したが、何も起こらなかった。
攻撃の無力化。これまた狡い能力だな。スライム系はゲームによって極端に弱いか強いかの二極化が激しいが、こいつはかなり強いほうだろう。
「切断系統が利かないなんて、じゃあ次は」
「俺がやるっすよ! エレクトリックボム!」
「げっ! ボム!?」
明らかに爆発系統の攻撃じゃないか! それでスライムが爆裂四散して、その液体がこっちに飛び散ったらどうするんだ! うおおお! 怖い! めっちゃ怖いので私は一目散に逃げだした。こっちに来るなよおお!
そう願って移動したのだが、何も起こっていないようだった。え、不発。それとも。
「効いてねえええええ!」
「ググ。魔者。魔者? キサマ。やはりこのような卑怯な…真似を!」
私じゃないし!? ああもう、これだから狂った奴を相手にするのは嫌なんだ! というか電撃系と爆発? が混じった魔法を直撃してなんともないとか何だそれは。多少ダメージを与えているのかもしれないなんて思ったけれど、ぴんぴんしてるし、やっぱり無効化されたっぽいな!
「これ、勝てない系の敵じゃないんすかね」
「そうだったら最悪だね」
一切ダメージを与えることができないモンスター、いわゆる無敵のモンスターなんてものは、レトロゲームには結構いた。どうしたって倒せない敵。そういう敵が出て来たらただ回避に専念するといったものだった。これがもしそれだとしたら、逃げるしかない。が、逃げ道は…ない。出口は探そうとしていたが、今現在もどこにも見当たらない。
「時間制限イベントでしたってことはない…かな」
エレファントボスは、液体を飛ばしてくるが、回避する事は容易い。そこまで早い攻撃ではないからだ。だとすればこれは、ひたすら逃げ続ければいつか自滅してくれるとかそういうオチなのか、それとも、何か私達がここでイベントを発生させないと延々と続くのか。
「こんなのと鬼ごっことかきついっす」
私だって嫌だし、ひじきだって嫌だろう。でもこいつがここにいるんだもの。どうしようもないからやるしかないじゃないか。
「うーん…」
ブッチ達。そう。いつまでもブッチ達は現れないが、どうなったのかが分からない。メッセージは来ていないし、私から送っているが返事はない。
ということは向こうも交戦中と考えるのが妥当か。ブッチ達ならこの迷宮自体をぶっ壊してくれるような気がしていたんだけれど、どうなっているのか。この液体じゃないエレファントボスか何かと必死になって戦っていそうな気がするな。
「やれそうなことをやってみるしかないか」
今回、私はブッチ達を当てにしていた要素が大きい。向こうは人数が沢山いる事だし、さっさとこんな迷宮をぶっ潰してくれそうだと思っていた。が、流石はクロウニンと言うべきなのか。簡単に終わらせてはくれないようだ。
「ほいほいほいっと。勿体ないけどこれはどうだ」
まずはこいつに向かって薬草を投げつけてみた。が、一瞬で消化されてしまった。こういう回復アイテムが実は効くことがあるのでやってみたけど駄目だったか。
「ならこっち!」
火薬草も投げつけてみたが、効果は無し。一瞬で消化される。地面に投げつけて爆発を起こすも、それも無効化されてしまう。これは、どうするか。雷獣破を使っても無効化されそうだし。やるなら結局隕石拳か鎌で斬り裂くか、だけれど。
「お、俺のサポートが必要なら言ってくださいっす!」
獣王君にはあまり見せたくないんだけれど、そんな事言ってられないしなあ。おし、全力で鎌を振るってみるとするか。これで私の鎌が溶けるかもしれないなんて考えてしまっていたので、あまりやりたくなかったが、これしか方法が無いならやってみるべきだな。
「ヴォアアア! マジャアアアアア! コノウラミワスレルモノカアアア!」
「恨みとか知らないだっての!!」
知らないうちに他者から恨みを買ってしまっているなんて嫌だなあもう。これから更にその恨みを買うようなことをするのも本当は嫌だけれどしょうがない!
「この鎌で一思い切り裂いてやるからな」
私は集中する。鎌を握る手に力をこめる。赤黒く光る鎌。そこから深紅の光と漆黒の闇がまじりあったように変化する鎌。全てを断ち切るという気持ちを込める。
「グォア!? ソレハ!?」
液体化した象が何か発したが、それも無視して私は突進する。こいつの液体に触れたらほぼ終了だが、ここで飛び込まなかったらいつまでもチャンスが生まれてこないし、何も変化はない。
ずっと逃げ続ければ死ぬことも無いだろうが、それはただこの戦いを拒絶して先に進もうとしないだけだ。だから私は、ここで立ち向かわなければいけない。臆病風に吹かれてしまったら、ゲームなんて絶対にクリアできないし。
「ヴォエ!」
「っとぉお!? あぶなっ! ひじき! 獣王君! こいつの攻撃を出来るだけ妨害して!」
「かしこまりました! フリーズストライク!」
「分かったっす! サンダーショット!」
動きが鈍いから近づくのが遅い。攻撃が遅いから回避は楽だがゆっくりなので、神経がすり減りそうになる。みんながゆっくりとしか動けない。ここだけ時間の進み具合が違うかのような感じがする。
「ん、ぐぐぐ!」
スローモーション。周りの動きがスローモーションだ。なんでこんなにゆっくりなんだ。さっさと動きたいのに。こりゃないんじゃないか。これがこいつの能力だったとしても驚きはしないが、なんて嫌な攻撃を使うんだと思ってしまう。
「鎌を…振るんだよぉおお!」
鎌を握る手がより一層力む。あとはこれでこのエレファントボスを倒せば終わりなはずなんだよお! だからさっさと斬らせろ! ってやっぱり更に遅くなっている。く、くそう!
「ヴォ…ア!」
あ…れ? なんか、違う? 私以外のみんなが遅くなっているだけ? え、つまりみんなが遅くなっているだけで私だけが早く動いているということなのかな。
意識を集中させると周りがスローモーションで見えることがあるなんて聞いたことがあるけれど、もしかして、それなんだろうか。
それにしたって、こんなタイミングじゃなくてもいいのに! まぁいい! 私はこのままこの鎌を思いっきり、力の限り振り下ろすだけだ!