第435話「魔者の存在」
明日追記します
2/1追記しました。
「魔者ってのはねえ。この世の摂理に反する存在なんだよ。何でもかんでも作り替えちまう。そしてあらゆる存在を有象無象として扱い、自分こそが世界の頂点と考える、天上天下唯我独尊な存在だよ。ああっ、もう回すんじゃない!」
山姥は、ブッチに捕まりながらも私の方を睨みつけて、忌々しそうに話を始めた。
何でもかんでも作り替えるっていうのは錬金術士だからしょうがないとして、天上天下唯我独尊なんてそんな傲慢な事を考えているつもりは一切ないんだけど。それは私以前の魔者がそうしてきたからだけってわけで私はそんな風になりたくはない。
だけど、山姥の口ぶりから、何をしてきたのかが分かった。自分の思い通りの事をやろうとするためなら他人の迷惑など考慮せずに好き勝手に暴れてきたということなのだろう。
それにしても、何でも作り替えるというのが恐ろしい気がする。私はまだその領域には至っていないけれど、ここで、それがどういうことなのか山姥に問いただしてみることにした。
「何でもって言うのは、例えばどういうこと?」
「水だったものが火に、火だったものが水になんて突然変わったらどうする? そういうことを平気でやってのけるんだよお前は。自分でやってきた癖に何寝ぼけたこと言ってるんだい」
いや私じゃないし。それにそんな事できないし。うーん、話を聞いている限りだと、なんか過大評価されているんだな魔者って。それとも何か、私は魔者としては落ちこぼれの部類に入るって事なんだろうか。
これでも力に溺れていない、平和主義者だというのに、山姥含めて恨まれることが多すぎて、なんか私だけ損している気になってくるな。
「山姥、それじゃあ聞くけれど、魔者って言うのはどういう奴なの?」
「お前が魔者だろうが!」
「いやだから、お前が見たっていう魔者は私と同じ姿だったのか?」
「またお前はわけの分からないことを言い出すね。魔者なんてお前しかいないだろう」
…ジャガーちゃんは私が別な魔者であることを認識していた。だけどその他はどうだっただろうか。私が魔者だと勝手に認識するだけして、先代の魔者とかがいたという認識が特にない。
ここだ、これが凄く不気味というか疑問なんだ。私こそが魔者という認識になっており、昔からいる魔者も全て私だったというような事実ということになっている。
つまり、私は魔者を引き継いだ時点で、それまで魔者が行ってきたことも私がしてきたかのような扱いになっているってことなんだよね。今までもそれで最悪な目に遭ってきたけれど、ここで正確に理解した。
要するに、私は、いや、考えないようにしていたけれど、それに近いんじゃないだろうか。
「? どうしたの?」
ブッチは私が悩んでいるそぶりを見せたからか首をかしげている。
「…世界を根底から覆す、か。山姥、お前は山姥じゃないものに作り変えてみるか?」
勿論そんな事、出来るわけがないのだけれど、この言葉を発した瞬間に山姥は青ざめた表情になった。やはり、そういうことか。
「魔者! そうやって世の中を混沌に落としていこうっていうのか! お前はやはり生きていてはうわわわわ!? 回す~な~!」
ぐるぐる回される山姥の事はひとまず置いといて、これは大変な事になっている気がしてきた。いや、本当にこれは、想定外な事なのだけれど、もしそうだとしたらってことだ。
魔者って、もしかすると<アノニマスターオンライン>のあらゆる存在を別なものに変えてしまうことができるってことなんじゃないのか? これ、オンラインゲームのゲームマスターというか、プログラマーとかそういうレベルの権限が与えられているって事の気がしてきたんだけれど。
いや、そんなことになったらゲームの運営ができなくなるだろうから、まさかそこまでの事ができるわけがないと思う。だけど、どう考えてもおかしい。
特に錬金術士の杖で使う時間凍結。これなんかもうスキルの範疇を超えているような気がするし、大丈夫なんだろうかと心配になる事はあった。
ゲーム内のバグというか、そういうものを利用して作られた存在になりそうなのですごく不安になってきた。
だけど、運営が私に何も連絡してこないのなら、単にそういう役割がありますよってだけな気もしてきた。そこまで重大な事ができるなら絶対に連絡してくると思うし。
運営が私の事をほったらかしにしているかもしれないって事はありえそうだけれど。うぅ、なんだか不安になってきたなあ。あれ、でもそんな事はならないか。ゲーム全体に魔者の事を知らせたのは運営側ってわけだし。私の事をどこかで監視しているのかどうかは分からないけれど、問題行動があったらその時点で連絡がくるだろう。
だから多分、私は何をしてもセーフなはず! バグみたいというか不具合みたいに感じたとしても、そんなの絶対運営から問題視されると思うから大丈夫なはず! と、自分に言い聞かせる事にした。
「それで、魔者がどうとかはこの際おいといて、お前はなんでここにきたの?」
「ふん! 阿修羅の様子を見に来たのさ。魔者なんぞ相手にするんじゃないとも忠告しようと思ったが、まさかこんなところで死ぬなんてね」
「私は魔者じゃないけれど、阿修羅は勝手に因縁つけてきてさぁ、私を殺そうとしてくるものだから反撃しただけなんだよ」
正当防衛だ。私は何も悪くない。阿修羅の奴が勝手に暴れだしただけだ。邪竜の方は倒そうと思っていたのでこちらについてはしょうがない。
「返り討ちにしてやったってことかい。全く、なんてことだい。お前の方が滅べば良かったのにねえ! 世の中が悪くなっていくのはみんなお前のせいだし! あああー回すなああ!」
なんでそこまで私を危険視するんだ。クロウニンとか凶悪な敵に狙われて困っているってのに、なんか私が存在しているだけで悪みたいな扱いが多くてうんざりしてくるぞ!
「なぁ。お前えっと、ビビンバだっけ? 結局お前は何したいんだ? 俺にもこんな感じでとっつかまっちゃってるし」
「山姥だよ! うぐぐ。お前もなんて奴だ。私の金縛りが一切通用していないなんて!」
あ、何この山姥、自分からそういうのをばらしていくスタイルなのか? それとも悔しくてつい口走ってしまったんだろうか。
「うーん。そんなことはどうでもいいんだけれど、お仲間の阿修羅は死んでしまったようだし、ビビンバ、お前は何がしたいんだ?」
「山姥だ! どうでもいいだろうそんなことは! 私は阿修羅の様子を見に来てなんだ! 早く離しておくれ?」
「え? なんで? 生かして帰すわけないじゃん」
ブッチの発言に全員沈黙。まぁ私もそうするつもりだったんだけれど、そこまでストレートに気軽に生かして帰さない発言は調子が狂うぞ。
「なっ!? なっ!? ちょっと待ちな! こんな老婆にそんなことしようだなんて、酷いとは思わないのかい!?」
「ないなぁ。だってお前を生かしておいたらお仲間のところに行くか、ここで生きてるかもしれない阿修羅の魂とか回収しそうだし」
「!?」
山姥が目を見開いて驚いていた。阿修羅の魂ってなんだろうそれ。もしかして、ブッチはそれが見えているって事なのかな? それならそうと言ってくれれば良かったのになあ!
「あんた、不気味な顔だと思っていたけれど、そうかい。一天地六の目を持っているだけあって全てを見通すってことかい」
一天地六…? ああ、サイコロのことだっけ。なんかカッコいい言い方だな。
「そうそう、俺は何でもできるんだぜ。そこらに阿修羅の魂がうろうろしているのは分かっているし、それに惹かれてここに集められている何かがあるのも分かっている。というわけで、寿司ちゃん。黙っていたけれど、阿修羅の死体の辺りで魂をよろしく。」
魂をよろしくって、つまり私に吸収しろって言ってるってことだよね。ええー、そんないきなり言われても困るなあ。私の体が乗っ取られたりしそうな気がして怖いんだけれど。
「なっ!? お前! そこの魔者が阿修羅の力を取り込んだらどういうことになるか分かっているのかい!? 恐ろしいことになるよ! 魔者がどれほどのものかお前は知らないからそんなことを平気で、ブブッ」
「うーん。うるさいなぁ。というわけで俺がこのビビンバを抑えておくから後はよろしく。」
「えー。結局私がやることになったのか」
「いいじゃん! すげーパワーアップするかもしれないし!」
気が引けるけれどやるしかないか。ここで逃げたところでどうなるか分かったもんじゃないし。
「ぐぐ。やめろ魔者! きええええい! ぐあっ!? なんだ!? 力が!?」
「あ、ごめん。俺ヴァンパイアロードだから。お前の力はどんどん無くなっていってるよ」
「なっ!? なんだって!? 吸血鬼の王!? お、お前が!?」
…あれー。おかしいな。こういう時に現れた奴って逃げたりするのに切り札を持っていて、色々喋った後に、ちっ逃げられたかみたいな話になると思うんだけれど、そうならなかったみたいだ。
「さぁ! 邪魔者は俺に任せて早くやるんだ!」
ブッチってばなんかノリがよくなっているし。でもだいこん役者にしか見えないよ。
はぁ、しょうがないなあ。阿修羅の魂なんてものが吸収できるのか分からないけれどやってみるか。誰かに見られていたら嫌だけれどしょうがない。
「吸収」
阿修羅の死体の周りで手をかざしてみる。すると死体から青白い光と青黒い光が放たれ、そして混ざり合い、私の手の中にどんどん吸い込まれていく。
「う、う、あっ!? あっ!?」
なんかまた偉い衝撃が襲い掛かってくるな!? 電気でも浴びているかのような感じ! うぐぐぐぐ! というかこれいつまで続くんだ!? なんだこれ! 吸収しきれないんじゃないのか!? ええい! だったら!
「吸収!」
左手も使う事にした。これならなんとかいけそうだって思ったらまた衝撃が強くなってくる!? なんだこれええええええ!?
(母上! それは危険です! 母上が吸収できる容量を超えていると思われます!)
「そ、そんなこと言ったって止まらないし! うぐぐぐ!」
「お、おい! 一天地六の!? あれはまずいぞ! 私なんて構っている場合じゃ」
「まーなんとかなるって」
「な、なるわけないだろ!?」
「大丈夫大丈夫。いつものことだし」
「ちょっとおおお!? これまずいんだけどおお!」
両手で頑張って吸収しようとしているのにできない! なんかこのままだとやばいって! 魂が漏れ出しているよ! あああもう! やるんじゃなかった!?
「うぐっ! ぐっ!? 後はどうすれば。はっ!?」
いや、それはな、だけど、うわー! 思いついちゃったよ私! これならできるじゃないのかなって思っちゃったよ! もうやるしかない! 一か八かだ!
「吸収!」
そして私が大口を開けると、そこへ勢いよく青白くそして青黒い魂が入り込んできたのだった。