第43話「森から出よう」
念のため、あたりに何か落ちていないか探してみたが、特に何もなかった。ここ
まで頑張った収穫は、蜂女王の羽と蜂蜜の巣とおまけの瓶だ。もう少しくらいあっ
ても良かったのにな。
「ああー。ここらでいきなり強いボスが襲い掛かってくる負けイベントでも発生し
て、俺が食い止めるから逃げるんだ的な展開はないかな?」
「ねえよ。」
この状況であってたまるかと思う。ゲームでよくある展開だけれど、ここでそん
なイベントが発生したらブッチきれる。くそ、ブッチのせいでつまらないことを考
えてしまったじゃないか。
「消化不良なので俺としては出てきてもらっても一向にかまわないんだけどなあ。」
「そんなに強いモンスターと戦いたいのか。」
「まあね!やっぱそういうのを倒してさあ、ねっこちゃんから、キャーブッチ様素
敵ぃ惚れたわ!結婚して~!とか言われてみたいよ。」
「言わねえよアホ!」
何だその単純思考は。そんなんで惚れるか。それに、たとえ魔王から攫われたと
して助けられても、感謝はすれど惚れるわけがない。ゲームのキャラみたいに簡単
に好きになるとかありえないしな。
「そんじゃまあ帰るとするかーほら、ねっこちゃん肩車するから。」
「待てい!みんな集合~!」
全員を近くに集める私。
「みんな一応薬草を食べて回復して。帰りも何がでるか分からないし。」
さっきのブッチの話ではないが、帰る時にモンスターに襲われる可能性は十分あ
る。きっちり戦えるようにしておかないと。
「ワイはこの薬草を食べる時、草原の事を思い出すんや。そしてケガはしないよう
に気を付けようと思うんや。」
ほう、なかなかいい心がけじゃないか。でも今後も毒のある敵が出てきた時は囮と
して頑張ってもらうから薬草は沢山食べてもらうけどな。
「それでみんな、特に変わったことはない?」
「トクニアリマセンガ。ナンデショウカ?」
「モンスターの呪いが時間差であらわれたりすることがあるから一応警戒している
んだよ。他には、仲間内で距離をとった隙を狙って分断作戦をされたりねえ!」
今までどれだけのゲームでそういうことをされてきたと思っているんだ。警戒し
ないわけがないだろう。
特に分断されたのが仲の悪い仲間同士だと、言い争いになってまた色々ひと悶着
あった末になぜか最後は、気持ちが通じ合うみたいな展開になるんだろう!そんな
展開は絶対にさせるものか。
「ねっこちゃんは、ゲームのテンプレ展開を回避したがるよね~。」
「仲間を人質に取られて、アイテムをとってこいとかそういう面倒くさい展開があ
って、そこからアイテムとりにいったら、よそ者は帰れとかいう話になってまたく
そ面倒くさい仲良くなるためのイベントをこなすのなんて許せんからな!」
そんなに面倒くさいならゲームをやめてしまえと言われそうだが、今この場面で
発生したら嫌なので言っているだけだ。ゲームで疲れるというのもなんだが、中断
機能などはないので、蜂女王を倒した今はさっさと帰ってログアウトしようという
気分なのだ。
一応やろうと思えばやれるけれど、その場合、たけのことだいこんを置き去りに
することになるので嫌だというのがある。あと、そのせいでこの二匹が邪魔という
こともなくAIだし別にいいなんて考えもない。
だから、まずこの状況で最悪なことにならないように注意しているだけだ。
「とりあえず何もなさそうなので、ブッチに肩車してもらうとするか。」
「特等席は最高でしょ?」
「はいはい。まあ頼むぞ。」
というわけで、私の肩には小さくなっただいこんが、私はブッチに乗っかって、
そしてたけのこは、ブッチにお姫様抱っこしてもらうのだった。
「それいけブッチ号!」
「あいあいさー!」
というわけでブッチが思いっきり走り始めた。木々が生い茂るこの鬱蒼とした森
でよくもまあさくさくと突き進めるもんだと感心する。私だったら無理だなあと思
いながら、森林火災の事も気にかける。燃えていなければいい、または鎮火してい
たらいいなと思った。火の広がりがすごかったらどうしようかとも思った。
だが、それは杞憂だった。かなり戻ってきたはずの場所で、一切火災の痕跡が確
認されなかったからだ。こうなってくると、草原と同じように、時間経過で復旧す
るか、火災のような現象が起こらないかということになる。
実際その場面を目撃したわけではないが、一番気にしていたことが起こらなくて
よかったと思った。
それともやはり、この森が、不思議な森ということなのだろうか。
「ところで、この森はハッチ・ブッチ・フォレストって名前にすんの?」
何気なく聞いてみる。
「たけのこ森でいいと思うよ。ウッウッ。俺はなんて役立たずなんだ。」
現在進行形で乗り物として役に立っているだろう。蜂女王は倒せなかったけど。
「姉御、今度はブッチニキが楽しめそうなとこいこうやで。」
「そんな場所思いつかないけどそうだね。」
川の向こう、野原の方とか、ブッチのいた洞窟とか色々行く当てはあるけどね。
他のプレイヤーがいるような村とか町もどこかにあると思うから行ってみたいけど、
どこにあるか分からないからなあ。とにかく歩いてみるしかない。
「一応、また今度森にはきてみるけど、やっぱり次は別なところに行きたいなあ。」
行ける場所は一か所じゃないんだからそういうもんだよね。
「それにしても、火災がなくなるなんてなあ。すごい森だなここは。」
「ブタガタベラレルノデウレシイデス。」
そうだね豚だね。美味しいね。もう生じゃ食べないけど。
「はあ。それにしても、もっとざくざく色んなアイテムが手に入って、楽しい所は
ないもんかねえ。」
もっとこう他の多数のプレイヤーと交流があったりとかイメージしていたけれどな
いってのが変に感じる。世界中で有名なゲームだろ!いい加減にしろと。
「あったらみんな行ってるだろうなあ。というか本当にみんなどこにいるんだろう。
世界中のプレイヤーから置いてけぼりな感が半端ないよなあ。」
私もブッチも情報を調べないからこんなことになっているが、プレイ人口がとん
でもないんだからどこにだって人はいる気がするんだけど。
「すごい巨大な世界らしいからなぁ<アノニマスターオンライン>って。地球全体
の広さを作っているとか、それ以上かもとか宣伝されていたんじゃなかったかな」
ああ、なんかそういうキャッチコピーがあった気がするけれど、そこまであるとは
意識していなかったなあ。
「やっぱり辺境の地に飛ばされたってことじゃないかこれ!」
「俺とねっこちゃんの出会いも運命だったということだよ!」
「黙れ運命厨!」
運命なんてもんはないんだよ!私が選んだんだよ般若レディを!
「般若レディで狐の尻尾が生えてて背中から蜂の羽があってどんどん魔改造されて
いくねっこちゃんなのでした。」
「そんなことにならんようにしたい。」
「ねこますサマカッコイイデスヨ!」
だいこん、私はもっとこう、かわいらしさを強調したいんだよ。
「おっと、もうすぐ森を抜けられる!やっとだー!」
「待て!抜けるな!その前に下ろせ!」
「ん?分かった。」
ここで私は、ブッチから降ろしてもらった。
「嫌な予感がする。何でモンスターが出なくなっているんだ?蜂はそもそもかなり
いたはずだろう?蜂女王を倒しただけで、消えるわけじゃないと思わないか?」
「ん?それは、ごめんちょっとよく分からない。」
「森を抜けたら、蜂の大群がいるんじゃないか?」
私は、みんなにそう告げた。
この作品を読んでくださる皆様も、恐らく色んなゲームをプレイされていると
思いますので、あるあるなんて思ってもらえたら嬉しく思います。