第418話「偽名」
般若レディなんて種族名を出してきたので動揺してしまった。卑弥呼が般若レディ。私と同じ般若レディ。ということは、般若レディってレアでもなんでもない種族だったってことになるんだろうか。それならある意味安心できるけれど、NPCが般若レディってだけだしなあ。
しかし、邪馬台国に卑弥呼かぁ。なんだか壮大な事になってきた気がするなあ。よくある設定みたいなのが出てきたので安心しているところもあるけれど、そこはもうちょっと捻りを加えてくれてもよかったんじゃないかって思うくらいだ。
「その卑弥呼ってのはつえーの? すごい戦ってみたいんだけれど」
「お前も、強いとは思うが、卑弥呼様には歯が立たんと思うぞ」
「おっ!? 俄然やる気が出てきた。そういう挑発されるとすげぇ燃えてくるんだよなあ。無理とか出来ないとかって言われるとそれをやってやるって気持ちがさぁ!」
ブッチが突然熱血しだしたけれど、またいつもの戦闘狂の病気なので無視した。それよりも私は般若レディの事を考える方が重要だ。
「般若レディ、って聞いたことないんだけれど、どんななの」
「簡単に言うと、鬼の女神様です」
はぁ? なんだそりゃあ。般若が鬼の女神だなんて聞いたこともないんだけれど。鬼女とかは言われてたりはするけれど、いや、それにしたってさぁ。あ、でも違うか、それは般若の面であって、般若自体は知恵とかなんかの意味があったはず。
となると、般若レディって知恵を持っていそうな、賢者的な何かなんだろうか。それならそういうので神様扱いされてもおかしくない気はするけれど、分からないなあ。
あれ、ちょっと待てよ。もしもここで私が般若レディの姿に戻ったら、私こそが卑弥呼みたいな扱いをされてしまうんじゃないだろうか。そしてその誤解が解けなくなって、また色んな問題が発生していくみたいな流れ。そういう展開は見てきたぞ! そっくりさんが出てきたことで、入れ替わってたら、その間に誘拐されてしまったとか。
そういう定番ネタが持ち出されるかもしれないんじゃないか! 私は嫌だぞそういうの! なんで私がよく知りもしない誰かのせいで迷惑を被らなければいけないんだ。
そして女王だったか。絶対私と入れ替わってくれとか言ってくるだろう! 一般庶民的な事を知りたいとかそう言う事を涙ながらに語るのがよくあるんだ! そういうのを見るたびにうるさい黙れ、お前のせいで事件が起こったらどうするんだ! やっぱり起こったじゃないかって凄い腹が立ってくるんだよなあ。
「よし。それじゃあ私達は勝手に邪竜を退治しにいくから」
「ですから、復活しても生き返ると。ああ、あなたの魔者の力で倒すと言う事ですか」
「頑張って倒す」
卑弥呼と協力してなんてことになったら、最悪な結果になりかねない。私は運が悪いのでそこで正体がばれてしまうだろう。あ、でもそうじゃなくても正体がそのうちばれてしまうか。ここで戦っていたら卑弥呼と勘違いされるとかいう展開になりそうだし。
あぁぁーもう本当に面倒くさいなあ。
「あ、絶対についてこないで。邪魔だから」
「俺らだけで邪竜ってのを倒してやるよ」
私とブッチがいればなんとかなるだろう。というかブッチ一人だけでもきっとなんとかなる。邪竜とか言うのが生き返ろうが、何度でも倒せばいいだけだろうし。ブッチがそれを何度でもやるだろうから。
「あと! 卑弥呼に私達の事も話さない事。もし話したらお前らと同じ鬼族だかなんだか知らないけれど、そいつらの命の保証はしないから」
「はっ!? なぜそこまで…」
なんでなのか? それは、卑弥呼様、こんな面白い奴らと遭遇したのですとか話して、興味を持った卑弥呼が、隠れて森に出かけて、そしてなぜかピンチに陥ってしまい、そのタイミングで私達が助けに入って、正体がばれるって流れが読めているからだよ! 分かる!? ねえ分かる!? この先が読める私の気持ちが! ゲームやってて、あ、こいつなんか余計な事するなって思っていると案の定余計な事をして面倒事を引き起こすんだ。私はそれを徹底的に阻止する!
「な、なぜこちらを睨みつける様な仕草をしているんですか」
「あぁ、考え事しているだけみたいなのでお気になさらず。というわけで俺らはいくのでそれじゃ」
「お、おう。悪かったな。急に襲い掛かって」
「ああ、俺らも、もっと鍛錬して勝てるようになって見せるからな」
「…」
え。何ちょっといい話で終わらせようとしているの。こいつら本当に分かっているのか? 私が念入りに話をするなって言ってたのに、こんなほんわかした感じで終わったら絶対後で、実は面白い奴らに会いましてとか誰かに話をして、そこから卑弥呼に話が流れていくよね。もしかしてそういう可能性も考えないていないわけ? どうなんだこいつら。
「今日、私達に会って何かしたことは、誰にも話すな。話したら邪馬台国に攻め入るぞ」
「…!」
はぁ、これでやっと緊張感を持ったようだ。戦いが終わったからって一件落着なんかじゃないんだよ。その次の戦いに続いているんだからさぁ。私にとっての一件落着は、クロウニンとか色んな私にとって邪魔な奴らが倒れてくれることなんだ。それが終わらない限りは、全て途中経過に過ぎない。
「それじゃあ私達はこれで」
「さよーならー」
こうして、私とブッチは、この鬼3人と別れを告げたのだった。はぁ疲れたけれど、邪竜を倒せばいいって事が分かったのが収穫だった。
しばらく辺りを警戒しながら歩くが、特に何も出てきていなかったので、ゆったりと歩き始めた。いつも走ってばかりって言うのもなんだし。それにしてもやっぱり赤い森なんだなあ。どこもかしこも真っ赤だ。目にきついだろうこんなの。
今は私とブッチで並んで歩いているが、デートというような雰囲気なんか一切ないし、むしろおどろおどろしいというか血なまぐさい雰囲気しかない。邪馬の森とか目的がなければあまりいたくないところだなあ。
「あ、ねっこちゃん。ってさっきも名前を出そうか悩んだんだけど、これから名前呼ぶ時も大変だから偽名とかつけたりしない?」
ブッチが素晴らしい提案をしてきた。偽名かぁ。確かに必要な気がするなあ。
「あっ、じゃあ寿司ギャルとかどうかな」
「……なんで?」
え、いいじゃん。私結構寿司が好きだし。だから寿司ギャル。駄目なのか
「おーい寿司ギャルちゃんとか呼ばれて、どう?」
「おいっす。って感じで良い気がする」
「いや、でも、寿司ギャルって感じじゃないよね。その姿。」
「…もうちょっと可愛い変装を考えるから、いいじゃん」
うん。もう寿司ギャルで決定しよう。寿司子とかも考えたけれど、可愛らしさをアピールするために、寿司ギャルにすることにした。いいよね。
「寿司、好きなの?」
「うん好き。大トロとか、はまちとか、スズキとか。」
話の流れが変わってしまったが、私は寿司が好きだ。このゲームでも、もし寿司を食う事ができたら最高だろうなあ。
「すごい今更好物を知ったよ。ねっこ…寿司ギャルさんの」
「なんでさん付けだよ!?」
「いや、なんかこう、ねえ?」
よく分からないけれど、まぁいいとするか。ああ、なんか話していたら寿司が食べたくなってきたなあ。確か西の方に海があるんだっけ。そっちにはいずれいくことがあるだろうから楽しみにしないといけないな、といっても行ったからって寿司が食べられるわけでもないだろうけれど。
「じゃあブッチも何かコードネームをつける?」
「俺は、あの格好の時は、アトゾンって呼んでくれない?」
「いいけど何アトゾンって」
「なんとなくゴロがいいかなって。駄目かな」
「分かった。今後はそう呼ぶことにする」
そういうのあるよね。なんかカッコいいなって思う名前って。それがアトゾンねえ。何か参考にしたのかよく分からないけれど、まぁ悪くないんじゃないかな。アトゾン。
「とりあえず、ここからは邪竜探し、だね。」
「おー。そうだね。何匹出ようがボコボコにしてやるよ。まぁ出てくるかどうかが問題だけどね」
レアモンスターとかって超低確率でしか出てこないとかあるんだよなあ。だからこそレアモンスターなんだけどさ。そういうのを丸一日ずっと追いかけ続けたりするとしたら本当に辛いね。はぁ。
「まぁ、頑張っていこうか! ボス退治の第一歩として!」
まずは邪竜退治だ。気を引き締めていくぞ!
ねこますとブッチがつけた名前は某所の人なら分かると思います。
やっとこさ名前がつけられたので満足です。