第458話「詰んでいる?」
行き詰った。正確にはほぼ、行き詰ったという状態だ。4つあった道の全てを移動したのだが、その全ての道を進み、最初の場所に戻ってきてしまった。どういうことなのかというと、通路は数字の8のようにつながっていたということだ。
入り口もなければ出口もないということだ。これはまるで<アノニマスターオンライン>を始めたころのブッチのような状況だ。どこにもいけないままずっと同じところを周り続けていたらしが、いざ自分が同じ状況になると、やはり色んな意味で消耗していく。
隠し通路がないかと探索し、時間が経過すれば何かイベントが発生するのではないのかと待機してみたものの、何も始まらない。通路を移動する順番がありそうだと、こちらも試してみたが、何も起こらず。
まだ、試していないのは壁への攻撃だが、安易に攻撃して倒せないモンスターでも出現しようものなら、本当の意味で詰むので、それは最後の手段としておきたい。
ゴブリンやコウモリなどのモンスターは、全滅させてしまった。そしてアイテムは何も落とさなかった。敵を全滅させれば出られる場所というのはよくあることだし、倒せば多分でられるだろうと思っていたが、出口などは出てこなかった。
全滅させた後も更に出てきたりしないか待ってみたが、モンスター達が再発生することは無かった。段々と頭を抱え込みたくなくなってきた。
私は、ここで最悪の予想をしている。ここは入った瞬間に死ぬのが確定した処刑部屋のような場所で、ここから脱出する方法は一切なしとして設定されているのではないかということだ。
何かの罠でここに飛ばされて、最初にあった黒い霧でダメージを受け続けて、そこでゲームオーバーになるといった仕組みだったんじゃないのか。
「これは、壁をぶっ壊すしかないのかなあ」
他に方法が思いつかない。できればやりたくない。隕石拳をここでぶっ放したらどうなるのか分からないギャンブルみたいなものだ。だけど、まだ試していないのはそれしかない。だとすればやるべきなんだろうけれど。
「ブッチ達にメッセージを送ってみるか」
部屋から出られない、助けてみたいな感じで送ってみることにした。あっという間に返事が返ってきた。
マブダチからのメッセージ:前と逆の立場になっているのか! お姫様を救いに行くヒーローに俺はなる! って言いたいところなんだけれど、俺らも道に迷っているんだよねー! あはは。まぁねっこちゃんなら自力で脱出できるでしょ!
囚われの姫様が救助を待たずに自力で脱出するとか新鮮な響きだな。じゃなくて! そこは絶対助けに行く読みたいなノリじゃないのマブダチなんだから!
全くもう! なら、やってみようじゃないですか! でもその前に入念に調べてからだけど。既に調べつくしたとはいえ、時間経過で変化している場所はあるかもしれないし。
日時設定があるゲームで、何時何分からしか出現しないモンスターがいるとか、何曜日にだけアイテムを売りに来る商人なんかがいたりするから、そこは確認できていないしな。可能性は、まだあるはず。
…それじゃあまたじっくり見て回るとするか。このマップをあと100週くらいはしてみるとか。もう既にそのくらいはやっていて、絶対何もないとは思うけれど、見逃している場所があるかもしれない。
このマップ、実はそんなに広くないので、周回するのは簡単だし。
だけど、既に探し終わった後に何か発見されたら、今までちゃんと探してなかったのかってことになるからそれはそれでなんだか悔しくなってくるな。
そういえば、この8の字っていうのも腹立つ要因になっているな。いかにも無限ループしていますっていうような感じで、脱出を諦めてくださいと言わんばかりの場所だ。こういうのをメビウスの輪とかなんとか言ったはずだけれど、無限とか永遠ってある意味何の変化もなく、地獄のような場所だと感じる。
そんな私の状況を、エレファントボスの奴がどこかで見てほくそ笑んでいるかと思うと…絶対に脱出してやるという気にさせられてくる。
どこかで私の様子を見ているのは確かだと思う。
クロウニンには、私の正確な位置が分かるのだから、それくらいできてもおかしくないだろう。私の予想だと最初に見た時の巨大な姿とは別の姿があるはずだ。その別な姿が意外と小さいなんてこともありえそうだ。その小さいサイズのエレファントボスは、この体内の中なのか知らないけれど、ここで自由に監視やら操作やらできるようになっていそうだな。
「おーい。雑魚のエレファントボスくーん。でておいでー」
声が辺りに響き渡ったが、何も反応は無かった。煽り耐性はあるってことなのかな。それともこちらの声は届いていないと言う事か。悪口でも言いながら歩いてたら、そのうち怒ってこっちにきてくれたりしないかなぁ。
「こんな迷宮…でもなく、ほらあなみたいな場所に閉じ込めるなんて、みみっちぃことをやるよなぁ、エレファントボスって」
というかネガティブータの時もこんな感じで迷宮みたいなもんを作り出してきたし、あいつらこういう狭い所が好きなんだろうか。もっと広々とした、大自然の中で戦うみたいなそういうのはないのか。
ああ、そういえばネガティブータは、ネガティブって否定的な感じというか、引き籠ってそうな感じはするな。
エレファントボスも、この間行った地下世界みたいなところの影象の森ってところの影象をイメージするとやっぱりどこか根暗そうなイメージがある。
「クロウニン同士仲が良かったとかあるのかな。そしたら豚と象が仲良くしているとか想像ができないんだけど」
意外と意気投合していたりしそうだなあ。逆にペンギンとアリは仲が悪かったんじゃないかなあ。高貴そうなペンギンとガラの悪そうなアリだったからなあ。
「豚と象は根暗だなーっと。こんな場所にいちいち閉じ込める陰湿な奴だなー。いやぁ、影でこそこそやることしかできないとか情けないなー!」
更に煽ってみるが何も起こらない。期待していなかったからいいんだけれどね。
「はぁ。また壁を触ってみるか」
何も反応が無いただの壁を触っていく。ここの壁はざらざらしているだけで特別変わったところはあるように見えない。絶対に何かあるはずだと、既に全部分を触ってはいるのだけれど何も起きなかった。
「こうやって熱心に探索をしているのに成果なしだからなあ」
脱出ゲームなんかも頭を使う所が多いので、意味が分からず詰んでしまうところもあるけれど、脱出方法が分かるというただそれだけで、すっきりするっていうのがある。
「普通の脱出ゲームと違うのは、私が武器を持っているってとこか」
鎌を使って次元を斬り裂いて脱出ができればそれでいいんだけれど、ここから脱出して外にでていっ
たら、それこそ狙われそうな気がするなあ。
更に言えば、今じゃ人質をとられているようなものだし。私一人がここから脱出したらブッチ達を狙う確率が高くなる。ブッチなら人質を取られていようがなんとかするだろうけれど、たけのこやエリーちゃんは、狙われ続けてしまって疲労し、最後は命を落とすことにもなりかねない。
「あぁー壁をどれだけ触ってもやっぱり何もおきないなー」
壁を触りながら歩いているが、何も起きなくて無気力になってきそうだ。こういう何も変化がなく何をやっても無意味となってくると、人って疲れてくるもんなんだなあ。
ねぇ、ひじき、ここって何か変わった感じはする?
(おかしなところはないと思います。ですが、母上。思った事なのですが)
おっ、何か分かったかな!? いいよいいよ! 何かあったのなら遠慮なく教えて欲しい!
(母上が近づくと、遠くに逃げるモンスターがいます)
「え」
あ。ん? あ、モンスターがいる? どこにだろう。そういえば気配感知がここでは役に立たないんだよな。何がいるかもさっぱり分からないし、あれ、ということは。
敵を全滅させられていないから、脱出ができないということなのか。私が脱出できないように、倒されないようにひたすら逃げ続けている敵がいる? うわ! それは、それは在り得るじゃないか! 私がひたすら歩いているとひたすら逃げ続けて絶対に遭遇しないようにする。そんなずるいやり方があったということか!
く、悔しい! 猛烈に悔しい! なんでそんな単純な事に気が付かなかったんだ! 在り得る話じゃないか! くそー! 目に見ている者が全てじゃないってことは分かっていたじゃないか!
ひじきは、いつから気づいていたのかな!
(私も、つい先ほどです。とても小さい反応なのですが、母上から必ず遠ざかるような者がいたので、怪しいと思いました)
怪しすぎるね。だけどそんな反応に気が付けるなんてすごいよ。
(ごく少量の魔力が高速で動いているのが分かりましたので…すごくはないですよ)
それを凄いと言うんだよひじき! そしてごく少量なのに気づけるのはやっぱりすごいよ! 誇っていいよ! 私だったら鈍くて気づかなかっただろうし!
「タネが分かれば、後はどうにでもなる気がするな」
ひたすら逃げ続けるモンスターか。いるなぁ。莫大な経験値を持ちながらも、すぐ逃げるモンスターが。大量のお金を持ちながらも、なかなか出現しないモンスターもいるしなあ。
そういう厄介な奴らと同じようなタイプだろう。しかも、私の位置が相手には分かるような状態。いわば、相手のみ気配感知が使える状態だったということだ。
普段、何気なく使っていた気配感知だけれど、これに頼り過ぎていたのも駄目なんだなあ。自分の感覚を研ぎ澄ましいれば分かったことだし。あー失敗して悔しいなあ。
それで、ひじき、敵はどこにいるか分かるかな?
(はい、現在は私達の後ろにいますね)
ふむ、どうしたものか。近づけば逃げられるかもしれないけれどまずは走ってみるか? そしてどの程度まで近づいたら逃げるのかを確認してみるか。
(私を召喚していただけますか? 挟み撃ちにできますし)
おっ! それはいいねって思ったけれど、私がひじきの位置が分からなくなるんだけれど。
(召喚していただいた後も、こうやって会話できるようにしておきます。大丈夫です)
あ、それができるようになったのか、おっけー! それじゃあよろしく!
…こうして、私とひじきによる、逃げ続けるモンスター討伐作戦が開始されたのだった。