第471話「象との対話」
追記予定です。
4/22追記しました。
「あー、私はお前を作った時のことなんて忘れちゃったというかもう覚えてないんだよね。だからそっちも私の事は忘れて好きに生きると良いよ」
という感じでエレファントボスと思われし象人間に対して嘘をついてみた。結局、戦うしか方法が無いと半ばあきらめている私がいるので、挑発してみるのも悪くない気がしたのでやってみた。
「どこまで我らを愚弄すれば気が済むのだ!!」
「っ!」
エレファントボスの身体から凄まじい威圧が放たれる。すごい迫力だ。臨場感が凄い。流石VRなんて言ってしまいたくなるような衝撃だ。
「じゃあ一応言っておく。お前ら、私の話を真剣に聞くつもりが無いから何言っても無駄だと思っているんだよ。あ、ジャガーちゃん、ジャガーコートは別だな。話を聞いてくれたし」
あれ? そう考えるとジャガーちゃんはかなり特殊な部類だったってことになるのかな。まぁまだ私への敵意みたいな衝動が現れる前だったからかもしれないけれど。
「話を聞かないのは貴様の方ではないか!!!」
結局怒鳴りつけてくるのか! たまったもんじゃないな。毎度のことだけれど、こうやって喧嘩を売られるから反撃しているだけなんだよな私は。
「私は、お前たちの知っている魔者じゃないんだよ。これは何度も言っている。私は魔者にされたんだよ。これをお前たちは絶対に信じないからな」
狂ってしまった相手には何を言っても信じて貰えないのが常だ。もう自分の信じている事だけが正しいと思い込むようになってしまっているからどうしようもない。ゲームではそういう奴を大体ぼこぼこにして反省させるというのがよくある展開だ。
RPGのラスボスなんかが世界を滅ぼす理由は、こんな世界は自分の望んだ世界じゃない、狂っているんだ、もうこんな世界いらないみたいなノリが多い。なので私としては、エレファントボスがこうやって言ってることは、またいつものぼやきが始まったよという程度の印象しかない。
「貴様が言ってる言葉は、いつだって真実から遠かっただろう。何が本当で何が嘘なのかもわからぬまま、我々は、苦しみ続けたのだ!」
ほらね。私じゃないと言ったのにやっぱり私だと思っているよこいつ。クロウニンはろくでなしの集まりなのか!
「はいはい。話が平行線だっての。私は魔者にさせられた。これが理解できているか?」
「なぜそのような嘘をつく」
「お前たちはそういう催眠術にかかっているとでも思ってくれればいい。これで最後だ。私は魔者にさせられた別人だ。これをお前が信じないならそこまでだ」
どうせ信じないだろうけど、言いたいことは言った。そもそも、これは避けられない戦いだ。こいつらが衝動で私に襲い掛かってくるのだから、返り討ちにしなきゃいけないことは確定している。だけどジャガーちゃんのような例外もあるかもしれないので、そこにわずかながらの希望にかけてみようと思った。
「…」
お、黙った。考え中か。ここでどう出るかだな。こういう敵は自分が洗脳されているとか自分が変異してしまったことに気が付いていないことが多い。そして自分の都合のいいように解釈されるように変質されてしまっているから、結局自分のやりたいようにやってくる。
定番の話だと、元々人間だったけどモンスターに変化してしまって、人間がただの餌にしか見えなくなって食べてしまっていたみたいなものかな。
私がプレイしたゲームだと、食事をしていただけとモンスターになってしまったと元人間は言うんだけれど、実は身内を食べてしまったなんてオチだった。そしていなくなってしまったその身内を探してうろつくようになる、と。
このエレファントボスも同じ感じかな。どんな反応をしてくるのか分からないけれど、ここで意外な結果になったりはしないのかな。
「魔者、貴様のことは許せん。が、ここで釈明の機会を与えてやる。話せ」
お、そこそこ意外な展開が待っていた。だけど私がここで何か爆発させることを言えばすぐに襲い掛かってくるだろうから気を付けないといけないな。
「魔者の塔は知っている?」
「貴様が作った塔だろう。いや、貴様が言う別な魔者か」
「そこで魔者の部屋に入った。別に入りたくて入ったわけでもなく、ただ塔に何かお宝がないかなんて軽い気持ちで入っただけだよ。そしたら、強制的に魔者にさせられていた」
それからずっと魔者ってだけで喧嘩を売られる日々だった気がする。いや本当に辛いな! そういえば私は別に人から恨みを買ったわけでもなんでもないのに、襲われ続けたとかこうやって言ってみると最悪だな!? 本当に今更だけど、このゲームってVRで面白いけれど、敵から襲われまくるとかそっちは酷すぎるな!
「強制的に…。それは、それこそ貴様が、いや、貴様の言う別な魔者が我々にした仕打ちではないか。」
そんなこと言われてもってこのクロウニン達も強制的に色々された感じだもんなあ。じゃなかったらここまで恨んでこないだろうし。
本当に先代魔者だかなんだか知らないけれど、酷い奴だな。
魔者ってすごい力を持っていたってことは分かる。それでそこそこ良いことをしていたみたいなことをサンショウは言っていたはず。だけど、私はそれがマッチポンプじゃないのかとしか思えない。
災いをばらまいて、それを自分が解決してあたかも困っている人を助けたかのようなそういうの。絶対魔者ってそういう奴だと思う。
魔者はきっと何かやりたいことがあったと思う。でもそれが上手くいかなくてクロウニンだとか散々おかしなことをしでかしてきたっていうオチなんだろう。
私が言うのもなんだけれど、魔者は絶対に自己中心的な奴だろう。そうに決まっている。それが今こうして魔者になった私にツケがまわってきているというのが気に入らない。
「私は、魔者って何がしたかったのかがよく分からないんだよ。お前たちクロウニンを作った理由なんて私が知りたいくらいだし、なんでそんな凄い力を持っていたのかも知らないからね」
「何を言っている。貴様には凄まじい力があるように感じられるぞ。我の力を吸収したこともそうだが、自分の強さに気が付いていないのか」
全く強いと思っていない。だって私、毎回苦戦しているし、一か八かの隕石拳を使ってばかりだし。もうちょっとまともな戦いをしたいんだよ。実力が拮抗しているような戦いを全然したことがないし。大体敵の方が強くて苦労してばかりだからそれをなんとかしたいよ。
「私に力なんてないよ。そんな力があったら、とっくにここから脱出していると思わない?」
一応鎌の力を使えば脱出は可能だけれど、ここは嘘をついておく。もしかしたらバレているかもしれないけれど。
「脱出はできるであろう。貴様は理由があってここに残っているようだしな」
あ、バレてたか。
「脱出ができるかどうかは別として、ここで探っているのはお前のことだよ」
「やはり初めからそれが目的なのだろう。貴様は我を殺すつもりなのだろう」
命を狙われているのはむしろ私なんだがと言ってやりたい。そこはぐっと我慢する。
「お前らは私という存在を消滅しなければ気が済まない衝動を持っているようで、平和的解決が出来ないだろうからそうするしかないと判断していたんだよ。こうやって話を聞いてくれるとは思わなかったけれどね」
問答無用で襲い掛かってくるが普通だと思っていたからなあ。
「…」
あ、また考え中になった。アノニマスターオンラインのAIは本当に実在しているかのような思考をしているのが凄いよなあ。たけのこもだいこんもみんな自我があるしなあ。現実にいる友達とかと同じように話せているのは今でも普通に驚くときがある。
「…」
長考している? なんだろう。何か思い至るところでもあったのかな。
「我の意識が操られている…?」
「!」
あれ、ひょっとしてこれは戦わなくてもいい可能性が出てきたんだろうか。いや、待て、そういう都合のいい展開は在り得ないだろう。毎回それで苦労しているわけだし。
「確かに、我は貴様をさっさと抹殺してしまおうという意志の元にここに来ている。しかし、何も話を交わずに、これまでの事を何も聞かずにそれを実行しようとしていた? それはおかしい。我は…」
不穏な雰囲気を出しているぞこの象人間。こういう時、真実にたどり着こうとすると精神崩壊が起こって暴走しだすなんてことがありえるだけに緊張してきた。
洗脳されている奴が洗脳から抜け出そうとすると、そういうことが起こりやすいんだよな。なので今は一触即発といったところか。
「洗脳というよりそういう本能を持つように魔者に作られたってことじゃないかな」
クロウニン、私の仲間、十二支の関連性、あの錬金術士の杖がその答えを知っているけれど、何がどうなっているのかまだ読めない。ヒントが足りない。
「ググ。ヴァ…。なんだこれは。我は」
頭を抱え込んでいる象人間。これは、暴走しそうだなあ。こういうのをなんとかするための道具でも錬金術で作れればいいんだろうけれど、あいにく私はまだそんなものを作れない。
色々錬金術で作れるようになりたいのに、それをやる時間が無いんだよなあ。だってクロウニンに命を狙われているからどうしようもないし!
「お前が答えにたどり着けばお前の理性がなくなるようになっているんだろ。それ以上考えない方がいいって言うとこれもだめかもしれないけれど」
「ぐ。ぐ。ぐ」
エレファントボスは苦痛で顔が歪んでいるようだ。どうなるんだこれ。理性が勝つのか本能が勝つのかで言ったら、こういう状態になったら高確率で暴走するもんだけれど。ここで理性が勝って戦いを避けられるなんてことになったらそれはそれで感動できるな。
操られていたと思っていた奴が操られていた振りをしているなんてことは多い。でも、完全に操られていた奴がそこから自力でなんとかすることは少ない。
「おい、頑張れよエレファントボス! お前は本能だけの化け物になりたいのか。ここは気合い入れて行け!」
ここは普通に応援する。何故かって? そりゃあ、基本私は戦いたくないから。ブッチみたいに強い奴と戦いたいとかいう気持ちは大きくない。
「頑張れ! お前ならやれるやれる!」
「ヴォアアアアアアアアアア!」
「あああああああ!?」
象人間の、エレファントボスの鼻が大きくなり、鞭のように大きくしなって私に襲い掛かってきた。それを咄嗟に鎌で防御したけれど、したけれど! 結局暴走するのか!?