第414話「プレイヤーから声をかけられる」
明日追記します。1/10追記しました。
1/11 変な部分があったので訂正・加筆しました。
邪馬の森にデートなんて言ったけれど、きっちりエリーちゃんに報告はしておくのだった。まぁ今回は、様子見って感じなのであまり深追いをし過ぎないようにしたい。何が出てくるのかもまだはっきりと分かっていないのに、どんどん進んでいって帰れなくなったというのも困るし。
そういえば、たけのこ森でも不思議な事があったんだもんな。蜂がわんさか出てきたりしたっけ。あの頃経験したように、森は何かが起きると思っていたほうが良さそうだ。
早速、私とブッチは転移石を使って、神殿から邪馬の森まで一瞬で移動してきたんだけれど、何人かプレイヤーを見かけてしまった。私の黒ずくめの格好はちょっと目立ちそうな気がしたけれど、多分あの時いた奴だとはばれないだろう。いやばれないでね。
それにしても、この森の木ってやっぱり赤いんだなぁ。何なんだろうね一体。
「なんか、俺、注目されている気がするんだけれど。照れるなあ。」
戦隊モノが好きなプレイヤーなんだろうか。ブッチの事をちらちらと見てきていた。あれ、ここやっぱりプレイヤー多いのかなあ。
「モテてよかったねブッチ。あっちなみにこれ嫉妬とかじゃないのでよろしく。」
「言おうとしてこと言われてくやしいはないちもんめ。」
やっぱり言おうとするのか。
「じゃあ、ちょっと調べるとしようか。」
なんか注目を浴びてしまって逆効果なことになってしまった気がしないでもないけれど、いきなり気安く声をかけてくるようなプレイヤーなんて街中くらいしかいないだろう。
「あのう。すみません。」
アノウスミマセンというプレイヤーさんか。不思議な名前の人もいたもんだな。やはり世界各国でプレイされているゲームだけあるね。さぁーて森の調査。何かいないか調査。どこかに強そうなボスがいないかとか調査。
「えっと。その。」
今度はエットソノさんか。何人なんだろうか。見当もつかないな。
「えー。ちょっとよろしいでしょうか。」
エーチョットヨロシイデショウカさん。すごい長い名前だな。だけど世の中にはそういう名前の人がいてもおかしくはないんだ。だから、おかしなこと言って引かれないようにしないよな。
「あの! そこのお二人さん! 黒い装備の! いいですか!? あの!」
あああああああああああああ! もうなんだこいつ! 折角こっちが知らない振りをしてやっているのに! 初対面の相手にいきなり話しかけてこようなんてそんなことをする奴がどこにいる! 最初は何かのクエストとかを一緒にやってから、ちょっと距離が縮まったかな程度になってから声をかけるんだぞ! 見ず知らずの私達に声をかけるな!
「聞こえてますよね!? あの! いいですか!?」
よくない。なんで勝手に話を始められてこっちが話を聞くと思い込んでいるんだろうか。ブッチはどうにも話したそうにしている気がしてきたが、プレイヤーから話しかけられても無視してと事前に打ち合わせはしたから、話すことはないだろう。
「あの!」
「!」
いきなり目の前に柔道着の男が現れた。はぁ、さっきからうるさかったのはこいつか。一体何の用なんだよ。邪魔なのでどこかに行って欲しい。
「すごいかっこいいですね! それ、どこで手に入れたんですか!」
<アノニマスターオンライン>で手に入れたんだとか言ったら怒るんだろうなあ。なんかそういう感じに見える。
「…。」
私達は方向転換して移動を再開する。目の前に立ちふさがれたのは本当にうざいのでやめて欲しいなあ。私達は先を急いでいるんだから、他のプレイヤーと遊んでいる時間がないんだから。
「あっ! あー! ちょっと待ってください! あの、だからそれ、どこで手に入れたんですか!」
なぜそんな簡単に教えてもらえると思っているんだろうか。なんて考えてしまうのは私が嫌なプレイヤーだからかもしれないな。
だけど、ここで親切に教えてあげなきゃいけないわけではないのだ。何故かって? 私は今どちらかというと人間の敵というか悪役キャラクターとしてプレイしているようなものだからだ。だからこそ、私は、このプレイヤーと慣れあうつもりは全然なかった。
「どうしても教えてくれないってことか。なら仕方がない! 力づくでも聞かせてもらう!」
結局それか。あぁ、どうしてこんな面倒な奴に絡まれてしまったんだろうか。こっちは、謎のモンスターを調査するので忙しいってのに。余計な邪魔が入ってまた目的からずれた方向に進んでしまうじゃないか。
「うおおおおお!」
柔道着の男の体が赤く発光している。また気とかオーラってやつなんだろうか。多分あれを纏う事で戦闘能力というか攻撃力と防御力が向上するんだろうな。
「おりゃあああ!」
「でい。」
「どっ!? どおおおおお!? あっ!?」
一直線に向かってきた柔道着の男に足払いをするブッチだった。見事に当たってしまった柔道着の男は、そのまま転んでしまった。
「なっ!? な、なんだとお!?」
あっさりやられてしまったことに納得がいかない様子だった。でも、相手がブッチだからなあ。もっと真剣にならないといけないね。この柔道着の男もきっとまだ全力を出していないと思うし。
「うっ。うおおおおお! まだまだぁ! 俺は負けん! 今度はもっと強くいくぞ!」
あ、さっきのオーラが大きくなったぞ。ひょっとしてさっきは、こちらをケガさせると悪いと思って手加減していたってことなんだろうか。
「はぁぁぁ! くらえ! 剛竜拳!」
柔道着の男が手から赤い光弾のようなものを放った。これは、気を圧縮して放ったとかそういうものだろうな。
「残念。」
その光弾を回避したブッチが柔道着の男に襲い掛かり、張り手でどついた。その時、なんだか鈍い音が聞こえたような気がした。そして次の瞬間、柔道着の男は、遠くまで吹っ飛ばされてしまった。あれは大丈夫なんだろうか。
「すぐここから離れようか。」
「うん。」
ああいう風に絡んできた奴はできるだけ無視したい。ここから遠く離れてしまえば、声をかけられることもなくなるだろうから、さっさと移動だ。そして気配感知を最大限に強くする。もう今みたいな奴に声掛けされないように注意する事にした。
沢山のプレイヤーがいるし、わざわざ私達に声をかけてくる奴なんていないと思っていたのになあ。ああいう面倒くさそうな奴はどこにでも出てくるって事なんだろうな。
「あれ? うわ、なんかこっちに向かってきてるっぽい。」
「マジか。じゃあ走ろう。」
いちいち相手にしていたらきりがないんだ。こっちは時間がないんだから執着するのはよして欲しい。私とブッチはこちらに向かってきている奴をまくために、森の中を駆け抜けていく。こちとら森の中で育ったようなものだから、すいすい出来ちゃうな!
むこうは、うわ、まだ追ってきている。というかこんなに正確に追ってきているってことは、向こうも気配感知を持っているんじゃないだろうか。そうじゃなきゃこんなに正確こちらに迫ってきているなんて考えにくいし。
だけどこんなにずっと追い続けてくるなんて、ストーカー行為そのものじゃないか。なんかずっと付いてきているし。そんなにブッチの着ているものが欲しいのか。どこかの誰かが作っているかもしれないしそっちを買えばいいのになーとは思った。
「おおおおおい! 俺を置いておくなああ!」
あー。また叫び声が聞こえるよ。もう嫌になっちゃうなあ。私達はお前とは無関係なんだからこっちに来るんじゃないと思うのに追ってきている…。
「ねっこちゃんもいい感じにイライラしてるね。」
「そりゃあね。」
ああやって追いかけてくるのは嫌いだ。図々しいと思わないのか。なんでこちらが関わりたくないのに関わろうとしてくるんだ。
いっそ倒してしまいたい。でもそれで余計な恨みを買って他のプレイヤーを巻き込んだ無駄な争いが勃発しそうなので倒したくはなかった。
「おおおおい! 逃げるなあああああ!」
まだ叫んでいるよあいつ。森の中であんなに叫ぶなんて、モンスターに狙ってくださいって言うようなものだと思うんだけどな。
「その服装の事を俺に教えるだけでいいんだあああ!」
なんで最初に答えなかったのに答えると思っているんだ! こいつこそ何がしたいんだ! いい加減にしろってんだ! はっ。まさかこいつこそ何かのモンスターが化けている奴なんじゃないだろうか。ここまで粘着して来るなんて絶対におかしい! よし、ブッチにあの柔道着が着た奴限定で、ボコボコにしていいからと伝えることにした。
マブダチからメッセージ:あの柔道着の奴、大して強くないな。俺が倒しちゃってもいい?
おお、私の代わりにやってくれるってことか。流石ブッチだ。頼りになるなあ。私なんてもうこんな奴と戦いたくないんだけどね。ブッチが頑張ってくれるならしょうがない。
きっと柔道着の男は、私達の仲間か何かになりたかったるんだろうけれど、そんなの知らん。
「はぁ。面倒くさい事ばかりだなあ。」
「ねっこちゃん! 俺、ちょっと焼きを入れてくる」
「あ。おーい!?」
…行ってしまった。というか駄目じゃん!? 味方には気配感知が聞かないから迷ったら転移石で戻るしかないんだからー! おおおおおい!
「おおーい!?」
なんだか気配感知のレベルを上げたくなってきた。というかこれ現状では敵察知ってことだし。味方がどこにいるのか探れないなんて、欠陥だろう。まぁ自分が受けない浮遊とか飛行なんてスキルを使っている時点でなんだけれど。
なんて考えながら走っているんだけれど、ブッチが見つからない。うわー、こういう風にはぐれたりすると、大体何かに襲われたりするんだから勘弁して欲しいよ。二手に分かれようなんて台詞なんか聞くと、なんでこいつらそんなことするんだとよく思ったものだった。
どうしたものかと、困った時だった。なんだか物を叩きつける様な音が遠くから聞こえてくる。あ、多分これがブッチだなと予想したので、そちらに向かって走る事にした。
「オラァ! 気合いいれろ! どうしたぁ!」
そんな声が聞こえてきた。あっ。これはブッチ確定だな。