第444話「魔王マオウペンギン」
2/14追記しました!
ペンギンといえば、南極にいるイメージが強いけれど、このモンスターの国は寒いわけでも暖かいわけでもない。だけど、こんなところで魔王をしているというのがマオウペンギンということに違和感がある。
クロウニン達は全員魔者を嫌っているようだが、このマオウペンギンにしてみても、魔者に好き勝手な事をされた結果、こんな場所にいることになってしまったとかいうのかもしれないな。だからといって同情なんてするわけはないけれど。
だけど、私も魔者という存在には腹が立ってくるというのはよく分かる。私も勝手に魔者にされたわけだし。なんなんだろうな魔者って奴は。人が嫌がるところを楽しむクズってことなんだろうか。そうとしか思えないな。
まぁそのあたりはマオウペンギンを倒した後で錬金術士の杖にでも聞いてみるとするか。
「どうしたマオウペンギン! さっさとかかってこい!」
「もういるぞ」
「なっ!?」
気が付くと、マオウペンギンは私の真横にいた。そして、真横にいながらもダブル隕石拳と全く同じ速度で移動しているようだった。あ、これ詰んだんじゃないか私。
「…。」
だけど、ただじっとこちらを見てくるだけだった。なんだ? 何をしようとしているんだこいつ。
「な、なんだよ。何か言いたいことがあるなら言えよ!」
「貴様、本当に魔者、なのか?」
は? 何故私が魔者だと疑問形なんだ。私が今現在、魔者になっているってことをこいつは知っているだろう。それとも何だ。こいつが知っていた魔者と別な魔者だってことに気が付いたのか?
「さぁ。どうなんだろうね。私は、無理矢理魔者にさせられたといってもいいんだけれどね。なんてこんな話をしていていいのか? 私を殺すんじゃなかったのか」
空を飛び、私の真横にいてじっと見つめてくる。なんなんだよこいつ。何がしたいんだ。私の話を信じるとでも言うのか?
「まさか…。まさか貴様が、魔者の求めたものだというのか?」
これにはイラッとした。思わせぶりな発言をされるのが大嫌いなんだよなー私。何が魔者の求めたものだ。魔者は自分で出来なかったことを私に押し付けようとしたってことなのか? ふざけるなよ! 面倒くさい事を押し付けて! おかげさまで私はこのゲームで余計なしがらみが発生してしまったじゃないか! どうしてくれる!
「おい、私はそっちの話は何も知らないぞ。戦うのか、戦わないのかはっきりしろ」
「何。その前にクロウニンの話を聞かせてやろう。我らの事を思い出させてやろう」
「はあ?」
思い出すも何も私にはそんなこと知ったこっちゃないんだけどなあ。こんな戦場で敵同士ぺちゃくちゃ話している今の状態も嫌になってくるし、身の上話を聞かされるのも嫌なんだけれどってこいつそう言っても話すつもりだな。嫌だなー。
「魔者は、瀕死の我らを復活させて自分の手下にしたのだ」
うわ、話し始めたよ。長くなりそうだなあ。というかいいのかこいつ。今もこうして自分の国の連中が私の隕石拳で押し潰されていってるのに。
「いや、別に身の上話なんか聞きたくないので、さっさと戦うかどうかを決めろよ」
あぁぁー! 私は過去編とかそういうのが嫌いな方なので、そんなくだらないことどうでもいいからさっさと先に進もうって思うんだけれど、こいつこのままだと話しそうだなあ。
「我らクロウニンは元々死ぬ運命だったのだ。それを魔者が復活させた。新たな生命体としてな。しかし、それから魔者は、我々を奴隷のように扱いだしたのだ」
こういう話を聞いて私は何とも思わないんだよな。どうせ他人事というか、当事者じゃないしそんなこと聞いてもどうしようもないしってなるし。まだ身内の事だったら感情的にはなれるんだけれど、こいつは身内でも何でもないからなあ。
嫌だなあ、くだらない話を聞きたくないのに、長くなりそうだ。
「我らは当初、命を救われたことに感謝し、魔者の為に誠心誠意尽くした。だが、魔者は我等を徹底的に己の労働力として働かせた。一時も休まる事は無かった。そして発覚したことだ」
どうせ、命を救ったのが魔者だったけれど、瀕死に追い込んだのも魔者だったとかいうオチだろう。つまり、自作自演だろう。
でもそれが発覚したってことは、魔者が自らばらしたからばれるようにしたってことも考えられるよな。
「魔者が、ふとある時、酔った勢いで我らの事を話し始めたのだ。最初は疑ったが、奴はその時の状況を再現した立体映像なるものを我らに見せた。そして我らは、反旗を翻した」
嘘かもしれないよなあそれ。魔者がこいつらに怒りという感情を与えたかったとか自分に反抗するようにさせたとか言うのかもしれないし。何か狙いがあったような気がするなあ。
「貴様は、そんな魔者ではないな。魔者であるが我々が知っている魔者ではない。が、そうだと誤認識するようになっている…? 魔者の事を考えようとすると、記憶が、おかしくなる? 貴様は、魔者? いや、何者なんだ?」
あ、記憶が混乱してきているな。正確に思い出そうとするとそういう風になるよう仕組まれていたって事かな。
それにしても、普通に考えたらこいつの話したことが全て嘘だって思うんだよなー私は。油断させるためにこうやってぺらぺら喋っていただけな気がするし。
敵が話しかけて来たら一切信じるなって言うのが私にとって基本だ。なぜそんなことを思うのかと言うと、実は全部嘘でしたなんてことがゲームではよくあったから。
物語の最後で嘘が発覚したとかどんでん返しがあった。それまで信じていたものが一瞬にして瓦解したときは、うわ、もう何も信じられないとまでなったものだったなあ。
自分の故郷に帰るために協力して欲しいとか、皆の為になることを一生懸命頑張りたいとか人の善意に付け込んでくる奴とかもかなりいたっけなあ。ふふふ。私を騙せると思うなよ。
見た目が可愛らしいモンスターだと思って近づいて即死したことがあるんだからなあ! 私は騙されんぞ!
「私は別な魔者だ。そこんところいいか?」
マオウペンギンはどういう反応をするんだろうか。私を別な魔者と認識できるんだろうか。そこが気になったのできっちり問いただすことにした。
「貴様が、別な魔者? 魔者、魔者。我は、魔者の為に尽くし、魔者の命に従い、しかし我は魔者に騙されて、いや…。貴様は、魔者。我は貴様を殺す」
結局そういうオチがつくんだったら、最初から攻撃してくれば良かっただろうに。ん? なんだ。気配感知でこいつの感知がとてつもなく大きく出てくるな。
「…で、どうすんの? 私は今この隕石拳になってるから、私本体に攻撃するのか?」
そうだったらその時点でゲームオーバーだな。私は死ぬしかない。まぁそうならない気がしているけれど。さっさと私に攻撃をすればいいのに、マオウペンギンは攻撃を仕掛けてこない。
「魔者を? お前は、楽に死ねると思っているのか? お前は地獄の苦しみを与えてから殺すぞ。お前が憎い。お前は我を愚弄した。我らの命を弄んだ。我らがどれだけ絶望したのか。それを思い知れ」
マオウペンギンの目が真っ赤に光った。そして、全身が漆黒の闇に包まれていく。ついに本気になったってことは分かるんだけれど、なんだろう。いまいち強そうに見えないのはなぜなんだろうか。もしかして、まだ本気ではないみたいな感じなのか…ん!? えっ!?
「ぐぅううう!?」
気づけば私の隕石拳が、真っ二つに割れていた。そして、私の腕から手まであった隕石拳の部分は消滅し、私はそのまま地面に落下していく。まさか、マオウペンギンがあのペンギンの翼みたいな部分で隕石拳をぶった斬るとは思えなかった。
まぁこのくらいはやるかってなわけで、なんとか生き永らえることができたので、私はすぐさま鎌を取り出した。
「真空波!」
これで落下の勢いを減らす。まぁ確実に減らせるわけではなかったけれど、そのままだと激突必至だったので、使わざるを得なかった。
「おいっしょっとおお! というわけで!」
眼前にはマオウペンギンがそびえ立っていた。でかいなー。身長5メートルくらいないか? こんなでかいペンギンがいていいのか。
「グェア!」
マオウペンギンの威勢のいい声が聞こえてきた。攻撃を仕掛けてきたようだ。って見えないっての! 私は咄嗟に鎌で防御態勢を取りつつ、頭を下げた。
「っぶな! おりゃっ!」
当然、黒薔薇の型を発動させている。ダブル隕石拳を使った後だと言うのに動けるのは、私のレベルが上がっているからなのかは分からないが、なんとか戦えそうだった。
「ヌン!」
私の攻撃は、マオウペンギンの翼で簡単に防がれてしまった。これ、本気で鎌を振るっているから次元を斬り裂いたときと同じくらいの威力があるはずなんだけれど、私が弱体化しているか、それともこいつが強いかのどっちかだ。
「魔者、貴様その程度か。冗談はよせ」
「嫌だ」
別に冗談でやっているわけでもないけれど、冗談とか言われたらそれを止める気はない。こいつが今の私よりも格上だったとしても、私はやれる戦い方をするだけだし。
まぁ、もしかすると、今丁度ドラゴンフルーツを左手でむしゃむしゃ食いながら攻撃を仕掛けてみたところが冗談だと思われたのかもしれないなー。でも、ダブル隕石拳なんて、とんでもないスキルを使っちゃったことだし、回復しないといけないしな。
「では、冗談を止めさせてやろう! グアッ!」
「うぉ!」
口から水鉄砲というか激流というかなんかすごいもんを吐いてきたな。危うく顔に当たるところだったけれど、すんでのところで回避した。
かなりの速さで飛んできた。で! そんな事考えていたら連発してきている! ふざけんなこいつ! こっちがドラゴンフルーツを食べているってのに邪魔をするな! ええい! 回避だ回避! 食べながらひたすら回避! 回復回復! ってうおおお!? なんか周りから他のモンスター達も寄ってきている!?
「貴様ら、下がれ。これは我と魔者の対決だ。貴様ら如きが邪魔をするなど万死に値するぞ」
「お前ら、上がれ。むしゃむしゃ。これはこのバカとの戦いだけじゃないから、かかってこい」
「黙れ魔者!!!」
「黙れペンギン風情が魔王なんてむしゃむしゃ名乗ってんじゃねえ!」
あーずっと言いたかった事をやっと言えた。ペンギンが魔王って、ねえ? なんか気力が抜けちゃうんだよな!