第412話「不思議な鎌。鎌不思議。」
明日追記します!
1/8追記しました
「グァァァ!?」
なんて吠えているのが、巨大な狼。そりゃあ怒りに任せて単調な動きになったら、攻撃を回避しつつタイミングを合わせて反撃するなんてやりやすいわけで、それを見逃す私じゃない。攻撃をかわしたあと、巨大な狼の足を鎌で何度も斬り裂くことに成功した。
「コレヲネラッテイタノカ!」
返事は当然しないけれど、その通りと答えたくなってしまった。安い挑発に乗ってくれたおかげでダメージを与えることができた。当然この後こいつは冷静さを取り戻して、慎重に攻撃を仕掛けてくると思われるので、そこからまた攻撃を当てるまで時間がかかるかもしれないな。
「ウォオ! ゼッタイニユルサンゾオ!」
と、思ったら、怒りを顕にして突進してきた。これも想定の範囲内だったけれど、そりゃあ悪手だよ狼君。
「クラエエエ! ヘルブラス…オオオオオ!?」
「!」
ストップ! それは駄目! ということで、咄嗟に動いて鎌を足に当てた。あぶないなー。いきなり広範囲高威力の攻撃を仕掛けてくるなんて。そこまで怒っていたのは予想外だった。というかそれ割とすぐに撃てるのか。ずるくない? 私の隕石拳だって完全な発動まで時間がかかるのに。というかそれいいなあ。たけのこも覚えることができないかな。
「グ。アァァア!? アァァア!? グォオ!? アァァア!?」
なんか凄い勢いでもがき苦しみ始めたけれど、どうしたんだ。何があった。私が鎌で斬り裂いたとはいえ、尋常じゃないほどの苦痛だったんだろうか。
「ナ、ナ、ナンダソレハ。イタミガ、グアアア!?」
え、え。急に何!? 巨大な狼はまだ痛がっている。そして、まだのたうち回っている。これ、演技じゃなくてマジなやつなのかな。
「グ、グルジイ! ナ、ナンナノダァァ!? ウォオオオオオオオオオオオン!」
巨大な狼の轟く咆哮。いや絶叫、悲鳴か。どういうことなんだろう。この黒薔薇の型の鎌で今までいろいろな物を斬り裂いてきたが、こんなことは初めてだな。だけどこれは絶好の機会だ。私がこれを見逃すはずもなく、のたうち回っている巨大な狼に近づき攻撃を仕掛ける。
暴れだして爪や体に当たらないように細心の注意を払う。
「ガッ!? ナッ!? キ、サマアアア!? ウッ!? アッ!?」
一回斬りつけるたびに凄まじい悲鳴を上げる巨大な狼だった。これは、どう考えても鎌が何かおかしくなっていると思ってじっくり見てみると、鎌が一回り程度大きくなっている。あれぇ、どういうことだこれ。なんで今まで気づかなかったんだろう。それと前まで赤黒く輝いていたのが、紫色っぽくも輝いているぞ。これ、毒々しい気がしてきたんだけれど、呪いか何かがあるということなんだろうか。
「ソ、ソノカマハ…ナンダアアア!?」
それが分かれば苦労しないんだよね。一体何なんだろうなこの鎌。そのうち私も浸食するみたいなオチにならなければいいんだけれど、そういう風になりそうな気がしてきた。そうなったらすごい困るなあ。便利な武器というか長く使っているのでとても愛着があるのに、使うのにリスクが発生するなら別な武器も検討しないといけなくなるし。
「!」
「グァ!? コ、コンナハズデハ…!」
私も、まさかこうも一方的な展開になるとは思っていなかったので驚いた。後はこのまま斬り裂き続ければ倒せるはずだけれど最後まで油断はしない。こういう追い詰められた時に何をしでかすか分からない敵は多いし。
最悪、自爆なんてことも考えられるので、できればさっさととどめを刺してしまいたいと何度も斬っていく。なんだけどこれは気分が良くない。相手は狼だし。たけのこを相手にしているような気分にもなってくるので罪悪感が芽生えてくる。だけど、そんなことを気にしている余裕もないので、無視で斬っていくしかない。
「グ。ウォオ。」
散々鎌で斬り裂き続けていると、そのうち巨大な狼は動かなくなった。どうやら倒したようだが、死んだふりということも十分考えられるので、更に念入りに斬り裂く。
周囲のモンスターの視線のようなものを感じる。私だってここまでやるのもどうかと思うが、ここまでやらないと安心ができないから徹底的にやる。
「…。」
メッセージ:武器「鎌」の強化が可能です。実行しますか?
とても久しぶりにこのメッセージが表示された。忘れた頃に出てくるなあ。これで何回目だったっけ。毎回必ずキャンセルしてきたので、今回も当然強化なんてするつもりはなかった。というか、強化なんてしていないのに黒薔薇の型が使えるようになったっていうのもあるし、やっぱり強化するという選択肢の方が間違っている気がするんだよなあ。というわけで。
メッセージ:武器「鎌」の強化をキャンセルしました。
よし、これでいい。それで、このメッセージが表示された理由は、やっぱりこの巨大な狼を倒したからだよなあ。後はこいつ以外の敵とも戦ってきたことだし、その蓄積でなったんだろう。
多分これが倒したって言う事にもなると思うし、一安心といってもいいんだろうか。
今回はも、鎌に何か変化があるのか軽く振り回してみる。うーん。これといって変化はないな。
「!?」
いや、変化はあった。鎌を強く握りしめていると、赤く燃えているような色に変化した。なんだろうこれは。何かの属性を与える力とかだろうか。今度は青く凍り付いているような色になった。あ、やばいなこれ。使いこなせるようにならないと勝手に発動して困るやつだ。ってなんで強化をしていないのに勝手に強化されているんだ!? おかしくない!? やっぱり強化すると逆に弱体化してしまうんじゃないのだろうか。罠だ。こんなの罠だろう!
メッセージ:「天狼の尻尾」を手に入れました。
お。何か手に入った。よーし! これは倒した時に手に入る物だから本当にこれで安心だな。だけど尻尾か。今って尻尾が二本もあるんだよなぁ。今は変装というか擬態しているから分からないようになっているけれど。これって、3本目も装備できるんだろうか。狐に狸に狼にって、変な感じだなあ。
まぁいいか。今回はすぐに装備できるか試してみるか。
メッセージ:天狼の尻尾を装備したことでスキル「睡眠耐性」と「ヘルブラスト」を使えるようになりました。
おおっ!? って睡眠耐性! また耐性がついたな。これはなかなか嬉しい。そして、ヘルブラストっていうのは、あのレーザーみたいな衝撃波か。これは、すごい嬉しい。そう何発も撃てないと思うけれど、発動が早そうなので使い勝手は良さそうだ。
隕石拳は使い勝手が悪いので使うのに躊躇するが、こちらはもう少し気軽に使えそうだ。広範囲に放つので味方を巻き添えにしないように注意しなければいけないけれどね。なかなかいいアイテムとスキルを手に入れた!
(母上。ブッチ様のところに戻らなくていいのですか?)
あ、そうだった。でもなぁ。ここまでやったことだしわざわざ戻るのも。いや、様子は見にいかないと悪いし行くか。ただその前に。
周囲のモンスターの様子を伺ってみる。特に何か動きを見せるわけでもないが、明らかに動揺しているようだ。そりゃそうか。巨大な狼、というか天狼って言うのか。こいつがボスっぽかったし、それが倒されてしまったら、どう動くのか分からなくなるよね。でもさぁ、元はスタンピードなんだよね。いや、私が勝手にスタンピードって決めつけていただけかもしれないけれど、好き勝手暴れ回っていた感じのモンスター達が、凄くおとなしいのが不気味だ。
ふむ、モンスター達がブッチとあのプレイヤーの戦いを邪魔しないようにすることくらいはできるかな。周辺の奴らくらいは倒しておこうかと思った時だった。
「ウォオオ!?」
「グギャア!?」
モンスター達は一斉に森の奥へ逃げ出す動きを見せた。えぇぇ!? そんな、一匹倒されただけで逃げ帰っちゃうとかお前らやる気あるのか!? あれだけ大量にいたじゃないか! 敵前逃亡とかそんなことでいいのか!
戦う事を強制されていたかもしれないので、文句を言うのも筋違いだと思うが、あれだけの数のモンスターがいるのなら、人間達に特攻していけばいいのではと思ってしまった。
「ヴァオオオオオオオオオン!!」
地鳴りが起きる。地響きが起きる。森全体が大きく振動する。私も突然の大きな揺れに、思わずよろめき倒れそうになった。なんだなんだ! 今度はなんだ!? また新手か! ええい。たった今強敵を倒したばかりだと言うのに、連戦ってか! ふざけんじゃないよ。もうそんなのブッチが相手にしてくれ。私は帰るぞ。もう帰りたい。でもブッチが戦っているの大変そうだからやっぱり気になる! あぁもう!
天狼が復活でもしたのか!? というわけでもなさそうだったな。森の奥の方から、何かの鳴き声のようなものが聞こえてきたわけだし。一体何なんだ。
「!」
おおお!? 森の奥地に逃げ出していったはずのモンスター達が、ものすごい勢いでこちらに突進してきている! 結局また来るのか!? おいおい、ということはさっきの鳴き声を発した奴がこいつらを暴走させていた奴ってことになるんじゃないのかって!
「ヴァアアアアア!」
「!」
猪のようなモンスターが何匹も突撃してきたので鎌で狩る。他にも色んなモンスターがただ一直線に突撃をしている。私を無視して突き進んでいく奴らも沢山いる。だぁあー!? スタンピードが再開されたってことじゃないか!
もういいだろう! こんなのやってられるか! ブッチの事は気になるけれど、スタンピードがまだ続くようなら私も限界! さっきまであの激闘していたし、私だってそろそろ休みたいよ! 勘弁して! というわけでここからおさらばすることに決めた。ブッチには自力でなんとかしてもらうしかない。私はもう知らん! ブッチだって転移石を持っている事だし、撤退だってできる事だし。
大切な仲間ではあるけれど、無理して私まで巻き添えをくらうのは嫌だった。もう十分頑張った! 私のような臆病者がよくここまで頑張った! よし自分を褒めたことだし一旦みんなのところに帰ってから、ログアウトして休もう!