第434話「魔者の事を知っている?」
昨日はお休みしてました。すみませんでした。
「やっぱりこういうのはぶっ壊して脱出って言うのが定番でよくない?」
「こんな黒い靄を内側からぶっ壊したらろくなことにならないと思うんだよ」
私とブッチは対立していた。私は転移石でさっさと帰ってしまったほうがいい思っていたのだけれど、ブッチとしてはここをぶっ壊して脱出したくてたまらないようだ。いやー、もうボスは倒したし疲れたしさっさと帰りたいんだけどなあ。
「ろくなことってそんな大変な事が起こるわけないって。大丈夫大丈夫。ちょっとぶっ壊すだけだから、ね? ぶっ壊しちゃおうよ!」
「そう言う事言ってるとろくな目に遭わないんだよ。あー、私の記憶だと、シューティングゲームだったかなぁ、球体の中に吸い込まれてボスと戦うんだけれど、そのボスを倒して光を浴びるとボスと同じモンスターになってしまったってのがあった」
そんでもって最後は味方だった仲間に襲われるようになるって話だった。ラスボスがそのシューティングゲームの主人公の機体だったってオチだったんだよなあ。
「あ、あー。あー。そのゲームか。確かにあったね。自分がモンスター化したことに気が付かないとか、ってここでそんなこと、なるかなぁ?」
そうなるかどうかは分からないけれど、そういうゲームがあったものだから、閉じ込められたらもうおしまいみたいなイメージはついてしまっている。転移石を使えばここを壊す必要性もないから大丈夫じゃないのかなーって思っている。
「ここでそういうことになったら不運過ぎるけれど、ねっこちゃんだもんなあ。そういう不運な事が起こりそうだよなあ」
おい待て、どうして私を不運な奴扱いするんだ。私はそこまで運が悪い事ばかり、ばか、ばかりだった気がしてきた。
「あとさー。ここに阿修羅の魂が残ってしまってるかもしれないんだよね。だったらやっぱりぶっ壊しておけば禍根を残さないでよくならない?」
…なんだか嫌な選択肢を迫られているなあ。この靄を壊すと言うか、吸収したら何かまずいことが起こるかもしれないし、転移石を使ってしまえば、阿修羅がまた出てくるかもしれない。どうするか。
「あぁ、こうして悩んでいるとまた最悪な事が起こったりするんだろうな。あぁー。もう面倒くさいからブッチがこの靄をブッチ破ってくれない?」
「よーし! パパ、ブッチ破っちゃうぜ!」
何がパパなのかさっぱりだったが、ノリに乗ってくれたようなので、この黒い靄はなんとかしてくれるようだ。といっても本当に出来るかどうかは分からないけれど。
「はっけよーい! のこったあああ!」
え、そんなすぐにブッチ破りに行ってしまうのかと呆気にとられてしまった。ブッチは、黒い靄に向かって体当たりを仕掛けていく、そして黒い靄に当たったと同時に激しい轟音が鳴り響いた。
「あれ? なんかあっさりブッチ破れたな。ってん?」
ブッチが体当たりしたあたりの黒い靄は綺麗さっぱり無くなっていて穴のようになっていた。そこから出られるだろうなと思っていたのだが、そこから何かが入ってくるのが見えた。
「なんだお前?」
入ってこようとしてきた何かをすかさずブッチは張り手で追い返した。おいおい何いきなり攻撃してくれちゃってんだ。いいのかそんなことして。
「グァァァア!」
獣の鳴き声のようなものが聞こえてきた。そしてまたブッチが開けた穴の部分に入ろうとしてきていた。だが、またしても張り手で追い返される。
「人ん家に勝手に入ろうとするなよーえいえい」
この黒い靄はブッチの家だったのかなんてことは当然ないわけだけれど、何でここに入ってこようとしてきているんだろうか。一体何が入ってこようとしているのだろう。もう少し近づいてみるか。
「何かいるの?」
「凄いのがいるよ」
「へぇ…。どれどれ?」
私はこんな黒い靄に入ろうとしてきているもの好きが気になったので、近づいて覗いてみることにした。一体どんな奴なんだろう。
「ソコニイルンダロウ! マジャアアア!」
いないよそんなものは、なんて返事はしなかったけれど、魔者がいるということが知られている? 阿修羅ではなさそうだけれど、一体なんなんだ。まだ姿が見えない。
「ああ、こんな奴だけれどどうする? おいしょっと!」
ブッチは穴から入ってこようとする何かを掴み取り、そのままこちら側に引き込んだ。何なんだ?
「…これこれ、妖怪だったと思うんだけれど名前忘れちゃった」
真っ白い髪の老婆の首根っこを掴んでブッチが私に紹介した。あー、これは確かやまんば? えーと山姥、か。そんな妖怪だったかな。なんか最初は優しくしてきて後で食べてしまうみたいな奴だった気がする。
「マジャアア! キサマアア! イキテオッタカアア! グァァアアア! シネエエエ!」
錯乱しておられるよこの婆さん。というか腕に包丁を持っているし、これならブッチがどんどんどついていたのも分かる気がする。一瞬だけ可哀想な気がしたんだけれど、ブッチに捕まりながらも包丁のような刃物をぶんぶん振り回していて危なっかしい。
「あー。私は別に戦うつもりはないんだけれど、何か用なの?」
「キサマアアアア! キサマガアアアア!」
あ、駄目だこれ。話が通じないタイプだ。なぜ激昂しているのかはよく分からないけれど、魔者関連ということが分かっただけでもいいか。どうせ先代の魔者とかが何かやらかしたんだろうなあ。また面倒くさいことになってきた気がする。
「騒ぐな」
ブッチが山姥の後頭部の辺りをどついた。黙らせるのは大事だと思う一方で、ちょっとだけ可哀想だと思ってしまった。
「で、何の用なの?」
「ギ、ギャアア! ウアアア! コロサレルウ!」
「あーもう! 次から次へと厄介な事ばかり! ちょっと黙れ!」
なんだかイライラしてしまったので、自然と威圧が発生してしまった。これはしょうがない。こっちはもう帰りたいってのに、まだ何かイベント中なのか。阿修羅を倒してはいおしまいってことでいいじゃないか。それなのにもう! いつまでこんな茶番を続けるつもりなんだ!
「ウ。う? お、あ? ま、魔者ッ!? 貴様ぁ! 阿修羅を殺したね!?」
お、正気に戻ったんだろうか。私の方をしっかりと見据えて苦情を申し立ててきているようだった。阿修羅と関係があったってことなのかな。
「なんで私の方を見て言うのは分からないけれど、私はその魔者とか言うのではないし、倒したのはそっちのブッチだよ」
流れるように嘘をつく私だった。だってねえ、ここで自分が魔者だと認める必要性なんてないし、ブッチが魔者って勘違いしてくれればそれはそれでいいし。まぁ私が魔者だって分かるのだったらブッチは違うって言うのも分かるのかもしれないけれど。
「嘘をつくんじゃないよ! お前が魔者だってのは私は知っているんだからね! 阿修羅を倒したのもお前しか考えれない! この極悪非道が! あいつは私ら妖怪の為に戦っていたってのに! よくもやってくれたね! 死ね!」
「黙れ」
私は、山姥の顔面にビンタをくらわせた。普通に腹が立ったし、私が先に攻撃された被害者で、阿修羅は私を亡き者にしようとしてきたので、これくらいやってもいいだろう。
それにしても阿修羅とか山姥とかが出てきたなんてなあ。どういうことなんだこりゃあ。この辺りは妖怪が出てくるような場所ってことになるんだろうか。うーん、モンスターと混在して分かりにくいだけな気がするんだけれどなあ。まぁそれがこのゲームって事なのかもしれないけれどね。
「ぐ。魔者。お前!?」
「聞け。私はその魔者って言うのは一切知らん。勝手に言いがかりをつけるんじゃない。というかお前は一体何者なんだ?」
そう、山姥の方は私の事を知っているみたいだが、私は山姥の事は知らない。それなのに魔者だから死ねなんて横暴すぎる。やめろ。
「ただの山姥だね! あんたに家族や仲間をどれだけやられたと思っているんだ! 私は絶対にあんたを許さないよ!」
すごい威勢だなあ。どうやら私以前の魔者からこっぴどくやられてしまったようだが、そんな事は私に全く関係ないのにとばっちりをうけるはめになってしまった。
「許す、許さないじゃなくてお前の知っている魔者は別人だぞ」
これを説明してもみんな別人だなんて思ってくれないだろうな。しょうがないとは思うんだけれど誤解されるのはしょうがない。
「ふん。魔者、お前はねえ、私達妖怪を苦しめるだけ苦しめてそんなに楽しいかい!?」
「いや私じゃないし」
「私ゃねえ!? 山姥としてお前の命を刈り取らなきゃ気が済まないよ! これまでどれだけ酷い目に遭わされたと思っている! そして阿修羅もやられちまっただって!? そんな事をやって平然としていられるなんて! おかしいぞ!」
なんだか重たいテーマが出てきたなあ。魔者って酷い奴だなんてことは前から分かっているけれど、私はそんなこと全くしないって言うのに、風評被害って酷いないか。
ただ魔者って称号を受け継いだなのに、この仕打ちは酷い。
「だーかーらー私がやったわけじゃないって何度説明すれば信じるんだよ。というか阿修羅からは襲われたんだよ私は!」
「なんだって? そんなことがあるわけ…。…お前、まさか魔者の事を何も知らないなんて言うんじゃないだろうね」
「その通りだよ」
なんだが流れが変わったような気がする。なんだこの山姥、話せばわかるって事か? 激昂していたのはカッとなりやすいお年頃ってこと?
「魔者の奴!! つまりそういうことか!」
あー勝手に一人で理解して、勝手な行動をとりそうな発言だな。こういう風に言う奴の特徴だ。
「どういうことだよ」
「つまり、お前には死んでもらわないといけないって事だよ! きえええ!」
「はい。ばあさん黙れって」
ブッチが山姥を軽く振る回す。流石だな。あ、そんな何周もぐるぐるまわしたら気持ちが悪くなって山姥も吐いちゃうんじゃないのか。おーい!?
「うぶぶぶぶ!?」
「ぐるぐる回そう!」
「やりすぎだ!」
一応この山姥からは何か魔者について有益な情報を聞き出せるかもしれないので、始末するのは後回しにした方がいいな。こうしてまともに話せる奴なんて基本的にいないわけだし。よし事情聴取を頑張るとするか!