第446話「薬草と火薬草」
明日追記します。
2/16追記しました
突然、マオウペンギンの姿が一切見えなくなった。そして、それと同時に私の脇腹のあたりに衝撃が走ったので、攻撃を仕掛けてきているということが分かった。
超高速移動あるいは瞬間移動だろうか。それとも空間転移か隠遁系の能力なのか。
薬草を食べる。いくつも食べる。これでひたすら回復するしかない。食べている間も、マオウペンギンの攻撃が容赦なく襲い掛かってきた。
「分身」
初めてまともにこのスキルを使った。ネガティブータの指輪を装備してから使えるようになったスキルだ。予想していた事だけれど、私そっくりの分身を左右に2体作り出していた。私を含めると3人分になるけれど、これで的を増やすことにした。
面白い事に、私が薬草を食べていると分身も食べる。全く同じ動きをするので、これは便利だと思った。本体である私だけが薬草を食べていたらばれてしまうし困ると思っていただけにこれは良かった。
「んぐっ」
やはりどこからか攻撃をされている。くそう、本当に分からないな、見えない攻撃なんてよくあるパターンなので背後からいきなり攻撃されるとかあると思って警戒しているんだけれどそれがない。
じわじわと色々な場所に少しずつ攻撃を加えられているのがきつい。こういう時は一気にざっくりと攻撃を仕掛けてくる奴が多いってのに、こいつは堅実な戦い方だな。まるで私みたいだ。
そして分身にも攻撃をされているのが感覚で分かった。しかし、これまた面白い事に分身に傷がついた部分も私に傷跡がついている。え、これはダメージを受けてると思ったのだが、傷跡の部分を触ると傷が消えてしまった。これは、ダメージは受けていないって事になるな。良かった。
「…お前の攻撃は見切った」
だがこれははったりだ。これから見切るつもりだ。そのために取り出したのが、錬金術士の杖だ。手にもった瞬間に魔者の奴が話しかけてくるかなと思ったがそれは無かった。あいつ、こういう時こそ助言をくれればいいのに、肝心な時に役に立たないなあ。
時間凍結しかない。マオウペンギンが高速で移動しているのならば、時間を凍結すれば、動きが止まるので姿を確認できるはずだ。
姿自体を消しているのであれば、全く見えないままになるはずなので、切り分けはできる。というわけで早速時間凍結をしようと思うのだが、毎度のことながら使うタイミングが重要だ。
ドラゴンフルーツをそこそこ食べたとはいえ、時間凍結だって消耗が大きいはずだ。だから極力使いたくはない。が、ここは使わざるを得ない。よし、やるか。
「時間凍結」
そして世界が凍りついた。何もかもが、動かなくなった世界。そこで私は見た。私の分身に攻撃を仕掛けていたマオウペンギンを。それを確認した瞬間、すぐさま時間凍結を解除した。
ふぅ。一瞬というか1秒くらいか? その程度使っただけなのに、なんだかやたら消耗したような気がするな。
マオウペンギンは高速移動で攻撃を仕掛けている。ペンギンの癖に空を自由自在に飛んでその翼で私を斬り裂いている。これが分かっただけ。そう、別に対策ができるようになったわけじゃない。どういう攻撃をされているのかがまだ判明しただけだ。
ここからどうするのかを考えなきゃいけないが、まずは薬草、薬草だ。ひたすら食べ続ける。攻撃され続けても回復し続ければ敗北する事はないのだ。私には大量の薬草があるのだ! こんな軽い攻撃を続けられただけなら、負けるわけがない!
「…!」
錬金術士の杖はしまい、鎌に持ち替えた。そろそろ攻撃を仕掛けることができそうな気がしている。分身を私の近くに集めて、三人背中合わせになるようにした。
まずは、鎌をぶんぶん振り回すことにした。ひたすら振り回して当たれば良しという考えだ。背後から攻撃されることはないが、頭上から攻撃を仕掛けられることはありえるだろう。なので一応上からの攻撃にも注意する。
地面からの攻撃は…今のところはまだ考えなくていいか。それよりも、まずは攻撃を当てたい。
「…その攻撃をいつまで続けられるんだろうな?」
挑発する。マオウペンギンのこの攻撃方法は、これからずっと続けられるものじゃないと判断したからだ。こんなほぼ不可視の攻撃ができるなら最初からやればよかったのにしなかった。ということは消耗が激しくて連発し続けることが難しい気がする。
勿論、これがただの通常攻撃であることも考えられるので、こんな挑発は意味がないのだろうけれど、私はこのタイミングでやっておくべきことだと思った。
私が鎌で振り回す攻撃は、当たらず、マオウペンギンにはダメージを与えられない。マオウペンギンはが高速移動して翼で斬り裂く攻撃は威力が低いため、私は薬草で簡単に回復できる。
マオウペンギンのスタミナはどこまでなのか分からない。この攻撃をずっとし続けられるのか。私の持っている薬草は大量にある。その数は今現在で150万を超えている。ほぼ無尽蔵に回復し続けることができる。
そこで、だ。薬草がある、ということは、当然、火薬草だって大量にあるって事なんだよおお!
「さぁて、根性比べだマオウペンギン」
私は、火薬草を私の周囲にばらまいていく。そして、私の着ているジャージの中だとかジャケットの中にも詰め込んでいく。更に私は薬草を大量に口に含んだ。
すぐさま、爆発音が鳴り響いた。マオウペンギンから翼で攻撃されたことで私の体に仕込まれた火薬草が爆発したからだ。更に、周囲の火薬草も誘爆する。
私の体に衝撃が走る。それと同時に、マオウペンギンの姿を確認する事ができた。
「ごくっ。まふぁまふぁ!」
薬草を食べる。食べ続けないと火薬草の自爆ダメージで死んでしまう。ひたすら食べ続け、火薬草を仕込み続ける。
自爆大作戦だ。私はダメージを負うが回復する事ができる。マオウペンギンはダメージだけ蓄積されていく。さっきからこいつがやってきたことをやり返しているようなものだ。その攻撃を続ける限り、お前はじわじわと削られていくんだぞという分かりやすい話だ。
「もふぁもふぁ」
マオウペンギンが翼で斬り裂いてくるダメージだってある。急いで食べなきゃ私の方が先に死ぬかもしれない。だからこれは本当に必死になってやっている。こんなの馬鹿げた作戦だと思われるだろうが、できることなら何だってやるというのがゲーマーなんだよね。
勝つためにどうしたらいいのか、考えた結果これが最良の選択だと今回は判断した。だってこっちはほぼ無限に回復できるんだし! ふはは! 即死攻撃以外は怖くないぞ!
「貴様、そんな戦い方で我に勝てると思っているのか?」
思っている。ジリ貧ってわけじゃないし、な。ふふふ。私の方が今は上回っているんだよ! マオウペンギン! お前はそのうちあの世に行くぞ!
といっても、マオウペンギンなのだから、それこそ体力なんてかなりのものだろう。こうなってくると厄介なのがログイン時間の制限だ。私の健康状態が悪いと判断されたら即座に強制的にログアウトされてしまうので、時間切れで敗北してしまう。
あぁー長期戦がやりたいのになあ。こう、何日間もじっくりかけて戦ってみたいっていうのがあるんだよね。でも、それができないもどかしさを感じる。
まぁ、私も仕事があるし、そんなにずっとこのゲームをし続けていられるわけじゃないから無理なんだけれど。現状仕事を辞めるつもりなんて一切ないしっていかんいかん。今はこのゲームに集中しないといけないな。
…ん? 攻撃が止まった? そう思っていたら、マオウペンギンが姿を現しており、真空波を放ってきた。やばい! これは!
「加速!」
咄嗟にカブトスピアーを取り出して加速を使ってその場からいっきに離れた位置まで移動した。私が元々いた位置には、ばらまかれていたいくつもの火薬草が爆発した。
あっぶないなー! くそう、攻撃を切り替えてきたか! まぁやるとは思っていたけれど、すぐさま切り替えるとは思わなかったな。自爆作戦なんて私の方が不利なんだから、もうちょっと付き合ってくれても良かったじゃないか。
「んぐっ!」
そんなことを思っていたら、またしてもマオウペンギンの不可視の攻撃がきた。体に仕込んでいた火薬草が爆発したので薬草を食べるが、これまたやっぱりまずい状況だ。
私の体全体に仕込んだり周囲にばらまいたりすることで効果的だった自爆作戦だけれど、マオウペンギンが姿を現して遠くから真空波を撃ってきたら、私だけがダメージを受ける。かといって火薬草を仕込まなければ、やっぱり私だけがダメージを受ける。こいつふざけるなよ! こうなったらなぁ。
ひじき! 待たせたけれどここから出番になるよ。
(母上、私はどうすればよいのですか?)
ひじき、私の今持っている全魔力を使えば、一本の大きな木を作り出すことはできる?
(できますが、そんなことでいいんですか? それだけなら何本もできますが)
おおっ、なら三本ほど、頑丈な木を頼むよ!
「というわけでひじき召喚!」
「ブラック・ツリー!」
速攻で魔法を使ってもらう事にした。というか私ってばひじきが使える魔法とかそういうのを全然把握していないんだな。これは駄目だ。今後何ができるのかじっくり聞かないと。まぁでもなぜから知らないけれど、なんとなくこういうことができそうって言うのはあったんだよね。
「って。え? あ? んん?」
「お? お!? おおおおおお!? あ、主じゃねえですかい!!」
「おひさじゃないっすかああ!」
「お、お前ら懐かしの人面樹!? でも体がすごい真っ黒というかなんでここに!?」
私が召喚したひじきが今度は人面樹を召喚したっていうのか? この二匹の人面樹、たけのこ森に放ってからその後行方不明になってしまったのだが、まさかこんなところで再会するとはってそんな場合じゃないし!
「こまけぇこたぁあとにしましょうぜ!」
「主! このペンギン野郎をぼこっちまえばいいんですよね!」
「いや、むしろ私の壁になって! ここで一旦壁になって!」
(は、母上。攻撃の手段として彼らを使うと言うわけではなかったのですか?)
いや、攻撃もできるならいいんだけれど、まさかこいつらがくるとは思わなかったよ! というかすごいね!? 魔者の大陸にいた奴らをこっちに呼び出せるなんて!
(え、ええ。彼らは私と契約しましたので…)
一体いつの間に、ということはこの際置いといて、マオウペンギンが迫ってきているんだけれど
「なんだその静寂な木は、ふんっ!」
「あ?」
そこで驚くべきことが発覚した。人面樹達は真空波をもろにくらったにもかかわらず、一切傷がついていなかった。なんだあこいつら? パワーアップして帰ってきたのか!
「おいおい、俺らはもっと恐ろしい事を経験してきたんだぜ。この程度の刃が通ると思っていやがるのか!」
「そうだぜ。この程度の攻撃なんてこたぁねえ!」
な、なんか頼りになりそうな二匹になって戻ってきたみたいだけれど、どうなるんだ!?
自爆作戦って強いと思っています。