第439話「山姥との会話」
「さて、軽い運動は終わったことだし、そろそろ本題に入ろうか」
久々に草刈りが出来たことでご満悦な私だった。一方、山姥は息を切らして疲れ果てていたようだ。この山姥体力低すぎじゃないのか? だいこんなんて私を乗せてずっと動き回り続けても平然としているというのに。年寄りだといのは分かるが、こんなんで邪馬台国に喧嘩を吹っ掛けていたのかと思うと、ただ耄碌していただけにしか見えない。
「ひぃ、ひぃ、こ、これが軽い運動?」
「ん?」
「お、お前さんはこれをいつもやっていると?」
「そうだよ。まぁ最近はサボっていたけれどね。これが出来ないとむしろストレスが溜まるね」
だから、いつかは人間の大陸と魔者の大陸間も移動できる転移石が欲しい。それがあればここにいつでも帰ってきて草刈りができる。だけど仮にそんな転移石があっても、私限定で使える様な代物じゃないと駄目だな。
私以外の人が使えるようになってしまったら、魔者の大陸の事がどんどん知れ渡ってしまうし。
「そうかい。お前さんの力の秘密がここにあったということだね」
「まぁそれはそうかもしれないけれど、そういう世間話は置いといて、だ」
話が脱線するのはよくあるけれど、長すぎてよくないのだ。
「モンスターの国って知ってるか?」
「…なんだい、あそこに攻め入ろうって考えていたのかい」
「マオウペンギンに狙われているんだよ」
「クロウニンの一人じゃないか。ふむ、最弱のマオウペンギンかい」
最弱? あいつが最弱だって? そんなことありえるのか。戦闘能力は一度まみえた時、そんなに弱いとは思えなかった。あれは見掛け倒しというか絶好調だったとか。うーん、それもない気がするな。 どこが最弱だ。ふざけるな。
「最弱ってどうして分かるの?」
「確か自称していたはずだよ。最弱のクロウニンって。」
そう言って油断させる作戦としか考えられないな。どうもあのペンギンは、そういう小賢しいというかはっきり言うと陰湿さを感じさせるような気がしてくるなあ。
「そうか。そのマオウペンギンに唐突に襲われたからな。そんでもってこれから私に襲い掛かってくるって言うのもあるから、やられる前にやるという考えだよ」
「それであの森にいたってことかい。だけど、モンスターの国はそう簡単には入れないよ。」
「だから、どうやったら行けるのかを教えて欲しいんだよ。他にも知りたいことは山ほどあるけどね」
他にもと付け加えたのには理由がある。ここでモンスターの国に行きたいだけでこの山姥を捕らえたということにしてしまうと、この後始末されるんじゃないかと思わせることになりそうだ。
そういう事にならないためにも、まだお前に利用価値はあるんだと言う意味合いを持たせておくのだ。ふっふっふ。私にしては、なかなか良くできた考えじゃないだろうか。
「魔王に忠誠を誓う。あの森の北部でこう願い、叫べば簡単に入れるようになる。が、お前さんは忠誠を誓うつもりじゃないんだろう」
「勿論」
願い叫べば、ねえ。それが誓約になって魔王に永久に支配され続けるみたいなことになってしまうのか。最初にこの山姥は簡単に入れないなんて言ってたってことだし。簡単だけれど簡単じゃない。つまりそういうことか。
だけど、全員が本当に忠誠を誓っているのだろうか。そのあたりがよく分からないな。
「忠誠を誓わなくてもいい方法は?」
「私が言った事が理解できているようだね。それもそれで簡単だ。魔王に支配されている奴や、魔王に関わっている者なんかを倒せば、その資格が得られるようでモンスターの国に入れるはずだ」
「んー。それはおかしいな。私はスタンピード。あぁ、モンスターが大量に発生した日の事だな。その時に沢山モンスターを倒したはずなので、自分で言うのもなんだけれど資格はあると思う」
あれだけ倒したのに全然駄目なのはおかしくないだろうか。うん、おかしい。それとも何だ。まさか、私が魔者だから国へ入れる資格なんてやらんってことなんだろうか。
「お前さん、マオウペンギンと敵対しているんだろう? それならどこの誰が国に入れてやるっていうのさ。」
やっぱりそうなのか! ん? それだと何だ。ブッチだったらさっさと入れたって事になるのかな。だけど阿修羅と戦って北に進んでいた時も駄目だったじゃないか。あっ! つまりこれもあれか。私が一緒にいたから、そんな危険な奴も入れる資格などないって判断されたのか!?
なんだよもう! モンスターの国は入国審査厳し過ぎだろう! そんなにしっかりとしているなんて卑怯だよ! さっさと私を国の中に入れてくれよ! 入国拒否なんてしているんじゃねえ!
「ふざけている。私は詰んでいたんじゃないか!」
弱いモンスターは忠誠を使えば通す。強いモンスターは力を示せば通す。魔者は通さない。そういうことか! あのペンギン野郎! ふざけんじゃない!
「お、おいおい。ここで殺気立つのはよしてくれよ。」
「ああ…。」
冷静さを欠いてしまったがしょうがないだろう。私だけのけ者にしているということだろう。うぅ。これは嫌になってくるなあ。まぁブッチがこれまで人間の国に入れなかったというか入る資格すらなかったのと同じ話になるわけだけれど。
今回は私が入れないってことか。はぁ。じゃあ私が攻め込むことはできないってことになるなあ。マオウペンギンはもうブッチにお任せするしかない気がしてきた。
ブッチもやっとナテハ王国に入れるようになったわけだけれど、今日は、この間渡したあの変身セットとは別な変身セットでナテハ王国に入って貰う事にした。
やっと自分も国の中に入れるって喜んでいたっけ。道案内としてエリーちゃんには入って貰っていたので私は他の皆と一緒にここにいるんだけれど。
だいこん以外のみんなは、私が山姥に草刈りを教えてやると言ったら、邪魔になったら悪いと言ってたので少し離れたところや、その辺を散歩したりしている。
「私は入れないってのが残念だなあ」
「いや、入れる方法はあるよ」
「勿体つけないで早く教えろよ! 全くもう! 私は知っていたよ山姥! さぁ、どうすればいいんだい!?」
「その鎌…。アノマスの鎌、じゃないのかい?」
「良く知っているな。そうだ、これがあの有名なアノマスの鎌だ」
どっからどう見ても普通の鎌にしか見えないんだけれど、阿修羅も山姥も言うのだったらそうなんだろうなきっと。ただの鎌だと思うのになあ。大袈裟じゃないかこいつら。
「それをあの森の北部まで行き、全力で振るえば、空間すら斬り裂いて、モンスターの国への道が開けるはずだよ」
「ほほう」
強引にこじ開けるってことじゃないか。うーん。つまり強引に入ろうと思えば行けるってことかぁ。だけど本来入れないはずの場所を無理矢理こじ開けたら、絶対警戒されるし、私が入ったら、魔者が攻め込んできたとかいう話になってくるに違いないな。
となると、やっぱりブッチやエリーちゃん達にでも入って貰ったほうが良さそうだなあ。私は今回留守番ってことになってもいいし。
だって、私が入ったら最悪の場合、モンスターの国にいるモンスター全部と戦うことになるってことだろうし。そんな奴らと戦って勝つなんて無理だし。
「無理じゃん」
「なんだい。お前さんなら片っ端からモンスター達をあの世送りにするくらいやれるんだろう?」
「どれだけの数がいるのか分からないし、何の情報もないまま敵地に入り込むなんて馬鹿な事をするわけないよ」
無茶を通り越して無謀と言う。死ぬのを恐れて石橋を叩いて渡るようなゲームプレイスタイルをしているような私がそんなことをやるわけなかろう。
まぁ、これはこのゲームをやっている時にやり方なだけで、リアルタイムアタック、通称RTAのようなやり方をやる事だってあるよ。
死んだら終了となるかどうかは分からないけれど、失うものが多いかもしれない状況で闇雲に突っ込むようなやり方をするのは良くない。
「あー。でも待てよ?」
今のこの状態の通り、変装していけばいいんじゃないだろうか。山姥を相手にしてからずっと元の姿に戻ってはいないけれど。うーむ。いや駄目か。私が魔者だってことはクロウニン達が分かっているので、きっと魔者と認識されて襲い掛かられる。それは駄目だな。
「やっぱり駄目だ。はぁ、マオウペンギンだけさっさと始末したいんだけどなあ」
「お前さん。強気なのか弱気なのかよく分からない奴だねえ。魔王を始末なんてそんな大層な事を言いながらそんなことを言うのもおかしいよ」
山姥がため息をしながらこちらを凝視してきた。ええい、一匹や二匹程度のモンスターだったらなんとかなるって話に決まっているじゃないか。
もしも、モンスターが何万匹とか何十万匹もいたら、数の暴力で負けてしまうっての。圧倒的な数を相手に勝てるわけがないだろう。そんな甘い考えじゃ人生やっていけない。
「それじゃあ諦めるのかい」
「私は見送るかな。となると他のクロウニンが先か。あ、そういえば邪馬台国だとタイショウイカとか言うのが襲い掛かってきているような話をしていたっけ。どうなの?」
「…」
「急に黙るなよ。お前タイショウイカの部下だと勘繰っちゃったし多分そうなんだろ」
「さて、どうだろうね。私は単に邪馬台国が憎いってのがあるだけかもしれないよ」
「そういうのいいから。私はクロウニンを全員倒す。なんでかというと私を倒そうとするような心が植え付けられているみたいだからね。だから私の身の安全のためには倒す」
「お前さんがここにずっといれば大丈夫なんじゃないかい?」
「私はここが好きだけれど、ずっとここにいるなんてまるで閉じ込められたかのようじゃないか。それは嫌だし、自由を束縛されるのは腹が立つ」
行きたいところに行けないのは嫌だ。だったらそれが出来るようになる障害はとっぱらってしまわないといけない。
例えばモンスターの国は魔者だけ通さないとかなんだそのバリアは。世の中はバリアフリーなんだよ。そんなんでこの先モンスターの国が反映すると思っているのか。
「まぁ最悪別な方法があるなあとは思っていたんだけれどね」
「ん? それは何だい」
「向こうでただ待っていればいい。そうすれば自然とクロウニン達がやってくる。それがどのタイミングなのか分からないのが嫌なんだけどね」
そのうち、マオウペンギンは発狂して私に襲い掛かってくると思われるんだけれど、その時期が分からないし。グローリーアントなんか魔者死ねみたいなノリが強かったもんなあ。
もしかすると、マオウペンギンもあんな感じでひたすら私を倒そうとおかしくなってしまうのかもしれないな。
「うーん。どうするかなぁー。暇だし邪馬台国でも滅ぼしに行くか?」
「さっきモンスターの国を相手にするなんて無理なんて言ってた癖にそれを言うのかい!?」
「情報収集しに行くとかねえ。というかクロウニンの誰でもいいから始末したいよぉ! 私に襲い掛かってくる連中はみんな死刑にしてやりたーい! あの世に送ってやりたーい! 私の身の安全を確保したい!」
というのが私の本音なのだが、山姥の奴呆れた顔をしているな。全く、私がいつもどれだけ苦しんでいるのか分からないのか。
「で、結局どうするってんだい?」
「山姥。お前、タイショウイカを裏切って私の仲間になれよ!」
という事を告げたら、怪訝な顔をされた。なぜだ。
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ちなみに今回は某有名なRPGに出てくるものを参考にしました。