第420話「邪竜発見?」
気配感知に引っかかったのが2匹。こちらには感づいていないと思われるが、それが本当かどうかは分からない。どちらも大きな反応というのが気になる。すなわち、どちらもボス級ということだ。もしかしたら邪竜なのかもしれないが、二匹ともそうだとは限らないだろうし、二匹とも全く違うモンスターである可能性がある。
プレイヤーとも思ったけれど、こういった大きな反応のあるプレイヤーは、これまで一度も無かったと思われるので違うのではないだろうか。
「北の方角から大きい反応が2つあるよ。もしかしたらどっちかが邪竜かも」
「寿司ちゃんはどっちと戦いたい?」
できればどちらとも戦いたくないんだけど、大きな反応なので私も戦わないと駄目だろうな。というか2匹ともブッチに任せてしまうと単なるサボリというかゲームをプレイしていてもあまり意味がないという状態にもなるので、私がやらないとだめだろう。
「邪竜とかどう考えても強そうなイメージがあるので邪竜がいたらブッチが戦って欲しい」
「お。いいんだ。やった。でもこういう時の寿司ちゃんの引きは強いからなあ」
待て、それは私の方が強い奴が来るかもしれないと言う事か。そんな事になったら交代して欲しい。邪竜よりも強いみたいなやつなんているとしたらどんな奴かも考えておかないといけないな。
「それにしても、自分でコードネームをつけたのに慣れない」
「そう? 俺はもう慣れたよ」
そんなものか。まぁ私もこれまでプレイしてきたオンラインゲームでいくつもの名前をつけてきてそれらで呼ばれてきたから、今回も慣れるとは思うんだけれど、どうも実際にねこますなんて呼ばれてきたことが多いせいか、いつの間にかそちらが馴染んでしまっていたようだ。猫が好きなだけで自分の名前とちょっと組み合わせただけなのにな。
「こっちから奇襲をしかける? それとも相手の様子を見てみる?」
「少しずつ近づいて、相手の姿を確認したいな」
「おーけー。じゃあ。寿司ちゃんの後ろからついてく。あ、俺の方が目はいいから、姿が見えたらメッセージで教えるよ」
「分かった」
そんなわけで、まだ遠くにいる2匹に少しずつ近づいていく事になった。こういう行動の仕方も慣れてきた気はするけれど、油断は禁物だ。相手はこっちに気づかない振りをして、急に攻撃を仕掛けてくるなんてのもしょっちゅうだし。
私の気配感知が逆に相手に位置を知らせる事もあるようなので、この気配感知を使っていること自体を偽装できるようにもならないといけないんだよなあ。特訓しないといけないな。
ああそうだ、ひじきごめんね。一旦召喚は取りやめるよ。
(わかりました。私が必要な時はいつでもお呼びください)
うん。今回は多分、般若レディの姿に一回戻らないといけなくなるかもしれないから、気を引き締めて行こう。
「ブッチ、私は元の姿に戻るかもしれないから、その時はよろしくね」
「ボス相手だからマジでいかないといけないもんなー。あ、勿論俺もね」
「うん。そうだね。」
ボス相手に本気で戦わないなんてことができそうにない。実はボスじゃありませんでしたなんてオチだったら良いんだけれど、そんな都合の良いことはきっとない。絶対にない。断言できる。むしろもっと凶悪な敵だったなんて事の方が多いので、楽観視はしない。
ゆっくりと距離を詰めていく。なんだか禍々しい力みたいなものがこちらに伝わってきているような感じがしている。嫌だなあこれ、私もスキルを持っているけれど邪気だなぁきっと。この手のスキルってこちらに緊張感を与えてくるような感じになるんだけれど、よく出来た機能だよなあ。本当に現実でも感じる様な緊張感あるいは緊迫感が襲い掛かってくる。
こういう時って、ゲームじゃなくて現実とほぼ同じような感じがしてくるので、凄いと思う反面、実際に精神的に来るものもあるので、気を強く持たないといけないな。
「…」
心臓を掴めているような感覚というと極端だけれど、近づいたら近づいた分だけそのような感覚が強くなってくる。これは臨場感がありすぎる。
マブダチからのメッセージ:見えた! 一匹はそこそこ大きな竜! こいつが邪竜なのかもしれないけれど、赤い! いや、ここにいるから赤く見えるだけかもしれないんだけれどね。それで、後もう一匹は見えない。竜よりは大分小さいのは分かるんだけど。
やった! やっとこさ邪竜が発見できたか。だけど喜んでばかりもいられないな。もう一匹が正体不明の敵ってことか。まさかそいつが邪竜をペットにでもしてそうな強い奴だったりしないよな。単なる乗り物としている可能性も、あるか。邪竜に乗って戦うモンスターってのもありそうだな。その場合はブッチと一緒に戦わないといけないな。
更に近づいていく。なんだろう。邪竜って事は分かったのに、緊張感が収まらない。もう一匹の敵の方が凄く強いってことじゃないのかこれ。うわ、嫌だなあ。
マブダチからのメッセージ:もう一匹、見えたよ。手が6本ある、顔が3つある。これ、どう考えても阿修羅じゃないかな。
は? 阿修羅? 阿修羅ってあの阿修羅? いや、分かる。分かるよ。和風系のゲームだと良く出てくる敵だよね。何!? マジで阿修羅!? あまり詳しくないけれど、結構がっつり戦闘する系だった気がするんだけれど、このゲームでもそうなのか? うわぁ、どうしよう。なんて思っていたら、隣にいたアトゾンことブッチが、サイコロプスの姿に戻っていた。うん、なんかもう変装って全然意味ないよねこれ。はぁ、結局ここで頑張って戦わないといけなくなるのか。
「…」
私も覚悟を決めて、般若レディの姿に戻ろうと思ったけれど、なんだかまずい気がしてきたので戦ってから戻ろうと決意した。だって、邪馬台国だの卑弥呼だの急に和風な世界観に変わってきたと思ったら次は阿修羅だし。これ、絶対何か関連があるよなあ。
阿修羅が話せるモンスターだったとして、もし卑弥呼こと般若レディの事を知っていたら、その時点で色々面倒くさいことになるのが確定だし。私の事を卑弥呼と誤解して、邪馬台国に攻め込むなんてことをしそう。こいつ以外にもこういう系の敵がいて、戦争なんてことになったらたまったもんじゃない。
そんなことになったらもう私がブチ切れるね。元々はマオウペンギンを倒しに行こうとしていたはずなのに、気が付いたら全然違う事やっているし。全然戦う気が無かった相手と戦って、もうふんだりけったりだよ。こういうのって自由度の高いRPGだとよくあるけれど、段々自分が何をしたかったのか分からなくなってくるしで、どこから手を付けていいのか分からなくなるんだよね。
優先順位としては、絶対にマオウペンギンなんだけれど、もうそれどころじゃない気がするし。ただね、私は確信していることがある。
これまでの連中って、もれなく全員、私と関わり合いがあるなって。つまり、私を起源としてイベントが発生している状態だ。
自意識過剰なのかもしれないけれど、魔者の私を倒すことを目的としているクロウニンがいる。邪馬台国とは私が般若レディなので関わり合いがある。プレイヤーは魔者という称号を求めている可能性が高い。
私の命が狙われているって事だな。なんてこったい。この状況を打破するためには、色んな敵を倒さなきゃいけないってのが辛い所だ。もう何度この状況を確認しただろうか。お気楽な冒険をするっていうのができないなんて、悲しいところだ。
まぁ、いざとなれば私がこのゲームのプレイを控えればいいんだろうけれど、錬金術やったり、草刈りしたりするのは楽しいし辞めるつもりがない。
むしろ、ここで辞めたらそれこそ中途半端に投げ出した感がして嫌だ。でもたまに強敵ばかりで辞めたくなる時はあるので、そういう時はプレイしないようにすればいいだけだ。
「!」
邪気と思われる力がこちらを向いたような気がした。相手も恐らく私達に気づいたのだろう。ブッチを見ると、軽く頷いた。これから戦いが始まるということだ。ブッチが、指を2本立てて首をかしげている。二匹とも自分が戦おうかということだと思うが、それは駄目だ。私は首を振って自分が戦うというジェスチャーをすると、ブッチは親指をぐっと立てた。はいはい、私も頑張りますよっと!
「そこにいるのは、分かっているぞ。出てきてもらおうか!」
これ、阿修羅が言った台詞じゃなくてブッチが言った台詞だ。おいおい、それは敵が使いそうな台詞じゃないか。私達がまるで悪人になったかのような感じだけれど、これは気分がいいな!
「ほう? こちらから呼びかけようと思ったが、先に挑発をしてくるとは面白い」
面白いよね。私もそう思う。
私達は、草むらの中から、がさごそと出ていく。目の前には、大きな翼を持った邪竜と、阿修羅がいた。うわぁ本当に阿修羅だよ。怖いなー。
「お前らは俺らの敵か?」
「お前らが我らの邪魔をするのなら敵だな」
「邪竜がスタンピードを引き起こしていて目障りなんだ」
「ほう、では貴様らは我らの敵と言う事だな」
「それを辞めさせることはできませんか?」
「できぬな。辞めさせたければ力づくでくることだ」
という分かりやすいことになってしまった。力づくかあ。結局暴力かあ。私はもっと話し合いで解決とかしたかったんだけどなあ。嫌だなあ。
「おーし! その言葉を待っていたんだ! 俺がそっちの邪竜をやるので、お前はこっちの寿司ちゃんが相手な」
「おうよ。お前の相手は私!」
「ふむ。貴様らは身の程知らずのようだな。我らに歯向かって生き残れると思っているのか?」
思っているから喧嘩を吹っ掛けるわけですよ。ここで負けるなんて思って戦いを挑むわけがない!
よっしゃ! それじゃあ戦闘開始だ! 行くぞ!