第411話「考えて、戦う」
明日追記します!
1/7追記しました
力、この場合筋力だとする。私よりも筋力の勝る相手に勝つためにはどうしたらいいのかと考えてみたことがあった。
人間の男女の間だけでも相当な差があるのに、人間じゃない動物などの筋力を比較していくと、私はいかに非力であるのだろうか。
このゲーム内でも同じことだ。私は筋力ならこの巨大な狼は勿論、ブッチにだって簡単に負けるし、ももりーずVのメンバーの中でもやはり負けてしまうことが多いだろう。筋力差があれば、同じ武器を使ったら当然、筋力が弱い方が負けてしまう。
だとしたら、筋力が弱い者はどうしたら筋力が強い者に勝つことができるのか? という当然の疑問に思い当たるようになる。筋力を鍛えればいいという考えもあるが、どれだけ鍛えても生物として定められた限界がある。鍛えれば無尽蔵に強くなるわけでもないし。
スキルで補う? 武器で補う? 戦い方で補う? このように、あらゆる方法を模索する事ができる。私は、筋力差で負けているのなら、その他の方法で勝つことを考えなければいけない。非力な私が勝つためには色々と事前準備したり、作戦を考えたりしないといけない。
「シネッ!」
この巨大な狼は、私よりも強い。強いならどうやって勝てばいいのかという話になる。だけど、こいつに勝った先も考えないといけない。こいつを倒して戦闘を終えた後、瀕死状態になってしまったら、それこそ普段やられることもないようなモンスターにすらやられてしまうかもしれない。
私は、そういう将来の事も考えている。私が勝ち続けるためには、極力、敵に私の情報を与えないようにしなければならない。
そういった事情があるので、私はこの邪馬の森で現在戦っている相手に対してスキルを使わないでいる。勿論、使えないのではなく使わないというだけなので、もしもの時は使おうと思っている。
今は薬草が大量にある。こいつのヘルブラストとかいう強力な攻撃だったら死んでしまうかもしれないが、その他の攻撃だったら耐えられるのではないかと思う。だから、今も鎌一本でこの巨大な狼に挑んでいるんだけれど。
「!」
「キサマ。ウットオシイタタカイカタヲスルナ。」
今は鎌一本で戦っているんだから、うっとおしいも何もないだろう! 逃げ回ってみたり急に攻撃を仕掛けてみたり、試行錯誤を繰り返しているだけだっての。何がお前に有効なのかを調べなきゃいけないわけだしな。
「ウォオオン!」
どうも。巨大な狼に襲われている般若レディのねこますです。こいつが口を大きく開けるものだから、ついうっかり、口の中に肉を投げつけてしまった。
「ムガッ!? ムグムグ。クチャクチャ。」
いや食うなよ…。お前もたけのこ並みにくいしんぼうなのか!?
「!」
食べることに夢中になって、隙だらけだった。当然それを見逃すはずもなく、私は巨大な狼の前足を鎌で斬り裂くのだった。
「グオッ!? キサマァ!? ヒレツナリ!」
突然の痛みに耐えかねたのか、巨大な狼は後ろに飛び跳ねて私を罵倒した。でも卑劣って、ここは戦場なのに何を言ってるんだ。戦いの最中、肉に気をとられるなんて自殺行為だろう。そんなので今までよく生き残ってこれたな。
これは、たけのこにも注意しておかないといけないな。戦闘中、肉につられてしまわないようにと。そんなので命を失ったらやりきれない。
「シヌガイイ!」
巨大な狼が突進してくる。素早いのだが、これもまた私にとっては遅いと言わざるを得なかった。先ほどブッチが見せた動き。あれが私にとって速いと言えるものだった。それと比べると、圧倒的に遅いというか、これはかわせるなんて思えてしまう。そして実際にかわすことが出来てしまう。
「チョコマカト…。ニゲアシノハヤサハミトメテヤロウ!」
私は力でも速さでもこいつに劣っているはずなんだよね。それなのに私は、鎌一本でこいつを相手にしている現状。この巨大な狼と対峙していた、今、思い出したことがあ田。
<アノニマスターオンライン>を初めてすぐに狼であるたけのこに襲われた事。できる事なんて限られているのに、それでも勝利をもぎとった。あの時だって鎌だけだった。だけど必死に戦って勝利したという事実がある。
「!」
いつだって、いつ負けてもおかしくない戦いばかりだった。いつだって勝つために必死になった。貪欲になった。やれることはやろうとしてきた。それはもう今までプレイしてきたゲーム経験があったからだし、絶対に諦めたくないと思ってきたからだ。
失敗なんて、きりがないくらいある。上手くいかなかったことなんていくらでもある。そうして今まで這い上がってきた。たかがゲームでなんて言われるかもしれないが、ゲームだけじゃない。どんなことだって簡単に諦めるなんてことはしてこなかった。
「ウォオ! コンナ、コンナ、チイサキモノニ、クセンスルナド!」
巨大な狼は鋭利な爪や牙を剥きだしにして襲い掛かってくる。その巨体で突進され、ぶつかれば私は大きく吹き飛ぶだろう。更に、魔法なのかスキルなのか分からないが、ヘルブラストとかいう恐ろしい威力の攻撃を放ってくる。これは絶対回避しないといけない。
きっと、この他にもまだ多数の攻撃バリエーションがあるだろう。私は、それらを頭の中で意識して、次はどうくるのかを想定する。想定外の攻撃はどんなものなのかは予測する。
「マサカ…。イヤマサカキサマ!」
何度も攻撃を回避する。かすることなどもあるが、幸い致命傷にはなっていない。こいつの爪に毒などが仕込んであっても、あいにく私には毒耐性があるので効かない。そしてダメージを受けたら薬草で回復する。
「グオオ!」
巨大な狼がこちらを凝視したと同時に突風が吹いた。だけど私も凝視されたと同時にこいつの視界からそれるように動いたので、突風が直撃する事は無かった。
直線状にあった樹々やその近辺にいたモンスターが薙ぎ倒されていく。折れた枝がいくつかこちらに飛んできて、ぶつかったが、直撃したらまずかったと言うのがよく分かった。
(母上。もうスキルを使ったほうが良いのではないですか? このまま鎌一本で戦うというのは自殺行為です。)
ひじきの言う通りなのだが、私は現在モンスター達に囲まれているのだ。こいつらは私と巨大な狼との戦闘をじっと眺めているだけで、今の所手出しはしてこない。しかし、このモンスター達が私の動きを監視している場合、私の動きがこいつら全体に知られてしまう恐れがある。それが嫌だ。
そんな我儘を言ってられないくらい余裕がなくなれば私もスキルを解禁するが、そうでもないので、まだ使うつもりはない。私もこんな縛りプレイのようなことはしたくないのだけれど、嫌な予感がするのでどうしても使いたくない。
強情なのは理解している。使ってしまえば楽になるかもしれない。じゃあなんで嫌なのか。
私は確信しているからだ。この中のどこかに、私の動きの全てを監視して、その情報をマオウペンギンかあるいはその他のモンスターに届けているモンスターがいるということを。
これは自意識過剰じゃない。だって私、そういう影でこそこそ動くモンスターがいるような展開をゲームで散々見てきたから!
そしてどこかで報告するのだ。こういう動きをしていました。警戒したほうがよろしいかととか。そしてその情報が漏洩をしていたことを知らずにスキルを使った結果、見切られてピンチに陥ってしまうまでが流れだ!
絶対そんなことになってたまるものか! 私の個人情報はそんな簡単に渡さないぞ!
「キサマ。ホントウニ、ソノカマダケデ、ワレニカツツモリナノカ?」
だって、そういう無茶ぶりされるのが会社員ですし。NOなんて言うのが許されずYESという答えのみが許されるのだ。厳しい世の中だねえ。世知辛いねえ。
「!」
やれること。鎌をもって突撃して、足を斬りに行くこと。徹底的に足狙い。足にダメージを蓄積させて、動けなくさせるとか単純な作戦でいく。まぁ当然そんな狙いは読まれてしまっているけれど、そんなの関係なく突撃だ!
「ムダダ。キサマノコウゲキナド。アタランゾ。」
そりゃあ、そう簡単に当たるわけがないのは分かっている。アクションゲームやシューティングゲームなんかでは、敵に必ず攻撃を当てるなんて言うのは理想そのものだ。当てるというのは単純にして難しいということは私がよく知っている。
だからこそ、どうやって当てればいいのかを考えるんだよ。
「!」
一生懸命走って巨大な狼に近づいて足を斬り裂くに行く。しかしバックステップで簡単に回避されてしまう。やっぱりなぁ。こいつが攻撃をしかけて接近してきたときが一番のチャンスなんだな。私が追いかけても、あんまり意味がないなあ。
「ムダダ。ン?」
攻撃が当たった。いや、さっきへし折れてそこらへんに落ちていた木の枝と石ころを投げてみただけなんだけれど、当たった。全くダメージを与えていない攻撃を当てたから何なんだということは何も問題ない。
むしろここで、攻撃を当てたという事実の方が重要だ。
「…。」
「ナンダ、イマノガアタッタテイドデ。」
今のが当たった程度ね。つまり、今のが致命傷を与えるだけの攻撃だった場合どうなっていたのかということだ。攻撃が当たるということはそういうことだ。たかが木の枝と石ころであっても。これが木の枝じゃなくて鋭利な刃物だったら? 石ころじゃなくて爆発物だったら。
今の攻撃が当たったということは、そのような致命傷になる攻撃も当てられたということになる。さて、こいつはどう思うかな。私は、またしても石ころを投げてやった。
「…。オイ。フザケテイルノカ。」
気分がいい。とてもいい。おちょくっているのが楽しいのではなく、こいつは油断をしているということがだ。私はそういう油断しているところを狙うのが好きだ。ひょっとしたらこいつは油断している振りをしているんじゃないかとも思ったけれど。更に何個か投げつけてやると、やはり全くかわす気がないようだった。
「コノワレヲ! ワレアイテニ! フザケタコトヲ! シヌガヨイ!」
そんでもって怒り出して突進してきた。これも狙っていた通りだ。よし! このままこっちのペースに巻き込んでこいつを倒すぞ!