第450話「何度でも繰り返す」
明日追記します!
2/24 追記しました。
子供の頃からゲームが下手だった。正確にはゲームだけではなく、色々な事が人よりも劣っていた。誰もがたった一回で出来てしまうことなのに、不器用な私は何度も反復練習を繰り返すことでようやく人と同じ事ができるようになった。
考えてみれば、どんなゲームも上手にできた試しがなかった。アクションゲームやシューティングゲームをプレイすれば、すぐに残機が無くなる。そこで、どう動けばいいのか、どうすればいいのかを試行錯誤して、次はこうしよう、今度はこのやり方でやってみようと挑戦し続け、やっと攻略した。
ロールプレイングゲームは、レベルを上げればクリアできるものが多かったが、逆にレベルを上げ過ぎても敵が強化されてしまう作品や、ただレベルを上げてもステータスの伸びが悪くなってしまう作品があったので注意した。
パズルゲームは、時間をかけて一個一個丁寧に解いた。だけど、そこに時間制限に加えて解き方に様々な方法があったので、どういう風にやるのがいいのかをひたすら考え続けた。
レーシングゲームは、一位で独走状態になると敵の攻撃を受けやすくなるので、場合によっては二位や三位を継続し続け、最後に追い抜かすなどの作戦なども考えた。
格闘ゲームは、必殺技を入力するコマンドを最短最速で入力できるように体に感覚を染み込ませるくらいまでプレイした。
その他、多種多様なゲームで、幾度となく失敗し続け、敗北し続けた私がいる。もう二度とこんなゲームやってたまるか! なんて言ってた癖に、しばらくすると始めてしまう私がいた。
オンラインゲームは、<アノニマスターオンライン>以外もプレイしていたことがあった。そこでの大きな失敗は、人間関係だった。
苦々しい思い出として今も心に残っている。やれ八方美人だとか、都合のいいことばかり言ってるだろとか、仕切り屋だとか、本当に何でもかんでも好き勝手言われ続けた。
自分から率先して動いたわけでもなんでもないのだが、気が付くと面倒なことばかりが多くなって、最終的に辞めたオンラインゲームが沢山ある。
媚を売ったつもりもないのに、周りのプレイヤーに媚を売ったなんて指摘された。全く見当もつかなかったことなので、そんなことを言われた時は素っ頓狂な声を上げてしまったことを覚えている。
女だと言う事が知れ渡った時も、かなり迷惑行為が多かった。もう本当にそういう面倒事が嫌だなあと思っていて、極力、人と関わらないようなゲームプレイングをするようになった。
そうした、ありとあらゆるゲームの経験が蓄積されて、今、私はこのゲームをプレイしている。そんな私に才能があった? 鍛錬なんかしなかった? だと。
ふざけんじゃないぞこのマオウペンギン。所詮NPCの言う事のようにも感じるし、この程度でブチ切れる私も大概だと思うけれど、才能だけで片付けられてたまるか。お前、レトロゲームで数百時間も攻略に費やした私のどこに才能があるってんだコラアア!
「黒薔薇の型!」
私は鎌をきつく握りしめた。このゲームをプレイしてから、この鎌は愛用の鎌だ。本当に何度も助けられた最高の武器だ。だけど、マオウペンギンの翼を完全に斬り裂くまでには至っていない。
アダマスの鎌だかアノマスの鎌だか知らないが、この鎌がもしも本当に何でも斬り裂くことが出来るだけの力を持っているとしたら、それが出来ない私の実力が伴っていないということだろう。
だったら、何でもぶった斬るという私の気持ちだとか勢いが足りていないのもあるんじゃないだろうか。そうだ。そういえばこのゲーム、意外と感情にも反応してくれるんだった。だとしたら、やっぱり私に気持ちが足りないから上手く斬れないんだろう。
「才能なんて、私にはない。ペンギン。お前に見せてやるよ。凡人の力って奴を」
ただひたすら練習しただけ。ただひたすら時間を費やしただけ。
「魔者! 貴様などただの才能の塊に過ぎぬのだ! 天才がただその力に溺れているだけなのだ!」
マオウペンギンの鋭利で巨大な翼が、私に襲い掛かってきた。速い。全く見えない。だというのに、感覚でどこに攻撃されいるのか瞬時に理解できた。
「…遅いぞ。なんだそれは」
私は、見えない翼での攻撃を容易に鎌で受け止めた。
「貴様…。」
何だこいつ。私が攻撃を受け止めたことに驚いているのか? こいつの言い分だと私は才能があるらしいから、こんな攻撃を簡単に受け止められるってことだったのに、ふざけているのか。
できるに決まっているだろう。お前が真正面から翼で攻撃を仕掛けてくるときに一瞬、嘴が開くんだから。誰だってそれが分かれば対処しようがあるだろう。馬鹿にしているのか。
ゲーマーってのは、そういう答えを探り出すために必死になるんだ。攻略こそが生きがいだぞってな。勿論、誰かと一緒になって答えを導き出すことだってあるだろう。が、私は基本的にこういうことは自分で経験して答えを出し、そして勝つことを目標にしている。
「お前の翼を斬り裂いてやるぞ! マオウペンギン!」
「魔者! 今更貴様が本気を出したところで! この我には叶わぬぞ!」
「スキル調合。黒薔薇の型と真空波。」
黒薔薇の型がスキルなのかどうかはよく分かっていなかった。だからここで試してみる。こんな時にだけれど試してみる。どんな時であっても、可能性を信じている。それがゲーマーだろう。どう転ぶか分からない時にも遊びを止めない。それが新しい事に挑戦すると言う事だ。
黒薔薇の型を使ってから真空波をやったことはあるが、そもそもこの二つを同時に組み合わせてしまえばいいじゃないかと前々から思っていた。そうすれば、鋭さが増すのではないかと。
「奥義! 鎌鼬」
名前は適当につけてみた。なんとなくだ。これで失敗したら笑えるが、失敗するつもりなんて一切なかった。その時はその時だし。
鎌を振るった瞬間、マオウペンギンは消えた。だが、そんなことは関係なかった。攻撃を避けてしまうのなら、当てればいい。攻撃が当たらないのなら、攻撃を当てればいい。攻撃が届かないのなら、攻撃を届ければいい。単純な事だった。私は、全力で、この鎌を振るっただけだ。
ドサッ。何かが落ちる音がした。大きな何かが、地面に、落下した。
「な…に?」
私の斜め右、十メートルほどの位置にマオウペンギンがいた。愕然としていた。何が起こったのか分からないようだった。私はその結果に満足し、そのままマオウペンギンに向かって走り出した。
鎌鼬は成功した、ということは黒薔薇の型はスキルだったようだ。まぁスキル名は私が勝手に命名してしまっただけに非公式なものだけれど。更に鎌鼬というのも適当にノリでつけたので正確な名前があるかもしれない。
「ぐ。お。お? なんだ。これは。どういうことだ。どういうことだぁああ!」
マオウペンギンは、口から超高速で水を飛ばしてきた。またウォーターカッターか何かだろう。だけど、私は、飛んできた水全てを、鎌を振るって消し飛ばした。
「グォオオ! 超冷凍破! 超冷凍破! 超冷凍破!」
あの恐ろしい威力の猛吹雪を連発してきた。凍てつく冷気が私の全身に襲い掛かろうとするが、その前に私は、スキル、鎌鼬でそれらの猛吹雪を消し飛ばしていく。
「アノマスの鎌! 貴様! やはりそんな物を持っているとは! 才能だけでなく、道具にも頼り切っていたか!」
「は?」
道具に…頼る? おいおい、冗談を言うなよ。この鎌は、どこにでもある何の変哲もない、ただの鎌だったっての。そういえば前に威力が不足してきて、戦いには使いにくくなってきたなって思った時だったあったな。それを、草刈りから始まってずっと使い続けてきたのは、愛着があったからだ。そのアノマスの鎌だと分かっていたから使ってきたわけじゃない。
誰にでも思い入れのある道具というか武器があるってこいつは知らないのか。全くもってふざけた奴だな。
「これは、ただの鎌だ」
「そんなわけがあるか。それは! それは万物を斬り裂く、アノマスの鎌! 別名草理鎌だと言われているものだろう! 魔者! 貴様はそのような道具に。ぐっ!?」
「黙れ」
こいつには本当にイライラさせられるなあ。私が道具に頼っているとか言ってくるし。なんなんだ。そんで別名なんだって? 草、草理鎌だって? いい名前じゃないか。草刈りばかりしている私にはぴったりだな。
「我の、この我の翼を斬り落した。その鎌がただの鎌であるわけなかろうがあああ! 貴様は! 昔から我をおちょくって! 死ねえええ!」
先ほど、マオウペンギンの左の翼を斬り落とした。次元を斬り裂くことができるのだから、遠くに逃げようがそんなことはお構いなしだった。どこにいようが、狙った獲物を斬り裂くことができる。そんな武器は確かに凶悪だろう。
だけど、本当にこれはただの鎌だった。もしかしたら、成長する鎌という設定があったのかもしれないが、散々草刈りをしてきたからこそ、これだけの性能を手に入れたのだと私は思っている。
私が何もしなければこの鎌はずっとただの鎌だっただろう。だから、こうやってこの鎌がこれだけの威力を発揮できるようになったのは、私が使ってきたからだ。
「我が魔力が、貴様のアノマスの鎌になど負けるものか! 全てを凍結させてやるぞ!! グォオオオ!」
気が付くと、視界全てが真っ白になっていた。地面は全て凍結している。肌寒い感覚が全身を襲い掛かってくる。氷河期を彷彿させる感じだ。
「なるほど、これがお前のステージってことか。」
「この環境こそ、我が力が最高に発揮できるのだ! 貴様はおしまいだ!」
私、何回終わればいいんだろうかとツッコミをいれたくなったが。まぁいいかと、その前に。
「うびびび。糞寒いいいい! なんじゃここはああ!」
「主! これやべえっすわああ! 俺ら退却してもいいっすか!?」
「ひじき再度召喚。というわけで戻せる? あいつら」
「はい。いけますよ。」
まぁ少しは役に立ってくれたことだし、たけのこ森に戻って再開した時とかにはお礼を言っておかないとな。ひじきに再召喚させるのもなんだし。
「よそ見していていいのか! 絶対零度砲!!」
マオウペンギンは、大空へと羽ばたき、嘴から、巨大な柱のようなビームをこちらに向けて撃ってきた。
「空間転移」
私は、ひじき達を遠くへ飛ばした。私自身は、この攻撃を迎え撃つつもりだった。
「分解」
錬金術士の杖を掲げる。マオウペンギンが放ってきた、絶対零度砲とかいう攻撃の分解、つまり無効化を試みた。すると、私の所に到達する前に、淡い光を発して消えていく。
「な、なんだと。」
「魔者だからこれくらいは出来るって思わなかったのか?」
ぶっつけ本番には結構強いんだな私。まぁなんとなくできるような気がしている時は大体成功するんだけれど。
「ぐ、お、うぉおお!」
マオウペンギンは空の上で激しく吠えた。ここからだ。こいつは、ここから全ての力を出し尽くして私に攻撃してくるだろう。それを迎え撃つ。完璧に叩きのめして勝つ。
追い詰められた敵は何をしでかすか分からない。ましてやこいつは魔王だ。絶対に最後の最後で切り札を使ってくるだろう。
それを全部、ぶっ壊して、とどめを刺せば私達の勝ちだ!
ゲームって何度も練習して上手くなるものなのだと思っています。
そしてゲーマーというのはどうやったら上達するのかを常に考えています。
なのでゲーマー達と言うのは、恐ろしい実力者たちなのだと思います。