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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第5章「般若レディは備えたい」
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第455話「巨大な象」

 巨大、というとどれくらいの大きさを想像するだろうか。単純にその言葉だけでは、何が巨大なのかは分からないだろう。では、巨大な象と言えば、どれだけの大きさだと思うだろうか。

 象自体は、人間と比較した場合、巨大と言えるだろう。では、巨大な象と言ったらどうなるだろうか。

 象の中でも更に巨大な象と言えば、一回り、二回り以上も大きい程度だろうか。いや、それとも五倍以上なのだろうか。巨大と言っただけでは、はっきりとした定義はないだろう。見る物によってはそれが巨大と言えるだけなのだから。

「…巨大な象ね」

 ゆっくり、ゆっくりと、私から見ると、どう見ても巨大な象がこちらに近づいてきている。まるで、特撮作品の怪獣のような巨大な象が、ゆっくりとこちらに近づいてきている。

 象がこちらに近づくたびに、地面が大きく揺れる。近づくにつれてその揺れ、振動が大きくなる。

 ただの生物がこのような地震を引き起こすなど、現実では到底考えられる話ではないだろう。


 だけど、これはゲーム。いや、正しくは仮想現実の世界。私たちの前に迫りくる巨大な象は現実にいるかのような迫力があった。

「…マジでけぇ!」

 私の右隣ではしゃいでいるのは、サイコロプスのブッチ。身長は二メートル以上、多分三メートル以下の巨体だが、巨大な象と比べれば本当にちっぽけな存在にしか感じられない。

「あんな大きいモンスター、本当に倒せるんでしょうか。ああいうのって、大体倒せずに撃退しかできない気がするんですが」

 私の左隣で唖然としているのは、サキュバスのエリーちゃん。身長は百五十センチちょっとってところかな。私もエリーちゃんの意見に同感だった。あんなでかいモンスターを、どうやって倒せばいいのか見当もつかない。それほどまでに、巨大な象だ。

「あれが実は幻覚とか張りぼてだとか言うのならそうだと信じたいんだけれど、いかんせんこの地震が本物だって思わせてくれるよね」


 もしかして、普段蟻なんかは、こんな感じで人間を見ているのだろうかというような感じだ。つまり、今見えている巨大な象は、蟻からみた人間くらいには大きさに違いがある、ということだ。

あんな大きな生物がなぜ存在しているのか分からないし、どうやってあそこまで成長したのか知る由もない。生まれた時からああだったということなんだろうか。

「地震だけ、魔法か何か使って、こっちをびびらせようって作戦じゃないかなー。まぁそんな面白くない事にはならないと思うけど!」

 私としては、巨大な象が偽物であって欲しいが、ブッチとしては、面白さ優先なので、巨大であって欲しいということだろう。

「ラスボスを倒したと思ったら、更にラスボスが出てきたときの気持ちって分かる? ちゃんとラスボスの最終形態まで倒したのに、なぜかまたラスボスがでてくるとかさぁ」

 死力を尽くして戦って、もうこれで最後だと思っていたから、アイテムとか全部使いきって終わったと思ったら、実はまだ終わりじゃありませんでした、っていうゲームは…あることにはあったか。


「きっちり全滅して、もう一回再挑戦するしかないんですよね。そのパターンって」

「それはRPGの場合は、だよね。アクション系なら結構なんとかなると思うよ! 俺なら俄然燃えてくる展開!」

 RPGは、自分で敵の動きを避けたりするのではなく、ゲーム側が勝手に当たったことなどを判定する。なので、絶望的な状態をひっくり返す事が難しい場合が多い。それに対して、アクションゲームやシューティングゲームは、自分の動きが良ければ、いくらでも相手の動きを回避することが出来る。だからこそ、絶望的な状況であっても結構なんとかなることがある。

 とはいえ、相手の攻撃をただの一発たりとも当たるなというような事をしなければいけないので、余程の自信がなければ、どうにもならないことだろう。あぁ、そんな自信家が近くにいるなあ。実際にそういうことをやってのけるから自信があるのは当然か。


「巨体だから動きが鈍いし、攻撃を避けるのは意外と簡単なのかもしれないけれど、どうせあの体に他のモンスターだとかがいるに違いないよ」

 巨大なモンスターの体内に侵入して中にある核を破壊するなんて言うのがよくある展開だ。だけど、もしもそんな展開にならなくて、体内に入ってすぐに熔かされてしまったら、ゲームオーバーになってしまう。つまり、そのあたりの設定は運で決まってしまう。ゲームによって設定が違うので、このゲームでは体内に入ろうとしたら、ダメージを受けるとか色々ある。

「動く要塞みたいなものですよね、あのサイズだと。豪華客船よりも大きいですし、もう迫力満点過ぎます」

 本当に、ね。なんであんなに大きいんだろうか。高さは超高層タワーマンションよりも高い。長さは、どこまでなのか計り知れない。どうやって突然現れたのかは分からないが、ここにきてしまっているという事だけは確かだ。なぜ来たのかは、当然私狙いということだろうが。


「…あれ、絶対に、エレファントボスだよね。鼻が見えているし。象って言うのは形的に分かっているし。突然、前触れもなく現れてこっちに向かってきているってことは、きっとそうだよね」

 敢えて確認はしておく。形は象そのものなのだが、色は真っ黒というかまるで影のように見えるので、象ではないとも言える。だけど、そんな真っ黒であっても、遠くから見て象だと分かるほど形は象でしかなかった。

「こっちに向かってきているようだし、絶対そうだと思う」

「私も、そう思います。わざわざこちらに来ているってことは、何か理由がないとおかしいですし」

 で、その理由が私だよね。はぁ。なんてことだ。まさか、やっとこさマオウペンギンを倒したと思って喜んでいたのが束の間、まさかクロウニンと連戦することになるだなんて。ひょっとすると戦わなくていいのかもしれないと思ったけれど、そういう楽観的な考えはよくないのは身に染みて分かっているのできっと襲い掛かってくるだろう。


「正直、連戦とか考えたくもなかったことが現実になって愕然としているよ」

「ねっこちゃん、これVRだから」

「分かってるよ! 分かってるから!」

 あーもう! こっちは疲れているしもう、ログアウトしたいなーなんて思った瞬間に出てくるとかそりゃあないんじゃないのかな。まぁまだ強制ログアウトまでの時間は大分あるからいいとして、連戦だなんて最悪だ!

「ねこますサマ。アノオオキイヤツト、タタカウノデスカ?」

「そうなるかもしれないんだよたけのこおおお」

 もっふもっふわしゃわしゃとたけのこにしがみつく。あぁー癒される。なんという癒しだ。もうこれくらいやって現実逃避しないとやりきれない。あ、ここVRだったぁ。じゃなくて!

「マスター。拙者は、あのような巨大なモンスター、一度も見たことがありませぬ」

 くろごまが、震えているようだ。これはびびっているというよりも武者震いなんだろうか?


「そうだね。それで、だ。これからあの巨大な象と戦うことになると思うんだけれど、みんな、このまま戦うってことでいいの? 撤退するって言うのもありなんだけれど」

 私がここからいなくなれば、モンスターの国に攻め込んでこないかもしれないし、ログアウトしてしまえば別に今、戦う必要もないんじゃないかと思う。正直な話、何の準備もしていない現状で戦うというのはしんどい。そこを付け込まれているといえばそうなんだと思うけれど、戦略的撤退をするのも悪くないのではないかと思っている。

「俺は面白そうだから戦いたいかな。マオウペンギンと戦えなかった事だし。あんな強そうな奴と戦えないのはすごい勿体ない!」

「私も戦いたいです。なんだか凄い面白そうじゃないですか!」

 ブッチはともかくとして、エリーちゃんまでやる気に満ち溢れていのか。うーん。私は正直疲れているからログアウトしたいんだけどなあ。えーっと、夕方くらいにログインして明日は日曜日だから、別にこのまま残っているのもいいんだけれど。


「ねっこちゃんは、無理して戦わなくていいよ?」

「そうするよ。燃え尽きた後にすぐ戦うって結構しんどいし」

 ここで無理をしないようにする。本当にしんどい。この状況で戦いに行ってもボロボロになるだけだと思うし。こういう状況であっても戦わなきゃいけないという理由があれば行くんだけれど、あいにく今の私にはそれがない。折角現実では体験できないようなことが待っているといっても、ここで見送ったら後悔するかもなんて思ったけれど、それでも私は疲れている。そう、疲れているんだ。

「私達が倒しちゃってもいいってことですよね?」

「むしろ倒して欲しい。ここであいつを倒せば四匹目ってことになるし。敵の数が減れば減るだけ私の心の安心感が増すよ!」

 クロウニンをとっとと倒してしまえば、襲われる心配もどんどん減っていくのだから、嬉しい。しかも私がいないときに勝手に倒してくれるなんて楽が出来ていいじゃないか。


「でもまぁ、明日にはログインするよ。明日ならなんとか頑張れそうだし」

 今日はぐっすり寝て明日ログインすれば完全に元気になっている事だろう。それまでにブッチ達が倒してくれるかどうかは分からないけれど。

「ほう! つまりそれは明日には倒しておいてくれよっていう挑戦かな!」

「明日までにクロウニン全員倒しておいてくれよ!」

「いいとも! って言いたいところだけれど、みんなまとめてかかってきてくれないんだよね? そっちのほうが面倒くさくなくていいのにねえ」

 普通に考えてボスがまとめて戦いを挑んできたら負ける自信があるんだけどね私は。ブッチはその逆で勝つ自信しかないみたいだから羨ましいよ。

「じゃあみんな、聞いたか!? 今回はねっこちゃんがいない状態で俺らだけであのクロウニンって奴をぶちのめさなきゃいけない! もしかしたらねっこちゃんがいないことであいつが逃げ帰ったり俺らを無視したりするかもしれないけれど、それでもぶちのめしてやろう! うおお!」

「オオオオオオ!」


なんでみんなはそんなやる気あるんだ!? なんか私一人だけのけ者っぽくないか! ちょっと悔しくなっちゃったじゃないか! といっても、私本当にログアウトするけれどね! もう本当に疲れているし、後はみんなに任せて私は休みよ! 明日ログインしたら倒してもらえてるといいな!


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