第460話「カピバラを追い詰めよう!」
「あいつは多分カピバラって種族なんだけれど、ひじきは知っているかな?」
一旦、ひじきを呼び寄せてから、どういう種族なのか知っているか確認することにした。
「いえ、全く存じ上げません」
私もカピバラなんて動物園くらいでしか見たことが無いしなあ。そういえば今更だけれど、<アノニマスターオンライン>のようなゲームが作れるのなら、VRで動物園だって作れるはずだよな。まだ作られていないのは利権でも絡んできているのかなって話が脱線しちゃだめだな。
「でかいネズミとでも思っていればいいよ。まぁねずおとはまたちょっと違うけれど」
うろ覚えたけれど、確かねずみ系だった気がするのでそう言っておく。
「母上、あのカピバラというモンスターは言葉を話していましたので、恐らく能力が高いと思われますので警戒しましょう」
言葉を話すと…? そういえばゴブリンとかは言葉を話せないもんな。たけのこ森のうさぎとか豚とかもそうだったけれど。
言葉を使えるというのが、モンスターとしては、ある程度上位種って証明になると思っていいのか。今更だけれど、確かに話す奴と話さない奴がいたもんなあ。でもどっちかっていうと話す奴が多かった気がする。
つまりなんだ、私が戦ってきたモンスター達はみんな上位種ばかりだったってことになるのだろうし、私の仲間たちも実はみんな上位種たちってことなのか。
「なんだか複雑な心境だけれど、まぁそうですかとしか言いようがないね。まぁ、カピバラだからとか言葉を話せるとか色々分かっても油断はしないから安心して」
弱そうな見た目の癖に強いモンスターなんて沢山見てきたし、あいつがカピバラだからといって油断するつもりはない。猛獣だと思って相手にするつもりだ。
「それでひじき、ここの穴を防ぎたいんだけれど、何かできる?」
「はい。魔力の壁をここに作りますので、通り抜けはできなくすることができます」
「あれ? なんか土の魔法とか使うと思ったんだけれどってあーそうか。ここがモンスターの体内かもしれないから?」
モンスターの生態に対して干渉するなんて出来るかどうかも分からないもんなあ。というかそれをやってしまったら、思わぬ反撃をされそうだし、やめておいた方がいいな。
「そうなんです。この壁や床に干渉しようとしてみたのですが、どうも弾かれるようなんです。ここは恐らくエレファントボスが作り出している場所なのだと思います」
「ってもう干渉しようとしていたのかー。まぁいいけど。ところで、エレファントボスが作り出している所って何かな」
「エレファントボスが魔力か何らかの能力でこの迷宮を作り出している気がするのです」
その可能性もある、といえばあるのか。ブッチ達は確か体内に入り込んだとかなんとか言ってたけれど、体内ってわけでもなく、単純な能力ってことになるのか。
「私達は魔力の中に囚われているってことか」
でも、それだと私の吸収を使っていけば、この迷宮を消し去れそうな気がするな。まだ試すつもりはないけれど後でやってみるとするか。
「じゃあ、この穴の部分に、その魔力壁をお願いしたいんだけれど、ひじきはここで待機していないと駄目なのかな?」
「ここから離れても大丈夫ですよ。魔力の塊をこちらに残しますが、そう簡単に消える様なものではないので」
持続時間が長い魔法ってことか。そういうのって色々応用できそうな気がするな。
「それじゃあ一緒にあいつを追い詰めるとしようか。その前になんだけれど、私はこの間魔法を使えるようになってさ。その、魔法の使い方を教えてくれない?」
「私の存在意義が無くなる気がしています。母上が魔法を使えるようになると…私の役割が…」
おおっとひじきちゃん! お母さんはそんなことにならないと思うよー!? それに私ってば忍術が使い勝手あまりよくないから、全然使ってないし、魔法だって多分魔力自体が低いみたいだからそんなに使わないと思うよ! だから安心して欲しいな!
「…分かりました。母上の頼みですからね。それで、どんな魔法が使いたいんですか?」
「氷系魔法!」
火は狐火がある。水は一応水遁がある。雷は雷獣破と最近使っていないけれど電撃の鞭がある。そして風は真空波。土は土潜り。色々使えるようになってきているのは確かなんだけれど、やっぱりここまできたら氷を作り出せるようになりたい。
「私はあまり得意ではない属性ですね。何かを冷やすイメージをしながら魔力を外に出すようにしてみれば、出てきますよ。ですが、今ここではしないほうがいいです。暴発する可能性もありますし」
魔法って暴発するのか。それは参ったな。ぶっつけ本番みたいにここで使ってみようと思ったんだけれど。
「分かった。ところで魔力を外に出すってこと自体が分からないんだけれど」
「私が今から魔力障壁を作り出しますので、見ていてください。」
ひじきが穴の前まで移動すると、体から青白い光が放たれる。
「マジックネットシールド!」
「ブラストサンダー!」
「!?」
ひじきが魔力障壁を作り出した瞬間、電撃の魔法が飛んできた。これは、まさかカピバラが放ったのか。
「な…まさか先に攻撃されるとは思いませんでした。もう一度いきます。マジックネットシールド!」
「ブラストサンダー!」
またしても、電撃の魔法が飛んできたようだ。なんだ、どういうことだ。逃げてばかりいるはずの奴が、わざわざ攻撃してくるなんて。
「…母上、すみません。どんなものなのか見せようと思ったいたのですが邪魔が入ってしまって。まだ続けてもよろしいですか?」
「いや、ここは一旦ストップだよ」
あのカピバラ、多分こっちに壁を作られたらまずいと思って妨害しに来ているな。多分そうだ。なかなか賢い奴じゃないか。逃げ道を塞がれる前に壊すとか。
でもこの調子だと、ひじきが連続で魔力障壁を貼り続ければいいし、その隙に私が別な道に移動して襲い掛かればいいだけなんだけれど。
「ひじき、もう片方の穴で同じことをしてくれる? 私はこっちで待っているから」
「かしこまりました」
逆から魔力障壁を使えば大丈夫だろう。その隙にこっち側から入ってしまえばいいかな。魔法を使われるかもしれないので、警戒しながら行くしかないけれど。よし、行くかと意を決したんだけれど。
「えー」
もう片方の穴まで移動したひじきを見ていたんだけれど、壁を作った瞬間に妨害を食らったのを目撃した。あのカピバラ早すぎだろう。一瞬であそこまで移動していったのか? カピバラの方が移動しなきゃいけない距離があるっていうのに。
「それとおかしいな。なんでひじきの位置が分かったんだ」
答えがあるとすれば、私達の会話を聞いているからってところだろうな。ということは、いつも通り会話は心の中で呼びかけるようにしようってことでいいかなひじき?
(かしこまりました。折角母上と直接話せる機会なのに…あのカピバラは許せませんね。三度も私の邪魔をしてきたばかりか、母上との交流まで)
ひじきってば、そんなに私と話をしたかったのか。まぁあのカピバラを倒せば沢山できると。というわけで、こっちに戻ってきて、逆に私はそっちに行くから。
(かしこまりました!)
私とひじきのいる位置を交代する。これならあいつに気が付かれずに済むな。ああそうだ。ひじき。魔法の発動は小声でも行ける?
(いけます。できるだけ大きな音を立てずにいきます。それと、母上はもう攻め込んで貰ったほうがいいと思います。妨害されても私は連続で魔力障壁を使い続けますので)
分かった。それじゃあその作戦で行こう! 私はこっち側からあのカピバラを倒しに行くよ!
そして私は走り出した。だけど。
「ブラストサンダー!」
ひじきがいたほうに向かって声が響く。なんだあのカピバラ。やっぱり移動が速すぎる。いや、それとも移動なんてしていないってことなんじゃないのかこれ。
あの通路の真ん中あたりにいて、そこから魔法を使ってきているんじゃないのだろうか。数字の8になるような通路だから、魔法を使っても結構カーブさせなきゃいけないから、そんな繊細な操作をしているかと思うと驚きではあるけれど。
ひじき、私はこっちからそのまま攻め込むから、悪いけれどひたすら魔力障壁を作って貰ってもいいかな?
(ガッテンショウチ!)
え?
(言ってみたかったんです!)
あ、うん。そうだね。他の皆もいったことあるもんね。というわけで、このままいっきに行くか! 鎌をしまってカブトスピアーを取り出して右手に持つ。左手には錬金術士の杖だ。
「加速!」
通路をそのまま突っ走る。カピバラの姿が見えたら、即攻撃するつもりだ。まぁ向こうは私のいる位置が分かっているみたいだから逃げ出しているだろうけれど。
「ブラストサンダー! ブラストサンダー! ブラストサンダー! ひいい! 死にたくなあい!」
…なんか叫んでいるけれど、あの魔法、なんで私に撃ってこないんだろう。ひじきに撃ってくるよりも私に使ってきた方が絶対よくないか?
「おりゃああ」
「ぎゃあああああああ 化け物だああああああ! ぎゃあああ! 殺されるうううう! うおおお!」
「誰が化け物だよ!?」
「ぎゃあああ喋ったああああああ! 化け物マジ怖いよおお! やめてくれー! 俺を食べないでくれええ! ブラストサンダー! ブラストサンダー! ああもうなんなんだよ! あの蛾もおかしいよお! 誰か助けてえええ!」
散々な言われようだな。そんでもって、やっぱり私には魔法を使ってこないようだ。ん、つまり何か。こいつは私にびびっているから攻撃してこないって事なのか!?
「マジックネットシールド! マジックネットシールド!」
そこへ、ひじきの無慈悲な声が聞こえてくる。まぁ逃がさないためだからしょうがないね。
「うわぁああ!? 俺死んだ! なんなんだよもう! 俺が何したんだよお! くそお!」
「残念ながらあの世に行ってもらおうか、カピバラ君」
「嫌だあああ! というかなんなんだよこのゲーム!? いきなりこんなところに連れて来られておかしいだろう! こんな化け物に襲い掛かられるとかホラーゲームじゃんかあああ!?」
「…やっぱりプレイヤーだったんかい」
まぁ、なんとなーくそうじゃないかとは思っていたんだよね。ちょっと賢い気がしたし。まぁでも、馬鹿でもあるとは思う。