表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第5章「般若レディは備えたい」
431/473

第431話「般若レディ、必死で動き回る」

1/27 追記しました

 阿修羅との激戦が始まった。阿修羅の六本腕から振り落とされる刀の動きは素早かった。ちょっとお!? こういう巨大なサイズの奴って動きが鈍いとか言うのが定番だろう! これは一体全体どういうことだあ!? 早すぎる! そんでもってなんで刀まで巨大化しているんだ! 反則だろ!

「うぐぐ!」

「どうした。お主はその程度だったか?」

 いや、そんなこと言われましても、そんなでかい体でこんな小物の私の相手を真剣にするとかそっちの方がおかしいんじゃないですかねえ。巨人と小人みたいなものじゃん。そんなサイズの違いがあるってのにそこまで全力を尽くしてくるとかおかしいよ! 絶対おかしいよ! こんなの大きな家が、人間に襲い掛かってくるようなものじゃないか! 無理無理! 勝てるわけがないよ! 誰か助けて! って思ったけれど、ここまできたらやるしかないので鎌を持って走り出した。


「ずああああ!」

「おおおりゃ!」

 いや待ってよ、全力疾走して攻撃をかわしたかと思ったらその六本の腕から繰り出される刀の連撃が凄いんだけれど。地響きというか地鳴りというか、地面が揺れる!! 動けなくなりそうだよ! 本当にもう、こんな事ありえないでしょ! おかしいよ! 私みたいなか弱い般若レディに向かって毎度毎度冗談がきついんだって! こんな暗い空間に閉じ込めてくれちゃってさぁ! もうしょうがないから戦ってやるけれど! あんまりだ! 横暴だ! 

 それと、こんなでかい刀を私の持っている小さな鎌で受け止められるはずがないだろう。ということは必然的に阿修羅の攻撃は回避するしかないというわけなのだが。

「むぅん!」

「くっ!!?」

 ぎりぎりかわしているような状況だ。私はサイズが小さいけれど、ちょこまか動いているので、直撃を避けているような状況だ。とはいえ、これだけ巨大な阿修羅なのだから、いつ攻撃を当てられてもおかしくはない。


「ふふふ。お主は逃げるのが得意技だったなぁ! だがそれもいつまで持つかな?」

 形勢逆転されたような気分になる。ここまで追い詰めたのに最後にこれか。こういう巨大化したモンスターって最後はやられるのがよくある話だってのに、いざ自分が戦ってみると、こんなの勝てるわけがないだろうという気分になってくる。

 RPGなんかだと、敵のサイズに関わらず敵に与えられるダメージがある程度一定のことが多いけれど、今私がやっているのはアクションゲームみたいなもので、サイズが大きいので耐久性もがっつりあるということになる。本当に蟻と象の戦いみたいなものだろうこれ。

 阿修羅が動くたびに震動が起こる、阿修羅が刀を振り落とすたびに風が巻き起こる。私は飛んだり転がったり、滑り込んだりしながら攻撃を回避し続ける。真っ暗な雲に覆われたこの空間だが、阿修羅の周りは割と明るかった。

 この明かりが何なのかは分からなかったけれど、一応自分の位置も阿修羅の位置も確認できるので助かっていると言えばそうだった。

「…くだらんな。お主、本気で戦わないなど、我に失礼だと思わぬのか」


 失礼も何もあるか。これだけ攻撃されてそんなことに返事する余裕もないし、そもそも本気で戦ったところで私には数多くのデメリットしかないんだっての。

 だけど、ここらで私も限界を感じてきているのは確かだった。この戦いでは覚悟を決めて般若レディに戻ればいいのだけれど、そのふんぎりがつかない。もどかしい。

 本当にこの空間が誰にも見られていないなんて分からないのが辛い。私は疑心暗鬼になりすぎているというのは自覚している。不安になりすぎて、一歩を踏み出せていない、そんな状況だ。


 あぁ、嫌だなぁ。すごい嫌だなあ。これまでプレイしてきたオンラインゲームの苦い思い出が走馬灯のように蘇ってきた。

 夢中になってゲームをプレイしていたあの頃、私はある程度の強プレイヤーのようなものになった。長時間プレイしていたのだから当たり前だったし、様々な人とパーティを組み、オンラインゲームの攻略の最前線にも出たことがあった。

 そこで待っていたのは、目立ってしまったことでの批判だ。私としては別に普通の会話をしていただけだったのに、偉そうにしているなんて思われてしまったことを皮切りに、私が仕切りやだとか、私が他のプレイヤー達に命令して人を機械のように扱っているとまで言われた。

 私がちょっとした発言でも行動でも揚げ足をとるかのような人たちが増加していき、やがて私は一人になった。

 そりゃあ、プレイスタイルというかゲームへの熱意が違ってくれば差は生まれてくるだろうけれど、私は他人を機械のように扱ったなんてことはなかった。


 だけど、新しくスキルを使えるようになれば、長時間プレイばかりしていて周りと協調性がないだとか、かといって周りと協調性を持たせるべく一緒にプレイすれば、自分のスキルを自慢したいだけなんて言われ続けた。

 あぁ、なんかこうやって阿修羅の攻撃を回避しているとどんどん思い出してくるなあ。こうやってモンスターの攻撃をかわし続ける練習なんてしていたら、自己顕示欲強すぎだなんて言われたらな。自分のプレイヤースキルが上手いって自慢かよともあったな。

 そうだ、これだ。目立つ行動をすると、そうやってどんどん面倒な事になっていったんだった。そのうち友達も誰一人いなくなっていき、最後はずっとソロでプレイしていたっけ。

「確かに。くだらないな。」

 ぼそりと本音を呟いてしまった。


 私は誰かに行動を見せたくなかった。何かするたびにいちいちくだらない文句を言われたから。何をどんなことをしてもそうだった。最後にソロになってしまった後も陰口のような事はされ続けてきた。 あぁ、そうか。これか。この想いが強いから私は目立つことを避けたかったのか。

「そうか…。」

 今更だけれど、こういうことはもう既に終わった話だとして自分の中では決着がついていたはずなんだけれど、やっぱり完全に決着はついていなかったってことだな。私もまだまだ精神的に未熟だったってことなんだろうなあ。はぁ。

「む?」

 阿修羅が次に動かす腕が分かる。

「次は、左手真ん中の刀を振るわせてきて、そして両腕で思いっきり叩きつけてくる」

 こんな感じで、敵の行動パターンを覚えるのに必死になって頑張ったんだよなあ。私もただ純粋にゲームを楽しんでいただけだったんだよなあ。


「でりゃ!」

 阿修羅の一瞬の隙を狙い、黒薔薇の型を使って鎌を振るう。たとえ威力が高くても、相手は巨大なので大してダメージにはならないだろう。だが、それでも塵も積もれば山となるはずだ。

 私は、こうやってじっくりといくらでも挑戦し続けることが好きだった。今でも好きだ。あぁ、そうだよ。私はこういう風にどうやって勝てばいいのか挑戦するのが大好きなんだよ。

「ふ、ふふ」

 なんだか、凄いストレスが発散できている気がする。あぁ私は別に敵と戦うのが嫌なんじゃなくて前に進み過ぎてしまうのが嫌なだけだったんだろうか。ってそんなわけないか。基本ビビリだし。


「む?」

「もうさ、なんか私ってば、ここ最近ずーっとストレスを溜め込んでいたんだな」

ずっとクロウニンに付き纏われている事、プレイヤーが魔者を探しているのでばれないようにとこそこそし続けなきゃいけない事、そしてなんだか自分の思い通りのプレイができない事、本当にそんなのばっかりだった。

「てめぇこの野郎。私を馬鹿にしてんのか」

 いい加減私も我慢の限界なんだよ。おい、ここで私の事を監視しているかもしれない奴がいたらとくと見ておけ。私はなぁ! 私はなあ!!

「こんな阿修羅風情に負けるわけないんだっつーのおおお!」


 気が付くと、私は鎌を振るっていた。夢中になって振るっていた。

「何!? な、なんだそれは!?」

「知らん!」

 私が持っている鎌が超巨大な漆黒の鎌になっていた。だがそれが何だって言うんだ。もうそんなの私には関係ないし。いつも通り鎌を振るうだけだ。

「おいコラ阿修羅。お前はそんな程度か。もっと本気出せ。そんな程度じゃちっとも面白くないぞ!」

 もうこいつに私が溜め込んできたストレスをぶつけることにした。ここからは全力で動き回ってこいつをボコボコにしてやる!

「ぐぐ!? 言うではないか! ならば見せてやろう! 我の本気を!」

「誰が本気を見せろつった! その前に倒すんだよ!!」

 超巨大な鎌を振りかざして、阿修羅を刈ろうとするが、六本の刀で防がれる。なんだこの弱弱しい防御は! そんなもの突破してやる! うはははは!

「な、なんなのだお主は!? 急に、やはり道化か!?」

「草刈りが大好きなか弱いレディだよ!」

 なんだか肩の荷が下りたような気がしてくる。あぁもういちいち面倒くさい事考えずにがむしゃらに特攻すれば良かったんだな。あーあー。なんだか気が楽になってきた。そりゃあ正体ばれたら嫌だけれど、うじうじ悩んでいても解決するわけないよね。おーし!

「わははははー!」

 ひたすら鎌を振るう。そして阿修羅の刀を受け止める。阿修羅が跳躍して私を押し潰そうとしてくるが、これも鎌で防ぎ切った。阿修羅の重さと落下速度が加わった一撃を、簡単に防いだ。


「なんだそれは! 生肉食ったことがあるのかお前は!」

 自分でも無茶苦茶言い出しているのは分かっているが、なんだかどんどんおかしな方向に進んでしまう。ひたすら阿修羅の攻撃をかわして、そしてこちらの攻撃をガンガン当てていく激しい動きをしているうちにランナーズハイとでも言うような状態になってしまったのかもしれない。

 冷静さを失っているのは自覚しているが、抑えられないしむしろ抑えたくない。こうやって暴れだしたかったんだ私は。

「ぐ、ぐぐぐ!? まさかここまでやるとは! 恐れ入ったぞ! そしてお主の正体は、やはり」

「うるさい!」

 どうせ魔者だとか言おうとしたんだろう。魔者じゃないんだっての! 勝手に魔者認定されただけなんだからいい加減それやめろ! 魔者じゃないんだ! 私はねこますだ!


「戦いの最中にごちゃごちゃうるせー!」

「それもそうだな。よし、いいだろう。ここからは更に本気で」

「喋るな!」

 戦いの最中に喋るんじゃない! 私も喋っている!? いいんだよ私は! もう爆発してしまったから。この抑えきれない感情が爆発した。さっさとクロウニンでもなんでも倒せばよかっただけなのにこうして長引いてしまったことが許せなかったし。

 もういい加減阿修羅と戦うのも飽きた。そろそろこいつを倒して先に進むぞ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ