第448話「ねこますの不調とその理由」
こういう時、都合よく誰かが来てくれたらいいのにと期待したけれど、残念ながら誰も来ることはなかった。かなり広い国なので、恐らくモンスターがそこら中からうじゃうじゃと湧いてきているはずなので、私の所に駆けつけようと思っていてもそう簡単にはいかないんだろう。
ブッチにかかれば一ひねりだと思うけれど流石に数が多すぎるんあろうな。
それにしても、今現在他のモンスター達は、私の下には全然集ってこないな。マオウペンギンが、そうならないようにしているのだろうが、ここで大群に私を襲わせればいいのに、なぜそうしないのかが意味が分からない。
魔者という存在を、自分の力のみで倒すことに固執しているのだろうか。それは好都合だけれど、甘すぎるだろう。
私だったら、これだけの手下がいるのならば、そのまま嗾ける。たけのこ達のように付き合いが長く愛着がある存在だったらそんなことはしないけどね。
「貴様は…本当に魔者なのか?」
また寝ぼけたことを言い出した。この問答はいつまで続けなきゃいけないんだろう。
「真空波!」
毎度のことながら、敵の質問などに答えつるもりなどない。何かあれば会話を交わすかもしれないが、そんなぺちゃくちゃ喋りながら戦闘はしないっての。
「…フン。魔者、貴様は我が分からぬのか。貴様は我らをどれほど虐げてきたか覚えていないのか。魔者、貴様は我らにこれだけの力を与えておきながら、何故…何故!」
私の放った真空波は、マオウペンギンにあっけなくかき消されてしまった。そして今度はお返しと言わんばかりにマオウペンギンが翼から真空波を放ってきた。
「真空波!」
再度、私は鎌を振り真空波を放って相殺した。なんか不穏な感じになってきたなあ。
情緒不安定というか、魔者がこいつらクロウニンに洗脳みたいなことをしたとしか思えないんだよなあ。今、ここにいるマオウペンギンも、錯乱状態になって大暴れしそうな雰囲気を醸し出してきた。
こいつが今ここで暴走状態になって、所かまわず攻撃をし続けたら手に負えなくなりそうだ。
「魔者、やはり貴様は、殺さねばならん」
「それはもう聞いたぞ! っと!」
マオウペンギンに接近して、鎌を振るう。しかし、攻撃は空振りしてしまった。やっぱりこいつ移動速度がすごいな。全力で回避だけに集中されたら攻撃が当てられそうにない。
ええい、ちょこまか逃げやがって。魔王とか言うんだったら、か弱い般若レディの攻撃の一回や二回くらい甘んじて受けてくれてもいいじゃないか!
「人面樹達。あいつを足止めできる?」
「姿見えればなんとかなりそうだが、見えねえから無理だぜ主!」
「あのペンギン、すげー動き回るから捕まえらんねえよ!」
まぁ元が木だもんなこいつら。木が動いているだけでもおかしいってのに、マオウペンギンに追い付けるくらいの移動速度があったらやばそうだ。
「ぐあっ!?」
いきなり吹っ飛ばれた。また高速移動か。勘弁してくれよ。私がマオウペンギンにされて一番嫌だと思う攻撃は、この高速移動で攻撃を回避できない事だ。なんとなく反応ができそうな気になってきてはいるけれど、そんな簡単には動きが掴めるわけがない。
また薬草をむしゃむしゃしなきゃいけないのか。ん?あれ、でもこいつおかしいな。こいつも黒薔薇の型と同じようなことができるなら、高速移動をしながらやってくればいいのにってそれが出来ないって事か。
ってあ! そういえばいつの間にか分身たちが消えているじゃないか! あれ、どれだけ分身たち出ていたっけ。忘れちゃったな。あ、あー。そうだ。今度はこの人面樹達に手伝ってもらうか。
「はいはい! そこの二匹、ちょっと二匹くっついて!」
「お、おう。よし、こんな感じでいいか?」
「…おい、ちょっと近くねえか?」
「いいじゃねえか。俺たちやっぱり木が合うし!」
「冗談はいいからはよせんかー!」
というわけで、三人で背中合わせ作戦。人面樹達は、どうやら防御力が高いようなので、マオウペンギンの翼で攻撃されたり、水鉄砲やら真空波で攻撃されたりしても弾き返してしまうだろう。
というかこいつら本当に木なのか? そんな硬い木があるなんておかしいんじゃないだろうか。
「後は私がぶんぶん振り回せばいいだけか」
背後を狙われることがないので、正面と、あるいは上からの攻撃を警戒する。マオウペンギンに攻撃されたと思って反撃しても、一切当てられない。
こんなに攻撃が当たらないなんて初めてかもしれないな。私が戦ってきた敵の中での最速は、間違いなくこのマオウペンギンだな。
よし、集中だ。そんでもって、錬金術士の杖でもう一回時間凍結だ。そして、雷獣破で決める。
ブッチ達が来れないのなら、私がここでこいつを倒すしかない。この状況を打破するためにできる事は、こいつの動きを止めて、大ダメージを与えられる雷獣破を使うしかない。
恐らく雷獣破だけで決められるわけではないと思うが、マオウペンギンには苦戦しているような状況下なので、四の五の言ってられない。
今は、スキルを使うタイミングを見計らっている。これがなかなかきつい。マオウペンギンは私に一回攻撃をするたびに私のいるところから一気に離れる、いわば当てて逃げる作戦を実施している。私に攻撃が当たった瞬間に時間凍結をしたいのだが、そのタイミングに失敗するわけにはいかない。
もしもマオウペンギンが、私から離れた位置にいる時に時間凍結を使ってしまったら、移動をしなきゃいけない分、時間凍結を使用する時間が長くなってしまう。
時間凍結を長時間使うデメリットは、恐らく瀕死状態のようになって動けなくなるということ。それを避けるためには、マオウペンギンが私に最接近してきたときが望ましい。
つまり、私に攻撃を仕掛けた瞬間、更に言えば攻撃が当たる瞬間が理想だ。だけど、そんなことはできそうにない。このマオウペンギンの攻撃は本当に一切見えないからだ。
攻撃が当たっていないから近づいているだろうと時間凍結を使ってしまえば、実は遠くにいましたなんてことにもなりかねない。
ああ~もう面倒くさいな! 音ゲーのシビアな譜面を思い出したじゃないか。流れてくる音符などをタイミング良く押すあのゲーム。あれを完璧に押せるようになるのを練習しているかのような感じだ。現状はタイミングを外しているような感じなので、評価はBAD、すなわち悪いといったところだろうか。
タイミングが掴めてくれば、GREATとかそういう上の評価になるんだろうけれど、マオウペンギンが仕掛けてくる攻撃に合わせて時間凍結をするなら、そこまで完璧に出来るようにしたい。
「むしゃむしゃむしゃむしゃ!」
なんて狙いを定めていたらこれだよ! 薬草を大量消費することになってるよ! そんでもってマオウペンギンの奴、結局人面樹達は攻撃しなくなって、わたしばっかりどついてくるし! もうなんなんだよこいつぅ! 腹が立つなあ!
「えりゃっ! ほりゃっ!」
ねこます選手空振り三振! バッターアウト! って野球じゃないんだけれどさぁ。これは酷い。鎌で攻撃してみても空振りしかない。
なんだろうなぁ。今まで戦ってきた奴らは、ブッチですら癖とも言える様なものがあった気がするんだけれど、マオウペンギンにはそれが無いような気がするんだよね。
だから、いくら頑張っても攻撃が当たらないなんて感じがする。
「魔者、もうじき貴様は死を迎えるぞ。このまま我が攻撃を続ければ、貴様は為す術もなく死ぬのだ」
なんか偉そうな事言い出したぞこいつ。いや、また火薬草で防御してもいいんだけれど、それをやっていないって忘れたのか?
それをやったらまた真空波を撃ってくるので、ずっと不毛な戦いをすることになるだろうけれど。
「…?」
違和感がある。マオウペンギンと戦っている時の私は不調なのではないだろうか。これまでも敵の攻撃は必ず回避するなんてことはできなかったけれど、こいつの攻撃だけは回避できていない。
まさか、こいつの攻撃が必中になっている…? いや、待て待て待て、そういえばなんで思いつかなかったんだ私! ここはモンスターの国で、敵地じゃないか。だったら敵の方が有利な場所かもしれないじゃないか!
うわー迂闊だった! そうだよ! 私の能力とかが普段より落ちているというのが考えられたじゃないか! 敵地に入ったら動作が遅くなるとか魔法が使えなくなるなんてゲームを沢山やってきたと言うのに忘れていた!
マオウペンギンが何かやったわけじゃなくても、何か影響を受けているかもしれないぞ! これはまずい! こういうのをなんとかする方法ってないんだろうか。いや、そうか、だからこそここで試してみなきゃいけないのか!
「威圧! 邪気!」
威圧は周囲に私の圧力を与える、邪気はあまりよく分かっていないけれど、邪悪な力でこれも威圧みたいな効果があるのじゃないかと思われる。
これで牽制するというか、私が不調になっている効果を打ち消せる気がしてきた。絶対私は何かの影響を受けてるはずだよ!!
「!?」
「お?」
私は、何かが迫ってきているような感覚があったので、それから逃げるように動いた。するとその攻撃はどうやら人面樹の片割れに当たったようだ。
回避、できたな。回避ができた。なんか攻撃されているなって感覚が読めた。やっぱりそうだったのか。マオウペンギンはそれを分かっていたんだろうか。そう考えるとこいつは用意周到というか、考えながら戦っていたってことになるな。
やりにくいったらありゃしないな。でもこれで分かった! こいつは私が嫌がる事や私が苦しみ様な事をするのが大好きなんだ。
つまり、だ。私が嫌がるような事をしてくるはずだから、私がされたくないと思っていることほどやってくるんだろう。なら対策は簡単じゃないか! へっへっへ。分かってきたぞこいつの倒し方が。
「おりゃっ!」
「ぐおっ!?」
姿が見えなくなろうが、なんとなく位置が分かるようになったのは大きい。威圧と邪気のおかげでこいつの影響は受けない。最高だ。
「おいおい、マオウペンギンなんてそんなものか? そんな程度でこんなモンスターの国を治める魔王だなんて言ってたのか。おめでたいやつだな」
そして右肩あたりに違和感があったのでまたして、鎌で反撃した。
「!? なぜだっ!」
「さぁてね」
これだよこれぇ! なんかおかしかったんだよなー私! この感覚があるなら、こいつの攻撃を回避したり反撃したりすることができるぞ! はっはっは! やったぞ! この野郎! そんでもってこれからはこういう風に、知らない間に何者かの攻撃を受けているって思ったほうがいいかもしれないな。
今回みたいに不調になってしまったら溜まったもんじゃないし!
「ぐ、ぐぐぐ。魔者ああああああ!」
マオウペンギンの全身に黒い靄のようなものが集まってきた。
…あっ、これ攻撃するチャンスだな! なんか変身とかしそうだし攻撃しよっと!
いつの間にか状態異常にかかっていたなんてことが古いゲームではありました。
え!? そうだったの!? みたいになって困りました。