第416話「三人の鬼」
明日追記します!
1/12追記しました
ブッチが真の姿を晒してしまったが、私は、般若レディの姿に戻るつもりはなかった。ここでは、こそこそとすると決めているのだ。それにこいつらがプレイヤーなのかどうかもまだ分かっていないし。全員同じ種族っぽいし、こういう時はモンスターだとは思うんだけれど、まだプレイヤーの可能性も残っているし、下手に姿を晒してリスクを負う必要性はないと判断した。
この角の生えた人たちは、和風っぽい衣装を着ている。着物というか袴というか、微妙に違うような気もするけれど、そんな感じ。で、私の見立てだと鬼のような気がする。髪の毛は普通にあるのでほぼ人間だけど、角があるなら鬼という安直な考えだ。
ただし、ネガティブータのところにいた鬼とはまた違って体格は小柄。本当に人に近い姿だ。
「おりゃああ!」
そんな角の生えた長髪の鬼女とでも言うべき存在が、刀で斬りかかってくる。恐ろしいなあ。こんな恐ろしい物を相手に、私は鎌だよ鎌。武士と農民が戦っているようなものじゃん。こんなの明らかに力の差があるって分かっているのに酷くないか。武士に情けはないのか。武士じゃないかもしれないけど。
「!」
「あなた、そんなものでよくこの刀を受けられますね。感嘆ですよ」
「ハードモードです」
簡単って聞こえたのでうっかりそう答えてしまった。驚きの意味で使ったのだと理解したのは少し遅れてからだった。
「? 意味の分からないことを」
意味が分からないのはお前だぁ! なんで私に斬りかかってきているの! ブッチと私を最初から仲間認定するなんて! というか私じゃなくてブッチに向かえよ! 私なんて無視してさぁ!
「あなた、なんだか、戦い方が気に入りませんね」
気に入って貰う必要ないしね! 私、別に戦いたいわけじゃないし! 仕方なくやっているだけだし! って言うのを見透かされている気がした。
「そんな臆病な戦い方で私に勝てると思っているのですか」
勝つ必要がないけれど負ける必要もない。引き分ける必要もない。何がしたいのかというと、さっさとお引き取り下さいって言うのが私の考えなんだよ。
「あなたには死んでもらいます」
きたよこれ。死んでもらいます宣言。生かして帰さんぞと並んで定番の台詞が。いや、死んでもらいますとか言われていいですよなんて言うのなんてありえないでしょう。が、ここで私はそれもそれで面白くないので、反抗心からこう言ってしまった。
「はいどうぞ」
「ふざけないでください」
どうしろと言うんだ。はいどうぞって言ったんだから、ありがとうございますくらい言えないのか。まったく、一体どんな風に育てられてきたんだ。私の冗談くらい受け止めてくれてもいいと思うんだけどね。
「そんな鎌で私の刀を相手にしようなんて、なめないでください」
お!? 今のはムカついたな。私がずっと愛用している鎌なんだぞこれ。これがどれだけすごいのか知らん癖にそこまで言うとは。私が馬鹿にされるのはよくてもこの大事な鎌を馬鹿にされるのは納得が出来ないな。よし、いいじゃないか。だったらこの鎌の力を見せてやろうじゃないか。
「!」
「やる気を出す気になりましたか。ですがそんな鎌なんて当たるわけがないでしょう」
また言いやがった。なんだ、鎌に親でも殺されたのか。なぜそこまで鎌をこけにするんだ。鎌は素晴らしい武器だぞ。草刈りもできるし最高だ。そのあたり分かっていないんだろうか。
「はあっ!!」
ここで鬼女は、これまで片手持ちだった刀を両手持ちに切り替えてきた。ああ、本気を出してきたって事かな。だけど。
「なるほど。逃げることが得意なようですね」
おかげさまでね。相手の攻撃に当たるということが死につながるようなものだから、ひたすらかわすことを頑張ってきたつもりだよ。だからね、お前の攻撃は遅いんだよ。
「黒薔薇の型」
鎌から赤黒い光が発せられた。そして、鬼女が振り回してきた刀に向けて、思いっきり振りかざした。
「なっ!?」
鎌が刀と交差した瞬間、刀身が消滅した。更に、真っ黒い球のような何かが現れ、それが鬼女に襲い掛かった。これは、パワーアップした鎌の力ってことなんだろうか。
「ぐっ。ああああああああ!?」
全身を震わせ、絶叫を上げる鬼女だった。全身が真っ黒い物で覆われており、それが彼女の体を蝕んでいるかのようだった。というかこれ、なんだ。重力系の攻撃のように思えるんだけれど、黒いだけでそうだと判断できるわけじゃないしなあ。でも重力系っぽいよなあ。
「なっ!? こ、この力はっ!? ぐぐぐ!?」
知っているんですか鬼女さんと言いたいところだったんだけれど、この状態で聞けるようなものではなかった。女の周囲に発生している半球状の黒い力がどんどん広がってきているので、距離を置かないといけなかったからだ。
「う、うぐ」
また制御できない系の力か! そういうのいいんだよ! 強力だけど制御できないってそれ欠陥でしかないから! 火を使う力があっても自分が火傷したら駄目だし、電気を使う力があっても自分が感電したら意味ないし! 高威力って魅力的ではあるけれど、無差別に襲い掛かる力なんて、危険なことこの上なんだからさぁ!
「まさか、こんなっ! こんなところで!?」
つまり死んでしまうということなのかな。だとしてもそっちから襲い掛かってきたししょうがない。私は逃げ回ってばかりだったのに。平和的に話し合いをしようみたいなことにはらなかったしなあ。うんうん。これはしょうがない。
「この力は、まさか・・・ぐぐぐ」
あ、続きが気になるような事を言うなよなあ。そんな這いつくばりながら抵抗して断末魔がそれって絶対駄目だ。
こういう敵が死ぬときに気になる事を言い残したりするのって腹が立つんだよなあ。絶対後で嫌な事が起きるってことじゃんって思うし。最後はもっとすっきりして死んでいってくれ。
「ぐううう。ああああああああ!」
鬼女は、最後の力を振り絞って立ち上がったようだった。そして何かブツブツと言ったかと思うと、半球状になっていた黒い力が消え去った。おお、解除できたのか。
「はぁ…はぁ…」
力を出し切ってしまったのか分からないが、その鬼女は、ふらふらとよろめいていた。よし、ここまでしてしまえば、もう襲い掛かってくる事もないだろう。良かった良かった。めでたしめでたし。
「まさか、魔者の力を使ってくるとは、計算外です。あなたはいったい。」
へえ。これが魔者の力って言うのか。なんて知らないし! 初耳だし! 黒薔薇の型とか勝手に命名しちゃってたけれど、この赤黒くなって振るう力が魔者の力だって!? うわー。なんだそれ。詳しいね。なんで詳しいの?
「その鎌、です、ね。回収します。そんな恐ろしい物は、この世にあっては、いけません」
酷い! 草刈りにも戦いにも最適な私の武器を奪うなんて! 何の権利があってそんなことを言い出すんだ。
「じゃあしまおっと」
奪い取ろうとするならしまってしまえばいい。むこうも、既に武器は持っていないので、殴りかかってくることくらいしかできないだろう。まっ、どこかに武器を隠し持っているかもしれないけれど、それならそれで別に構わない。
「何なんですか、あなたは。さきほどのあの男といい、不気味、です。なぜわざわざこの地に訪れたのですか」
よろよろしながら必死になってこちらに聞いてくる。でも答えない。答える必要がない。いつもそうだが、ゲームってなぜか目的とか理由をべらべら喋るキャラクターがいるのが気に入らなかった。なので説明してあげない。
「まあまあ、落ち着いて」
「何が目的だッ!!」
あっ、怒った。怒れるだけの余裕がまだあったのか。もうちょっとおとなしくしてくれてもいいんだけどなあ。まぁそう上手くいくわけはないか。そして今確実に分かっている事は、この鬼たちはNPCだってことだ。プレイヤーの発言って感じはしない。これで演技をしていたらそれはそれですごいって思うし。
「えいっ」
「がっ!?」
ちょっと、うるさいのでとりあえず黙らせることにした。鳩尾をどついて。私もこれは酷いかなぁと思ったけれど、さっさと色々説明してもらいたかったし。
「魔者の力って何」
「あなた、さっき自分で使っていたじゃないですか」
ということは、やっぱり黒薔薇の型から放たれる力こそが魔者の力ってことか。重力系だとは思うんだけれどやっぱり少し違うもんな。結構なんでもスパスパ切っちゃうからすごい力なのは分かっていたけれど、そういう事か。
だとすると、私が扱っている魔者の力は、まだまだ小さいって事になるなあ。鎌から発生する出力をもっとあげられるようになったら違うんだろうけれど。
「…。あなた私をどうするつもりですか」
敗北者には死を! みたいなノリでも期待しているかのような目でこちらを睨みつけてくる鬼女。勘弁して欲しいなあ。私はそういうのも嫌いなんだよな。
「そっちの目的は」
「あなた方が、我々の地に侵入してきたから迎撃したまでです。」
そんなつもりは一切なかったのになあ。それならここから先が私達の土地ですみたいな看板でも出してくれればいいのに。そんなこと言われても分からないよね。
「ここは色んなモンスターがいる場所だけど」
「何を当たり前な事を言ってるんですか。ここは邪馬台国ですよ。」
…は!? や、邪馬台国ぅうう!? というと邪馬の森って言うのはそういうことぉ!? でもそれだったらなんでもっと有名になってないの!? おかしくない!?
「…よく分かりませんが、あなた、もしかして迷い込んできたとでも言うんですか」
別に迷い込んできたわけじゃなくて、モンスターを探しに来たのと、モンスターの国を探しに来たのとで、色々あるんだけれど、ああもう。最近ごちゃごちゃしすぎ! この地下にも、もしかしたら空間があるかもしれないしで、なんなんだここ? 何があるって言うんだろう。
おかしいじゃないか。私はもっと遠出した先に色んなストーリーが待っていると思っていたのに。これじゃほぼナテハ王国周辺で遊んでいるだけじゃないか!
「はー終わった終わった。お、そっちも終わったんだ。お疲れ。いやー。こいつらをコテンパンにしていたら時間かかっちゃったよ。」
ブッチが、二体の鬼を引きずってこちらに来た。予想通りな感じだけれど。
「まさかあの二人までやられるとは、あなた達は一体」
ただの普通のプレイヤーです。