第430話「風を吹き飛ばして」
明日追記します
1/26追記しました
吸収ゲーが始まるよー、ってもう始まっていたな。竜巻からどんどん風の素とも言える魔素を吸収してく私だった。いやぁこれはいいねえ。闇に引き続いて今度は風の力を手に入れたら私はまた強化されるってことじゃないか。
はっ!? もしかしてこれ、実は私の強化イベントだったなんてことはないんだろうか。マオウペンギンだの強敵を相手にする前にこうして力を蓄えておけば、もっと戦いやすくなるだろうし。
「大きくなることはなくなってきたみたい!」
「いいね! 流石だよ!」
「へへ」
この吸収は、一見すると私が何かしているような感じは分からないのがいいところだ、ただ手をかざして何かやっているかもとは思うんだけれど具体的には何をしているのか多分、分からないはずだ。
「一時はどうなるかと思ったけれど、このまま突き進めだけで勝てそうだね」
「いやぁそれはどうかな」
「不穏な事は言わないでよ!」
「だって、こういう時ほど嫌な事が起こるかもしれないって、寿司ちゃんがいつも口を酸っぱくして言ってるから! 絶対に安心安全じゃなきゃ嫌だって言ってるから!」
「はいはい! 私が悪うございました!」
確かに私はそういうこと言ってるね! いい感じの時ほど、油断しないようにってね。確かにそうだったよ。こうやって調子に乗ってくると大体酷い目に遭うことが多いし。だけどさぁ、あの巨大な竜巻が徐々に小さくなってきているのはすごく安心できるんだよ。やっぱりもう直前まで迫ってきていて死ぬかもしれないって言うのはドキドキするし。ホラーだよ。
「ウォオ。チカラガアア」
苦しそうな呻き声が聞こえてくる。もしかしてこれって。
「あれ、もしかすると、さ。あの竜巻が消えたらあいつら死ぬのかな」
「そうじゃない? あれが最後の力を振り絞った呪いみたいな力かもしれないし」
命を捨てた攻撃だったかもしれないのか、それならあそこまで巨大な竜巻になったのも分かるなあ。凄まじい勢いだったし。だけどこのまま本当に終わってくれる気はしないな。阿修羅なんて強そうな奴がそんなあっさり倒せるなんておかしいと思うし。
「死に際に呪いとか放ってこなければいいけれど」
「その呪いもなんとかできるんじゃない?」
なんてブッチに言われたけれど、この吸収ってそんなに万能なんだろうか。後でまずい事が起こるかもしれないから、使い過ぎは怖いんだよな。これは、先生にも言われたことだし。
そんなこといったらこの竜巻を吸収している時点でまずいというのは分かるんだけれど、漆黒の壁の時と同じようなものだと思えば何とかなる気がしている。だけど呪いなんかだと、吸収した後がなぁ。私は呪い耐性を持っているけれど、それだってどこまで効果があるか分からないしなあ。呪いを無効にするわけじゃなさそうだし、怖いなあ。
「キ、キエテイク。ソンナバカナ!! ウォオ!」
阿修羅の悲痛な叫び声が聞こえてくるが、やはり死ぬのか。ええー。そんな死ぬような攻撃をあのタイミングで放ってきたとか信じられないんだけれど、それとも、本当は死なないとか?
「阿修羅が死ぬとは思えない。ああいう奴は悪あがきとかするか。真の姿を見せるかでもしないとおかしい。私の経験上、もっと苦戦しなきゃおかしい!」
苦しむことが前提の話をしているが、だってそんなにあっさり倒せたことがないからしょうがないし。こうやって竜巻に追われている時点で十分きつい戦いになっていたとは思うけれど、それはそれだ。
「阿修羅は尖兵に過ぎないみたいなノリなんだよきっと」
…あいつが尖兵? そっちの方が恐ろしいんだけれど。はっ。昔そういう格闘ゲームがあったな。物凄く強いのに頑張って倒しても尖兵に過ぎないなんて言われてしまうゲーム。まぁその後ゲームの続編は出ることが無かったんだけれどってそういうノリか!?
「グォオオ! シネヌ! コンナトコロデ! オヌシダケハゼッタイノコロス!」
徐々に風を吸い込んでいったのだが、竜巻はもうずいぶんと小さくなっていた。ああ、モンスターの国まで連れて行こうと思ったんだけれど吸収し過ぎてしまったようだ。あれ? でもここから吸収をしなければまた勢力が強くなってくるなんてことにはならないのかな。ならないか。それだったらあんな恐ろしそうな声が聞こえてくるわけがないし。
「ニガサン!」
突然、空全体に暗雲が立ち込めた。やっぱり! 絶対こういうことになると思っていたんだよね私は! こうならなきゃおかしいよ! 絶対に! そうそう都合よく終わってくれないのがこのゲームだよ全く! 私はこうなるって逆に期待していたね! ほら見ろ! そんな簡単に終わらせてくれるわけが無かったんだよ! うわーん!
「お、雲が…」
暗雲が、降りてくる? このあたり一帯を囲むように降りてきている。ああ、これで逃がさないようにするってことか。最後の抵抗ってことか。
ここで阿修羅を倒せばおしまいってわけじゃないのが辛い所なんだよなあ。仮に倒したとして、他にも敵がでてこないとは限らないし。
「…あれも吸収できそうな気はするけれど」
なんでもかんでも吸収すればいいって問題でもなさそうなので、これは吸収しないことにする。後はもう直接対決って言う定番イベントをするしかないと思っているし。
そして、あっという間に私達の周りと上空は黒い雲に覆われてしまった。閉じ込められたというわけだ。それでも雲くらい突破できるんじゃないかと試してみたが、跳ね返されてしまい出ることが出来なかった。
「またこういう場所での戦いか。」
ヴァンパイアロードの時に一度やっているようなものなのに、二回目とかもうね。ただ、これは好都合な気がしないでもない。多分ここに入っているのは私達だけな気がするし。他のプレイヤーやモンスターがいるとは思えなかった。
まぁでも、そういう油断を誘って監視している奴がいる可能性はゼロではないのでやっぱり、このまま戦うけど。
「結局最後は直接対決になるとか、こういうのはなんとかならないのかな」
「よし、後は任せたぜリーダー!」
「えーっ!? 一緒に戦ってくれないの!?」
「阿修羅と戦ってたのは俺じゃないし、やっぱりボスはリーダーにくれてやらなきゃね!」
マジですか。すっかり後はブッチに任せておけば余裕だ! みたいな感じでいたんだけれど、厳しいなあ。もうここは二人で一緒にあの阿修羅の顔を全部泣きっ面にしてやろうみたいなノリだったと思うんだけれど違うらしい。
ええい。じゃあやってやるよ!
「じゃあ、後は任せて。特等席から私と阿修羅の戦いを見てると良いよ」
立見席しかないけどな!
「あっ!?」
いきなりブッチが叫んだので、驚いた。何だ、まだ何かあるのか。こんな喋っていたら阿修羅から先制攻撃をくらってもおかしくないんだからさっさと用事を済ませてくれ。
「フライドポテトとかポップコーンとかない?」
「ないッ!」
あるわけないだろ!? いい加減にしろ! ここは映画館じゃないんだよ!? どこだと思っているんだ! もういい、私はさっさと行くぞ!
「はぁ。残念だ。じゃあ、後は頑張ってね。軽く一捻りしてきちゃってね。俺が応援するまでもなく、簡単なお仕事みたいな感じで簡単に倒しちゃうんだろうけれど、はぁフライドポテト」
はいはい、お疲れのようなのでそこで休んでいると良いよ。全く、何がフライドポテトだ。そんなのんきな事言ってる場合じゃないだろう!
「気配感知だと、こっち…かっ!?」
「お主が、まさかそのような力を持っているとはなぁ! その力は危険だ。それは、あらゆる生物を死滅させる力だ。我の全身全霊でお主を殺す」
うわぁ、なんか恐ろしい事を言ってきているよ。その力が危険とか、私を危険人物扱いか!?
「…お前、その黒い体はなんなんだよ。」
阿修羅の前身は真っ黒こげのようになっていた。しかし、それだけじゃなかった。最初に見た時よりもかなり大きなサイズになっており、十メートル以上の高さを誇っていた。いやぁこんなのを私にぶっ倒せとか冗談も休み休みにしろ。なんで、こんなことになっているんだよ! これが真の姿とか言うのは分かるけどさぁ! 酷くない!? しかもこいつ持っていた刀も巨大化しているの。そして六本全部持っていやがるの。ずる過ぎる!
「これが我の真の姿だ。まさかお主のような者に晒すことになるとは。いや、お主も何らかの姿を隠しているな? 我には分かるぞ」
「そんなわけない」
「ふ。その正体を晒したくないということか? ならば約束しよう。ここは我とお主と、そしてお主の仲間以外には絶対に入ってこれぬ場所。そして今現在、その他の者は誰もはいってきておらぬ。これは絶対に保証してやろう。なぜならここは我が招き入れた物しか入れぬ場所だからだ。どうあがいても他の者は入れぬ」
「嘘をついているかもしれないだろ。それにその保証がない。お前の気が付かないうちに誰かがここに入ったかもしれないだろ」
というか、こいつ、私が正体を晒したくないとかなんで分かるのかねえ。ああこの格好だからか。黒い装束だし、誰にもばれないようにってしているから分かりやすいか。
「ならば」
阿修羅と私の前に、一本の刀が突き刺さった。なんだこれ。
「我は誓う、正々堂々とした決闘を、な。その刀はお主にくれてやる。それほどのものだ」
いや、何を言ってるのかさっぱりなんだけれど。そういうのはブッチ相手にやって欲しいんだけれど、まぁしょうがないな。そこまで言うなら貰ってやってもいいか。罠かもしれないけれど。
「それはお前に勝ってから貰うとしよう。まぁいいよ。私の正体は戦っているうちに気が付くだろうし」
「ふむ。よかろう。ではこの阿修羅。お主の命をもらい受けるぞ。名も無き戦士よ」
「はーい。名無しさん頑張ります」
絶対に私の名前は教えないのであった。ここまできても私は私だ! ここで正体を晒してしまったら今までの苦労が水の泡! そんな簡単に晒せるものか! 晒さないで鎌一本でこいつを倒すしかない! もうやぶれかぶれだよ! うおおおおおおおお!