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アノニマスターオンライン  作者: 超電撃豚豚丸
第5章「般若レディは備えたい」
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第422話「油断も隙もありません」

1/18追記しました

 油断も隙も無い敵なんて大嫌いだ。そんな奴はどうやって倒せって言うんだと思う。目の前にいる阿修羅がそんな感じだ。

「お主、我に勝つ自信があるから、あの者に戦いを任せられたのではなかったのか」

 そんな自信が私にあるわけがない。ブッチだってそれは分かっているだろう。私はここで勝つというよりも時間稼ぎをしているようなものだし、邪竜を倒したブッチがこちらに来たら、こいつと戦ってもらうとか二体一で戦うなんてことも考えている。

 だけど。

「よもや、あの者が邪竜を倒し、駆け付けるなどと思っているのではあるまいな」

 その通りだと言いたいところなんだけれど、きっとブッチは駆けつけてくれないと思っている。邪竜を倒していても何かしら理由をつけて、私の所には来てくれないだろう。


 だって、私は本気を出していないから。そしてこのままいけば今後、全ての敵をブッチに任せて寄生しているだけのプレイヤーになってしまうということだから。私だってそれくらいは理解している。だからブッチはそんなことにならないようにここには来ないだろう。

 まぁ私が本当にピンチだったら来てくれると思うけれど。

「ふふ」

 私は思わず不敵に笑ってしまった。いや、どうして笑ってしまったのか? それは、段々と、なんとなく分かってきたことがあったからだ。

「何を笑っている? 小手調べ程度の攻撃をよけているだけでなんとかなると思っているのか?」


 それが小手調べなんて言うのが分かっているんだよ私には。お前にはまだまだ余裕があるんだろうと言うのも分かっている。だけど、まずはどうしても指標が必要だった。お前がどんな動きをしてくるのか一切分からない状況のまま戦うというのは嫌だった。だけど。

「やってみろ雑魚」

 挑発をした。とても単純な挑発を。こいつには絶対に聞くと確信した挑発だ。こんな単純で馬鹿馬鹿しい挑発にこいつが引っかかるとは思えない。だけど私には確信があった。絶対に引っかかる。

「ほう!」

 

 私の挑発を聞いた瞬間に阿修羅はこれまでよりも一層素早く動き出した。火の魔法を使いながらこちらに迫ってくる。こいつが使ってくる火の魔法はとても厄介で、私の動きに合わせて動いてくるという追尾性能を持っていた。だけど。

「ふっ。ほっ。はっ」

 この手の攻撃は遠ざかるといつまでも狙ってきて邪魔なので、むしろ近づいてぎりぎりのところでかわすほうが理にかなっている。遠くに行けば行くほど、阿修羅は何発もこちらに撃ち込んでくるはずなので、そうなる前にさっさと迎え撃つほうが楽だと判断した。

「まだ終わりではないぞ」

 近づいたならば今度は阿修羅の六本の腕にある刀が襲い掛かってきてしまう。今は武器を持っていないので、直撃したら斬られておしまいだ。でも、そこまで心配はしていない。

「…!」

 こいつの刀が私に届く射程距離の感覚を覚えた。何度も攻撃されていくうちに、ここが安全圏というようなぎりぎりの位置が分かってきた。


「お主、逃げに特化しているな?」

 その通り。逃げに特化している。勝つ必要がなければ戦う必要などない。だから逃げる。逃げても負けないと言うのなら逃げても構わない。だから逃げる。逃げて得られるものが生きるということだ。大体の場合、生きると言うことが最も重要でありそのためには何よりも誰よりも危険を察知して逃げる。

「当たらない、か。だが、これならどうだ?」

 攻撃頻度と速度を上げてくる阿修羅。これはまずいなんて思ったけれど、想定内。完全に慣れるのは大変だけれどこうなることは予想していた。パズルゲームなんかでよくあるのだが、パズルを解く制限時間がどんどん短くなることや、パズルが落下してくる所謂落ちゲーなんてものは、速度がどんどん上がっていくという特徴がある。

 そのような経験をしてきたであろう私は、こいつの動きが素早くなったらどうなるという事も想定していた。


「…どうやら本当に、ひたすら逃げ続けてることのみしてきたようだな」

 攻撃が当たらなければ死なないから当然じゃないか。わざわざあたりに行く必要なんてどこにもないし。

「それで、お主はどうしたいというのだ。まさかこのまま逃げ続けるというのか?」

 狙い所はお前がブッチの所に行こうとすることなんだよなー。そこを狙いたいんだよなー。私に攻撃を当てようとするのを諦めたり、無視したりしてくれると一番ありがたいのでさっさと別な行動に移って貰いたいところだ。そんなことしてくれるかどうは分からないけれど。

「お主のような臆病者の相手をするなど、我としても不本意だ」

 ならさっさとどこかへ消えていってくれないですかね。もういい加減マオウペンギンのいるモンスターの国に行きたいんだからさ。その邪魔をしないで欲しい。

 

「だが、我は敵と認めた相手を始末しないなどということはない。ここで消えてもらう」

 阿修羅の言い放った言葉に思わず歯ぎしりしてしまった。なんだこいつ。結局目の前に出てきた敵はみんな蹴散らさないと気が済まないと言うのか。あーこれだから兎を倒すのに全力を出したがるライオン系は困るんだ! 計画が頓挫したよ! ありえないよ! 私の予定だと、こいつはこのままブッチの方に向かうだろうと思っていて、そしたらこいつが消えようとした時に攻撃を仕掛けようとしていたんだ。つまり! 私に背を向けた時に後ろからざっくりと奇襲を仕掛けようと言う作戦だったんだ!

 くそー! いい案だと思っていたのに、本当にただの戦闘狂か!

「恥を知れ!」

「突然何を言い出すのかと思えば、それは貴様のほうだろうが、逃亡者よ」


 逃げるが勝ち! という言葉を知らないのかこいつ。ああもう! どうするか。こいつの攻撃を回避する自信はあるけれど、こいつは更に本気を出してきて、全く違う動きをしてくるだろうな。そしたらまた一から動きを見極めないといけないし。あーもう! こいつのデザインが和風よりじゃなければさっさと般若レディに戻るのに! 般若レディの事を知っているかもしれないから、ここで元に戻りたくもないなあ! あー! ここで正体をばらすわけにもいかないし! なんとかばれずにこいつを撃退する方法はないものか!


「お主は、ここで確実に葬り去る。我からは絶対に逃げられぬぞ」

 ストーカーですか阿修羅さん。お前、そんなんでいいのか。そんな台詞はストーカーが言うべきものだぞ。阿修羅ともあろうものが、信用とかそういうものを失墜させていいのか。

「阿修羅ともあろうものが、たかだか私程度の相手を葬り去るのに一生懸命なんて泣けてくるね」

「我に牙を剥いたのだ。お主に許されているのは死のみだ」

 挑発も聞かないとか、融通が利かないタイプだなこいつ。変な所で生真面目ぶりやがって。だから油断も隙も無い奴は嫌いなんだ。

「では、決着がつくまで戦おうぞ」

「ちょっと待ったぁあー!!!」


 待たない。ブッチの言葉だというのが分かった瞬間、私は鎌を持って、阿修羅に向かって突撃した。阿修羅はブッチの方に一瞬だけ気を取られたので、その時に攻撃しようと思っていた。

 よし、これで一発攻撃を当てることができる。そう確信していた。だけど、阿修羅はそんな私の攻撃も防いでしまった。だから、6本腕は狡いってば!

「あー。俺を無視して戦わないように! そこのお前。1つだけ確認だ。お前は俺らを倒すまでは絶対に逃げないって約束できるか?」

「ほう。我が逃げる? そんなことはあり得ない。我は絶対にどんなことがあっても敵を片付けるまでは退くことはない。」

 後退の二文字がないんですか阿修羅さんよぉ…。


「そういうことなので、ね…寿司ちゃん。本気出しちゃいなよ」

「は?」

「いや、あいつは逃げないって言うし、本気で戦って倒してしまえば正体ばれないじゃん」

 ……。な、なるほど! 今さっき絶対逃げないって言ってたもんな! つまり、ここでこいつを始末で斬れば、私の事は周りにバレずに済むってことか! なーんだ! そっかぁ。だったら最初から本気で行くよ! 逃げないなら楽! すごい楽!

「待て、お主。邪竜はどうした?」

「死んだよ。」

「嘘を言うな。邪竜は超速再生を持っている。見たところお主の攻撃をいくら積み重ねても、それを上回るとは到底思えん。」

「そんなこと言われてもな。俺がここにいるって言えば分からなくない?」

 ブッチだからとしか思わなかったけれど、超速再生とかなんだよおい。攻撃をいくらしても再生し続けるみたいなやばい奴だったってことなのかな。そんなのを相手にどうやって勝ったんだよ。というかこの短時間の間に倒したってのもありえなくないか。


「ふ…ふふふふ。はははははは!? 面白い、面白いぞ!」

 あっ、なんか大興奮しているよ阿修羅。なんかこのはしゃぎっぷりを見ると、品格というか品位が落ちるんじゃないって思うんだけどなあ。きっとブッチが邪竜を倒したってことで、いい相手ができたってことで気持ちが昂っているんだろうけれど、なんだこう、ねえ?

「あ、俺は相手してあげないよ。お前の相手はそこにいる」

「どうも、お前の相手はこの私がするので、よろしく」

「羨ましいなー」

 なら代わってくれと思った。何かすごい戦いたそうにうずうずしているみたいだし。そんなに戦いたいなら代わってくれてもいいんだけどなあ。なんかシャドウボクシングしたり軽くジャンプしたりしているし、ええいはしゃぐのをやめろ!


「ほう? そこの者はただ逃げるだけの弱き者ではないか?」

「…本気でそう思っているのならお前は雑魚だぞ。そこの寿司ちゃん、俺よりも圧倒的に強いんだからな。俺が勝てないのはそこの寿司ちゃんだけだと思っているくらいだ」

 何でそう私を過大評価するの!? やめて! そういうこと言うの本気でやめて! 辛すぎる! ブッチは滅茶苦茶強いのにたまに私をこうやって過大評価してくるから本当に辛い!

「いやいや、アトゾン。そんなわけないじゃん」

「…いつものことだけど、寿司ちゃん、自分を過小評価し過ぎ。で、どうするの?」


「はぁ。おい、そこの阿修羅」

「ふむ?」

「今から私は本気で戦ってやる。だから絶対に逃げるな。約束しろ」

 口約束ってだけだから逃げ出される可能性はあるけどね。そうなったらブッチに責任を取ってもらう。絶対にこいつを逃がさないようにしないと。

「いいだろう。我は決して逃げぬ! それを誓おうではないか!」

 こういうことを言う奴に限って、最後は命乞いとかしたりする場合があるんだけれど、信用していいもんなのかな。あーなんかちょっとだけ嫌な予感がしてきたよ。


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