第437話「魔者と山姥」
明日追記します
2/3追記しました
「で、私の目的は、自分の身の安心保障なんだ。分かる?」
「…何でお前は巨大な力を持っている癖に、そんなに臆病者なんだ!? お前は強い癖に何に怯えているんだ?」
変な誤解をしている山姥だった。どうもこいつは、魔者がやばいものだと認識してしまっているようだ。魔者なんかというか、この場合は私なんかに恐れをなす必要なんて一切ないのになあ。それともなんだ、ここまで巨大な力がどうのこうの言うのは、魔者に親兄弟でも殺されたりしたんだろうか。それなら流石に酷すぎると思うし納得はいくんだけれど。
「あのー、山姥さん。こちらのねこますさんはですねえ、本当にそういう邪悪なことはなくて、どちらかというと、臆病系なのほうですよ」
というエリーちゃんのフォローが入るのだけれど、臆病系って言うのもなんか違うんじゃないだろうか。確かに死にたくない余りに一歩引いたりすることは多いけれど、だってそれはしょうがないじゃないか!
「信じられん。あの魔者がそんなことになるなどと。あの鬼畜、残忍、冷徹、極悪、などのイメージしかない魔者が。私を騙そうとしているのかい?」
イメージが悪すぎるぅ。この世界のみんなが私に恨みを持ちすぎて困るぅ! なんでこうなっているんだぁ! 酷すぎる!
「いや待て、それは間違ったイメージだ。私は自分の身に降りかかってくる火の粉は払うけれど、特に酷いことを率先してやろうなんて思っていない」
ブッチが口を押えて笑いを堪えようとしているのがわざとらしくて腹が立ったけれど、そこは無視する事にした。
「山姥。これは大事な事だからよく聞け。私はお前が知っている魔者ではないよ」
この言い方であっているのかどうかは分からないし、これで理解してもらえるとは思わないけれど、説明はしてみないことにはどういう反応になるのかも分からないので、まずは聞いてみる事にした。
「魔者じゃないだって? それはどういう意味だい? どこからどう見ても魔者じゃないか」
「お前が知っている魔者って言うのは、先代の魔者ってことになる。本当に先代なのかどうかは分からないけれどね。」
ここで私が別な魔者だとかいう説明をしてあげればいいんだけれど、私が魔者であるという事をはっきりと明言したくないのでここはその表現を避けないといけなかった。
こいつは既に私が魔者だと認識しているとはいえ、認めてしまえば周りもそうなんだと認識することになりかねないので、仲間でもないこいつには本当の事は伝えないでおく事にした。
「つまりなんだ。お前は魔者じゃないと言い張るつもりなんだね?」
「だからそうだって言ってるんだよ。で、なんでお前は勝手に私を魔者なんて断定できているんだ?」
「…お前の気配はあまりに不気味だからね。察知できる奴は簡単に見破るよ」
「プッ。不気味って」
「はいそこ黙って!」
気配が不気味とか初めて言われたよ!? そもそも気配って言うのがよく分からないものだけれどそれが不気味だから分かるってどういうことだよ。魔者という称号を与えられたらそういう気配が駄々洩れしちゃうってことなんだろうか。嫌すぎる!
「私の気配がそんなに不気味だと?」
「そりゃあね。何をしでかすか分からない変幻自在の気配がしてくるのさ。その気配に当てられた奴は心が落ち着かなくなる。私だってそうさ」
なんだかなぁ、阿修羅が道化なんて言ってきたのもあながち間違いではなかったってことなんだろうか。それにしても、魔者ってろくでもない奴なのか、それとも実はいい奴なのかもよく分かっていないんだよなあ。
クロウニンやらこの山姥が魔者を批判しているけれどサンショウは尊敬しているみたいだし、一体何が真実なのか分からなくなってくるよなあ。
こりゃあいよいよ本格的に錬金術士の杖にいると思われる先代の魔者と語り合わないといけないな。もうクロウニンは二匹倒したし、私も力をつけてきているのだから、そろそろ魔者とは何者であって何をするべきなのかってところを明確にしたい。
目的がよく分からないまま、ふらふらするのも、終わりの見えないオンラインゲームでは面白さの一つだと思うけれど、一応、一区切り入れられるような目的は達成しておきたい。
「まぁそういう気配が発せられるって言うんだったら私の事を誤認するって言うのは分かるけれど、私は本当に違うんだよ。お前ならもしかしたら分かるかもしれないけれど、私は、押し付けられただけの存在なんだ」
魔者の称号を与えられただけの不運があったというだけ。ある意味ではこの魔者というものが何なのかを探し求めていくことこそ、私がこのゲームをプレイしている最大の目的ってことになるのかな。だけど、まだ何もかも分からないことだらけだしなあ。
「…押し付けられた? お前、まさか濡れ衣を着せられたとでもいうのかい!?」
「そうなんだよ! 私は何かをやったわけではないんだけれど、私が色んな事をやってことにされてしまって迷惑しているんだよ! なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだってねえ!」
魔者じゃなかったら、クロウニンと戦う必要が無かったし、このゲーム内で薬草集めて人間の大陸をだらだら冒険するようなものになっていただろうな。それはそれでつまらないことになっていかもしれないけれど、こうしていつもどこかからか狙われているかもしれないなんて疑心暗鬼にならずに済んだかもしれないよなあ。
「姉御、それはもう運命やで。しょうがないんやで」
白蛇であるだいこんが小さくなり、私の肩に乗ってぼそぼそと言った。運命? そんなロマンチストじゃないぞ私は。
「ん…? ん!? な、な、お前は白蛇!? なんでこんなところに!?」
「ん? なんでワイの方をみて震えとるんやばーちゃん」
ばーちゃんじゃなくて山姥だというのに、なにがばーちゃんだ。そういうところからこの山姥と仲良くなろうとしているのだろうか。斬新だなあ。
「だいこんを見てどうしたんだ? さっさとどういうことなのか話せ」
わざとらしいリアクションに不満を覚えたのと、こういう勿体つけている奴も嫌いなので、さっさと
「白蛇、凄まじい魔力を秘めた伝説のモンスターじゃないか! まさかこの目で見ることができるなんて思わなかったよ!」
…だいこんってやっぱりレアモンスターだったのか。そんな感じは全然しないのになあ。
「このやり取りはもう終わりにするとして、それで、山姥、本題だ。いつから魔者ってのは存在していたんだ?」
そう、一体いつの時代から魔者というものがこれまでに続いてきているのかということが知りたかった。このゲームは現実と時の流れは完全に一致しているわけではないのだけれど、魔者って古い時代からいたみたいなので、それが凄い知りたい。
「…大昔からとしか言いようがないね。数百年前、あるいは千年前には既にいたのか。魔者ってのはいかしにて出てきたのかもよく分かってないから、魔者がいつからいたのかは本当に分からないね」
神出鬼没ってことか。参ったなあ。初代魔者とも言えるべき奴がいればそこを詳しく聞けるのかもしれないけれど、どうせ出会えても肉体が滅んでいて魂だけになっているってところだろうな。
「おし、じゃあ俺からも質問だなー。なあ山姥、お前はどこから来たんだ?」
ブッチが気になっていたことがあったのか、話に入ってきた。私としてもそこは聞こうと思っていたところなので、そのまま山姥に答えてもらう。
「東、だね」
なんか言い淀んだな。この際はっきりして貰わないといけないから、はっきり言わないならぼこぼこにしていかないといけないな。
「ん? ということは邪馬台国?」
「…」
沈黙する山姥。なんだ、邪馬台国で何か嫌な事でもあったんだろうか。邪馬台国から追い出されたとか。あるいは山姥なんて妖怪だから、邪馬台国には住めなかったとか。
「邪馬台国に敵対する奴がいて、そいつを倒そうとしているとか、邪馬台国に封じられているモンスターか何かを倒すために阿修羅と協力したりしていたとか、呪いか何かで邪馬台国に戻る事ができず、呪いをかけた奴を探しているなんてところか?」
「お前、やっぱり魔者本人だろう? 言う事が大体あってるところがやたら腹立つね。 まぁいいさ。ここではお前たちに命を握られているようなものだ。はっきり言ってやる。邪馬台国の女王に追放されたのさ私は。そしてその復讐をしてやろうと考えている、とでも覚えておけばいい」
邪馬台国の女王。卑弥呼。私と同じ般若レディ。これは、いつか戦うということが決まったかなあ。
「…どうだかねえ。私はお前のその言葉を信用できないなあ。邪馬台国の女王が山姥、お前の相手をするとは思えない」
失礼な話でもあるが、山姥という存在がそこまで卑弥呼に与える影響は大きいだろうか? 卑弥呼とは確実になんらかの確執があるのだろうけれど、突飛な発想だと、卑弥呼の母親説なんて言うのも考えられるかもしれないなあ。
娘の暴走が止められず、阿修羅とかに協力を頼んだなんてこともありえそうだ。まぁ普通に反旗を翻して、突撃した結果返り討ちになったのがこの山姥なんてことも考えられそうだけれど。
「うーん。もっと詳しく聞かせて貰わないといけないなー。まぁ時間はたっぷりあることだし、お前は逃げられないように、別な場所に閉じ込めておくとするかな。」
「な、それは困る! 困るぞ! 私にはやらなければならないことがあるんだ!」
いきなり焦りだした山姥。え、こいつはまだ死の覚悟とかそういうのが決まっていなかったんだろうか。生かして帰さない風のことを私とブッチは言ってたはずなんだけれどなあ。
「ならさっさと目的を話せよ。何が目的だ?」
「私は卑弥呼を絶対に倒さないといけないんだよ。あやつは既に暴走しているようなものだ。あのままでは邪馬台国自体が滅びる」
あ、やっぱりそういう長くなりそうな話か。できるだけ無視する案件だな。ここで邪馬台国にまで移動していたらいつまでたってもクロウニンは倒せないし。うーん。どうするかなぁ。
「じゃあ、しばらく私がこの山姥を隔離しておくから、みんなはモンスターの国の場所を調べて欲しいな」
「お? それでいいの?」
「まぁ、色々聞きだしたいことがあるからねえ」
「ま、待った、私は忙しいんだ。それなのに!」
いや、こっちだって忙しいんだからそこはなしにしてもらおう。捕虜は逆らう権利なんてないんだしな!