第465話「象を追いかける」
明日追記します。
3/24 追記しました。
アクションゲームを沢山プレイしたことがあるプレイヤーなら、敵の行動を予測するということを自然と意識するようになっていると思われる。
私もそこそこゲームはプレイしてきたので、敵はこういう行動をとって、その後にこういう行動をとりやすいということをある程度予測できる。
ここで注意しなければいけないのは、何度も同じような行動をとっているからといって、絶対にその行動をとると言う事を確証できないうちは迂闊に攻撃してはならないというところだ。
レトロゲームでは、ゲームのデータ容量などの都合で一定の動きしかできなかったので、動きを見切る事が容易だったけれど、昨今のアクションゲームでは本当に色んな動きをするようになったため、隙があって攻撃した瞬間に思わぬ反撃を食らうなんて事も多くなった。
それを踏まえた上で、私は、象に攻撃を仕掛けていた。
「おいしょっと!」
鎌を象に向かって思いっきり振るう。しかし、その攻撃は当たる事は無かった。
攻撃動作中に攻撃をしたので、当たると思ったのに、空振りをしただけだ。やっぱり、こいつは攻撃動作中であっても、一度攻撃を取りやめることができるようだ。狡い!
「ヴァオオン! ヴァオオン!」
象がその場で何度も飛び跳ねると、地面が大きく揺れた。これでは、足元がおぼつかなくなるが、こんなもの、飛んでしまえば…なんとかならないな。ここで飛ぼうとしたら、天井に頭をぶつけてしまいそうな気がする。
「くっ、おっ!あっぶないな! これならどうだ!」
なんとか頑張って象に接近して、鎌を振るうが当たらない。だけど私の狙いは攻撃を当てることじゃなかった。象が影となっている位置に重なる事だった。
「ヴォア…ヴォア…」
こいつの体は透けているような状態で、そこに私がいる。このまま実体化したらどうなるのか。それが今、とても気になっている事だった。私がこいつの体に飲み込まれるのか、それとも私の体がこいつの体を飲み込むのか。
「ヴァオ…」
象はただ唸るだけで、攻撃を仕掛けてこない。これで油断させておいて、ここから一気に移動して距離を取った後で攻撃を仕掛けるなんてことも考えられるので、その時はカブトスピアーでこいつを追う事に決めている。
「へっへ。どうしたのかなぁ? 攻撃を仕掛けられないのかなあ? どうして出来ないのかなあ?」
こいつには多分言葉が通じると思うので挑発しておく。これで怒りだして暴れだせば面白いんだけれどなぁ。
「ヴォワワワ!」
あっ、なんか小刻みに震えだしたな。腹が立っているということなんだろうか。
「ね、ねこます先輩大丈夫なんすか!?」
「うーん! 気にしなくていいよ!」
私が象と重なっているので、獣王君は心配していたようだ。私自身もどうなるのか分からない事だったので不安と言えば不安だ。
本当に重なり合う状態というのは出来ないのだろうか。他のゲームだと移動した側がダメージを受けると言う事の方が多かった気がするけれど、<アノニマスターオンライン>では、そもそも重なり合えないってことかもしれないな。
「ヴォオオ」
何も仕掛けてこなくなった象だけれど、まだ唸り声は上げている。何か考えているってところか。こいつがどう動くのかこちらも考えないといけないな。
もしかしたら壁をすり抜けたりすることもできるかもしれないので、そうなると、ここから逃げて急に姿を現したところから不意打ちされるなんてことにもなりそうだ。
もしも私がこの象だったらというか敵だったらどういう攻撃をしてくるのかという考えになるので、やはり相手の立場になって考えると言うのは重要だな。
「ヴォアッ!」
「それは駄目だ許さん!」
象が突然ジャンプをして私から距離を取ろうとしたが、それくらいやってくると思っていたので、私も併せてジャンプをする。そんな簡単に私から逃げられると思うな。というか今の私は魔王でもあるからな。魔王が敵を逃がすわけないだろう。私に逆らう奴は死あるのみだ!
「ヴォアアアアア!」
象は苛ついているのか、うるさいくらい唸り声をあげている。よし、一応今のところは何もできない状態と言う事でいいな。常に象の動きに注視しなければいけないが、この程度なら楽だな。なんとかなるなる。
だけど、このままずっと重なり合っている状態も良くない。結局倒すことができないので、先に進む事ができないわけだし。ってあれ? 先に進む? そういえばここって行き止りか? …行き止りだな。こいつを無視してどこかに行くことはできないか。
敵を倒さないと先に進めない部屋は、獣王君がいたあの場所は違ったが、ここが恐らくそうだろう。この象を倒せば何かイベントが発生して、先に進めるようになるはずだ。
ということは、やはり何とかしてこの象を倒さなきゃいけないんだけれど、どうにもやる気が起きない。だって、こいつを倒すと言う事は、こいつの動きを見極めなければいけないって事だし。これがとても面倒くさく思っている。
なぜ面倒くさがってしまうのかというと、こいつが光状態になった時に会わせて攻撃を当てられるようになったとして、それが役立つのはこいつ一匹だけかもしれないからだ。
これまでボスというと毎回違うボスがでてきたが、その度に戦いながら動きを覚えてきた。だけど、毎回違うボスだったからこそ、覚えても、もう二度と出現しないというのであれば、折角覚えたのがあまり意味を成さなくなってしまう。
そりゃあ苦労して敵を倒す楽しみはあるけれど、出来れば何度でも戦うようなボスの動きを覚えたい。一回きりしか役に立たないのはどうにも意欲が低下してしまう。
「ヴァオオン!」
動きを見極めなきゃいけないというのは分かっている。分かっているだけにもどかしい。まぁ、結局はやるんだけどね!
私は、重なり合っていた状態を自分から抜け出した。その際に、いくつか火薬草をばらまいておいた。これならどうなんだろうか。
生物は無理でも、こういうアイテムとかなら重なり合う事が可能なんじゃないのか。それを検証するためにばらまいた。
「ヴァオオ!」
私が距離をとったのを見計らって、象は光状態になったようだ。鼻を思いっきりぶん回して、私に当てようとしてきた。
「時間凍結」
そして世界が凍り付く。何もかもが全て凍ってしまったかのように動かなくなった。火薬草を仕掛けるなんてやってみたものの、結局はこれで決着をつけるつもりだった。
光状態だったら、このまま鎌で斬り裂けばいいだけだし。黒薔薇の型! そんでもって、このまま全力でこいつの体を斬り刻む!
「でりゃでりゃでりゃ!」
何度も斬り刻み、そして時間凍結を解除した。
「ヴォア!? ヴォアアアアア!?」
象は苦しそうにのたうち回った。そして、その振動が大広間に伝わっていく。これは、今も光状態だな! ダメージを受けている最中もこうなるってことか。だったらこのまま連続でダメージを与え続けるのが一番いいってことか。
「獣王君! こいつに向けて魔法を撃ちまくって!」
「え? 何が起こって…!?」
「いいから撃ちまくって!」
「え? サ、サンダーブラスト!!」
「ヴォアアアアア!?」
獣王君の放った大きな電撃が象に命中する。その衝撃で更に苦しみ、じたばたともがく象だった。
「象、お前の命もここまでだな! エレファントボスの偽物!」
「ヴォア! ヴォエヴォエ!?」
また何か語り掛けてきているような感じだったけれど、言葉が分からないのでなんとも言いようがない。きっと私と獣王君に恨み言でも言ってるんだと思うけれど。
「私もまだまだ攻撃を続けるよ!」
この隙を逃すことはなかった。ここで攻撃を仕掛けなければ、次はいつ攻撃できるようになるのか分からない。失敗すれば面倒くさくなること間違いなしだったので、鎌で何度も斬りつける。
「ヴァアアアア!」
先ほどまでと逆で、今度はこちらが一方的に攻撃し続ける展開になった。このまま一気にこいつを倒してしまいたい。ここで倒しきれずに影状態になられたら、それこそ逃げてしまうかもしれないし。
「エレファントボスの偽物もこれで終わりだ!」
私の鎌は結構な威力があるので、いくら象が巨体とは言え、これで何度も斬っていけば、やがて力尽きるだろう。私は一心不乱に鎌で象の体を斬り裂く。全ては面倒くさいことにならないために。
「ヴォ、アアアアアア!」
断末魔でも上げたのかと思ったが違った。鼻を上に伸ばして、何かを吸い込み始めていた。周囲の壁から何か黒い靄のようなものが出てきていた。あっ、これは!? 闇の素か何かか。こいつ、これを取り込んで強化するつもりだな! させるか!
「吸収!!」
ここで私は気づいた。右手には鎌、左手には錬金術士の杖とカブトスピアー。つまり、両手に空きがない状態だ。だけど、吸収はいつも手で使っていた。だとするとこの場合どうなるのだろうか。疑問に思っていたその時だった。
「ふぁ!?」
黒い靄改め闇の素が私の口の中に吸収されていく。げぇー!? なんか味とかないけれど気持ち悪さがあるぞこれ!?
「ヴォアアアアアアアアアアア!」
「あ!? こいつ! 吸収!」
象は鼻から、私は口から闇の素を吸収していく。私の方が…早い! そしてなんか口だけじゃなくて普通に体に直接吸収されていくんだけれど! なんか闇が体中に纏わりついてきているんだけれど!
うわぁーなんだこれ! 大丈夫か!? 今までこんなことなかったのにどうしてだ? あ!? もしかして、口から吸収したのがいけなかったのか!? だから吸収がおかしいことになってしまっているとかそういうのなのかな!?
「ヴォゲロゲロゲロゲヴォヴォ!」
なんか象も気持ちが悪そうにしていないか!? なんだよこれ!? ゲテモノ料理を食べているってわけじゃないんだぞ!
「ねこます先輩! ちょっと俺そういうホラーは見たくないっす!」
「わざとじゃないんだよ!」
私だって好き好んでこんなことやっているわけじゃないってのに、なんなんだこれは!
「ヴォゲーップ! ヴォヴォヴォ!」
なんか、象が滅茶苦茶苦しそうというか、今にも死にそうなんだが。これ、このまま攻撃すれば倒せるんじゃないのか? こういう時程チャンスだし、このまま鎌で斬り裂いてやるか!
「おりゃあああ! おあっ!?」
なんか…象の鼻から闇の素が漏れ出している感じなんだけれど…何コレ、ゲロ? うわっ、近寄りたくないなあ!?