第472話「浮く迷宮」
ようやく投稿出来ました。頑張ります!
4/27 追記しました。
「ヴァオオ!? 体が勝手に…!」
いやいや、体が勝手にじゃないよ全く! 象人間というかエレファントボスは、その長い鼻を鞭のようにしならせて何度も何度も私に叩きつけてきている。鎌で防御しているけれど、衝撃で後ろに吹っ飛ばされてしまう。
「おいおい! なんとかしろっての!」
「ウゴゴ! グァァア!」
「げっ!? あっ!?」
防御はした。鎌で象の鼻を受け止めたはずだけれど、全く効果はなく、そのまま思いっきり吹っ飛ばされて地面を転がり全身が擦りつけられた。
「むしゃむしゃっと…。」
すぐに薬草を食べる。どれだけ攻撃をくらってもこれさえあればといつも頼りにしている。一撃死はないようなので、今回も薬草の数だけ耐久できるようだ。
「わ、我の身体が、何故!? 何故ヴォアアア!」
完全に暴走しているじゃないか。これなら普通に戦った方が良かった気がする! こういう暴走状態ってどういう風に攻撃を仕掛けてくるのか全く読めないの苦手だし!
「ね、ねこます先輩! 大丈夫っすか!? な、なんすかあの象野郎」
遠くにいた獣王君がこちらに駆けつけてきた。
「おー。獣王君。大丈夫だけれど、あいつがここのボスだから、自分の身は自分で守ってね」
「え!? わ、分かったっす!」
とりあえず、ボスと伝えておけばゲームをしたことがあるプレイヤーだったらやばい状態だってことが分かるだろうから、なんとかしてくれるだろう。
問題は、あの鼻だ。すごい伸びるし威力は高い、おまけに硬いときたもんだ。私の電撃の鞭と比べたら全然威力が違うな。
そして、このままだと迂闊に飛び込むことができない…。どうしたものか。一応今は吹っ飛ばされてかなり距離があるけれど、このまま近づいてきたら、あっという間にボコボコにされてしまう。
「ライトニングショット!」
獣王君が電撃魔法で応戦し始めた。だけど、攻撃するだけ無駄じゃないのかと今更ながら思ってしまう。なぜなら、こいつの元の姿はかなり巨大だからだ。
ちょっとした攻撃はあまり意味がないと思っている。どうせ自動回復能力を持っているか相当体力が高いので、集中的に攻撃し続けないと絶対に倒せないようになっているに違いない。
そういうボスとは何度も戦ってきたので、あっさり倒せないというのは間違いではないだろう。
「でもそうなってくると…」
逃げるしかなくなってくる。倒せないのに攻撃し続けるというのは無駄でしかない。やってみなければ分からないというほど追い詰められているわけでもないし。死ぬかもしれない状況でかつ逃げられないなら最後まで抵抗しようと立ち向かうけれど、そういうわけでもないので、ここで相手をする必要はないと考える。
だけど、出口も見つかっていない状態だ。さぁていよいよ困ったな。選択肢は色々あるけれど、どれを選んでも最善だとは思えない。
「まぁ、でも、ちょっとやってみたいことがあるんだよなぁ」
我ながらまた凄い事を思いついてしまったなあとは思っているが、やってみたいと思っていることがあった。
どうせ失敗するかもしれないし、なんて思ってやらなかったことだ。だけど、もしも成功したら面白い事になると思うということで、やってみることにした。そんなに難しい事でもないし。
「浮遊」
浮遊は何かを浮かばせるスキルだ。では今回、その何かに何を選んだのかというと、この巨大な迷宮だ。そんなものを浮かばせるだけのスキルなわけないだろうと思ったが、この迷宮自体がエレファントボスだと思われるので、やってみようと思った。で、結果は。
「うぉ…っと!?」
一瞬浮き上がるような感覚が襲い掛かってきて姿勢を崩してしまった。これは、効果があったってことか? いや、なんだ。なんか変な感じが。うわっ!?
「な、何!?」
地面が傾いていく。こ、これはもしかして! て、転倒しそうになっている!? やっぱりここはあの巨大なエレファントボスの体内だってことか! そんでもって、その巨体に対して浮遊を使った事で姿勢を崩して転倒しそうになっているってことで、あ、合ってるううううう。滑る!!!
「ぐぐ!?」
まずい。どうせ効かないだろうとお遊びでやってみたことが上手くいくなんて! いやでもこれはチャンスかもしれないぞ! このままいけば、エレファントボスは転倒して大ダメージを与えられるかもしれない! よーし!
「ウボアア!? 魔者、貴様! 何をしたあああああああ!」
遠くにいるエレファントボスの声が響き渡る。何をしたと言われても迷宮に浮遊を使っただけなんだけれど。
「か、体が、体が、我の身体が、ヴォアアアア!?」
なんだ。どうしたって言うんだ。まさか浮遊を使った影響でここにいる象人間のエレファントボスにもダメージを与えたとかそういうことなんだろうか?
「ね、ねこます先輩! あの象の身体が溶けていきますよ!?」
「はぁ!?」
と、溶けるってなんだよ。私はただ浮かせただけなのに、一体どういうことだ!?
この迷宮に対して浮遊を使っただけであのエレファントボスが溶けた。いや、迷宮に取り込まれたという認識でいいのか? それとも、うわー色々考察したいけれど間に合わない。それにこの状況かなりやばいじゃないか。ブッチ達も来ているのに、私がここで色々やってたらみんなだってまずい状況に追い込まれてしまうってのに! ど、どうしよう!
「マ、マジャアアア! オエエエエ!」
ドロドロに溶けながらも迫ってくる象人間。奇声も上げてくるし不気味だ。不気味だよ! いきなりホラーゲームが始まってどうするんだよ! なんで溶けているんだよ!
「やべえ! ああいうのに触れたら絶対即死っすよね! やべえっすよ!」
「そうだねやばいね! えいえい!」
溶けている象人間に火薬草を投げつける。爆発が起こり、吹っ飛ばしたかと思ったが、何も変化はなかった。まるで効いていない! なんなんだよもう! なんで中途半端な所で溶けるのが終わっているんだ! んっ!? ちょっと待て。つまりこれは浮遊を使ってこいつにダメージを与えたってことなのか? 浮かせただけなのに何で!?
「おっとと!」
地面がまだ傾いているので移動しづらい! あれ、というかこれ、まだ浮かんでいる…のか? 転倒している途中だったとしても、時間がかかりすぎている。ということは、浮かんでいる状態で不安定になっている?
「滑るっすぅうう! うわっ! 今度は逆に!」
酷い揺れだ。まるで荒波の上を進んでいる船のようだ。これは、現実だったら間違いなく酔って吐いているレベルだ! というか今もちょっと気持ち悪さがある! まずい! このまま気持ち悪くなったら多分強制ログアウトされる! 頑張れ私の三半規管!
「ヤバリ、マジャ、貴様は…初めからコレをネラッデ!」
「んなわけあるかー!」
狙ってこんなことが出来るわけがないじゃない! 初めてプレイするゲームで低確率のモンスターと出会ったとか言うのはそこそこあるけれど、こんな一回やってみたことでこいつの弱点だか何だか知らないけれどそこを攻めるなんてできるわけないし!
「こ、こうなったらもう一回やってみるしかぁぁあ、ってゆれ、揺れすぎ!」
飛行でも使えばいいけれど、この状況でまともに制御ができないスキルを使うなんて危険は冒せない。もしもあのドロドロに溶けかけているエレファントボスに突っ込んだら私も溶けてしまいそうだ。即死は免れないだろう。
「あんなのに突っ込んで死にたくはない!」
「お、俺もっすよ! あんなの一生記憶に残りそうじゃないっすか!」
既に一生記憶に残っているホラーゲームなんて沢山あるもんなぁ。でかい鋏を持ったゾンビみたいな少年が追っかけてきたり、いきなり襖から青い化け物がでてきたり…。でもあれは慣れというか、なんかどうせゲームだし感があったから大して怖さはなかった。
だけどVRは全然違う! 臨場感も緊迫感もなんか色々怖さがある! それとなんかこの大広間の雰囲気が、さっきまでと打って変わって、なんか薄暗い感じが強くなっているのに加えて周りの光が緑色とか紫色とかなんかこう毒々しくなっている!
「ま、まるで映画の世界にいるみたい!」
「良かったっすね! 主人公はねこます先輩っす! やっぱり主人公ならあいつをぶっ倒すくらいしてくれてもいいと思うっす!」
「そういうのは言い出した人がやるべきだから獣王君よろしく!」
「俺は人間じゃないのでねこます先輩よろしく!」
「よし! じゃあ獣王君を武器としてぶん投げようかなあああ!?」
「それは駄目っすうううう! ああすべるっすうううう!」
なんなんだこれ。すごい滑る。滅茶苦茶滑る! なんかゆらゆらしているし。
「ま、魔者ァァア! 貴様が我のカクボオオオ」
何? カクボオ? 核? のことか。こいつの核がどこかにあるってことか。お、お! ということはこいつの核とやらがダメージを負ったからこういう状態になっている? 浮遊をしたことでその核が動いてダメージを与えたってことでいいのか? お、そういうことかもしれない! つまりその核をぶっ壊してしまえば!
「ウヴォエアア!」
「うおお!?」
ドロドロになっている鼻から液体が放たれた。それが壁に当たったが、その壁もドロドロになって溶けていく。やっぱりやばい攻撃じゃないか!
「ね、ねこます先輩! あの鼻からあれがどんどん出てきたらやばいっす! もういっそ、こ、攻撃してもいいっすか!?」
「攻撃は絶対やばいって! あのドロドロになった体が飛び散りそうだし!」
倒した瞬間に毒をまき散らすような敵なんて沢山いるし、それと同じようなものだ。
「ならどうするんすか!」
「ああもう!」
一か八かというか、もう一回くらい浮遊を使ってみたほうがいいな。これでこいつの核にダメージを与えれば倒せるかもしれないし。ただ、浮遊って連発すると効果が弱くなった気がするので、二回目はそこまでダメージを与えられないかもしれない。それだけが不安だ。
「獣王君! また揺れるかもしれないから踏ん張ってね!」
「わ、分かったっす! なんかやるんすね!?」
「うん! それじゃあ。浮遊!!」
体が思いっきり浮かぶような感覚。まるで、これは無重力にでもなっているかのような。そんな感覚。どうしたんだろうか。なんだか、変な感じだ。
「ヴォア…ナンダ」
迷宮内が平行に戻ったような気がするが、気のせいな気がする。
「体が、勝手に浮くっす!」
「わ、私も浮いでいるっていうかみんな浮いているような!?」
…一体どうしたというんだろうか…。